04

 ダイクロフト開発チームに与えられた役割は、地上軍勝利の決め手となる兵器の開発協力であるらしい。マナも同じく、天上軍で研究所に詰めていたこともあり、その手伝いをすることになった。


「この兵器の特徴は、晶術というレンズエネルギーを使用した攻撃ができること。使い手の人格投影をすることも併せて、コアクリスタルって核が重要になるわ」
「はあ」
「理論は完璧なんだけれど、地上軍には私の手伝いができるレベルの人員が足りないのよね〜。で、あんたたちダイクロフト開発チームの出番ってわけ。きりきり働きなさいよ!」


 るんるんとご機嫌で設計図を広げるハロルド。
 だが、マナにはわからないことがあった。


「人格を投影と言いましたが、使用者はその負荷に耐えられるのでしょうか」
「そこは仕方ないわね。作戦の一回だけ使えればいいって感じだし」
「我が軍では生体兵器として生物にレンズを埋め込み、能力の強化をしています。ですが人体に適用した場合には精神の崩壊等、重大な欠陥が認められ、使用は限定されています」
「だからこそのソーディアン、意思を持つ剣なわけ。使用者と共に学び成長する、生きる兵器なのよ」
「使用者の人格を投影することで分身を作り、両者の思考をリンクさせることで一体化を。分身であれば使用者に悪影響は及ぼさない、そういうことでしょうか」
「理論上はね。同一人物が同時に存在するなんて現実に起こりうることじゃないから、そこら辺はあくまで憶測よ」


 それでもまだ納得のいかない顔をしたようなマナに、ハロルドは指を突きつけてきた。


「それより!あんたレンズを使った生体兵器に詳しいの?」
「詳しいかはわかりませんが、生体兵器を扱う研究に関わったことはあります」
「なるほどね。ウチじゃ作ったところでダイクロフトに運ぶのも大変だし、コスパが最悪で手は出していなかったけど。ソーディアンに応用できるところがあるかもしれないわね」


 適用方法と諸々の仕組み、詳しくまとめておいてちょうだい。そう言ってハロルドはソーディアン開発の指揮に戻って行った。
 どうまとめたら良いのか?わからず周りの研究員に聞こうとしたが、それぞれ自分の担当で忙しない。
 マナは邪魔にならないよう、自室で課題に向き合うことにしたのだった。


 基地内の踏み固められた雪道を、書類を抱えながら地下に与えられた自室へと黙々と歩く。
 すると、奥の方から激しい剣戟の音が聞こえてきた。
 ふらりとその音にひかれ足を向けると、そこでは数人の兵士たちが訓練なのか打ちあいをしている。その面々には丁度見覚えがあった。


「どうした、こんなことでふらついていては次の連携に支障がでるぞ」
「ぐっ、はあ…はあ。すみません、ディムロスさん」
「一度休憩にしようか。シャルティエも疲れただろう」
「いえっ、大丈夫です!僕ならまだ――」
「疲労した状態では集中力も低下する。そのような訓練は無駄にしかならない」
「それでは10分ほど休もう。休みながら動作のイメージトレーニングをしておくと良い」
「はい、すみません。…あれ、あなたは」


 息を切らせながら額の汗をぬぐう青年が、やっとこちらに気付いて声をかけてくる。
 失礼にならないようにとマナは一同に敬礼をした。


「研究チームと行動を共にしているマナと申します。先日は護衛していただきありがとうございました」
「君か。そういえば自己紹介がまだだったな。私はディムロス=ティンバー、ソーディアンチームの一員だ。君たち研究チームと関わることもあるだろう、よろしく頼む」
「そうだね、ここにいるのはソーディアンチームのメンバーだ――まだ他にもいるけれど――せっかくだし自己紹介しておこう」


 青髪のディムロスと名乗った人物の向こうから、穏やかそうな物腰の青年が顔をのぞかせる。
 彼はそこにいた別の二人に手招きをすると、マナの前に立たせた。


「私はカーレル=ベルセリオス。君に手伝ってもらっている工兵隊隊長ハロルドの双子の兄だ。よろしくお願いするよ」
「それは、ハロルド殿をですか?あなたをですか?」
「はは。両方と言いたいところだが、特にハロルドを頼むよ」
「了解しました」
「えっ。いいんですか、了解しちゃって。その方が色々と助かりますけど…って、あっすみません。僕はピエール=ド=シャルティエです。歳の近い人はあまりいないから、なんだか嬉しいです。よろしく」
「はい。どうぞよろしく」
「私もよろしく頼みたいな。イクティノス=マイナードだ、情報将校をしている。空中都市のことなど教えてもらいたいものだ」


 空中都市。その言葉を聞くと胸が涼しくなった。


「そのことについてはあまりよろしくできないかもしれません。私はヘルレイオスとダイクロフトの一角しか知りません」
「君は…天上軍の中でも階級は高いのではないかと思っていたのだが」
「いいえ。私はあまり上部のことには関わっていませんでした。天上軍では兵器開発にしか携わっていませんでしたから」


 兵器開発と言った途端に皆の顔がしかめられる。


「あまり、そういうことを…基地では話さない方が良い。兵士たちは良い思いをしないだろう」
「そうですか。けれど、それは何故なのですか?」
「何故って。あなたが造った兵器が地上軍を攻撃しているからですよ」
「いいえ、私は兵器は造っていませんし、攻撃はしていないはずです」
「兵器開発をしていたのに、造っていない?実戦投入はされなかったということか」
「はい、私は良い結果が出せなかったのです。なので上層部からの覚えも良くありませんでした」
「だから…地上軍に来たのかい?」
「…それは関係ありません。ラディッツ殿に言われたので着いてきただけです」


 重い空気はなくなったが、今度は少し見開かれた目で見つめられてしまった。
 そのようにまじまじと見られることはあまりなかったので、どうしていいのかわからなかった。
 もう行こう。彼らの言う休憩時間は終わっているし、マナにもやらなければならないことがあるのだった。


「休憩の邪魔をしてしまったようです。私はもう行きます」
「あ、きみ――」


 踵を返して真っ直ぐ自室へと向かう。椅子を引いて書類作成に取り掛かる。
 いつもならば難なく終わるはずだった作業なのに、この時は何故か遅々として進まず長引いてしまった。
 誰にも言わず研究室から出て行き、長く戻らなかったマナは、探しに来たハロルドに怒られてしまうのだった。







2016.03.21投稿


 
back top