05

 ハロルドに研究者チーム共々酷使されること数日。
 天上軍に対抗する切り札である兵器・ソーディアンの完成が近いということで、調整のためにと物資保管所という場所に向かうことになった。


「コアクリスタルも完璧!本体との出力バランスもOK!後は実戦で使用してみて微調整を入れるくらいかしら。ん〜っさすがの出来栄えね!我ながらホレボレするわ〜♪」


 満面の笑みで達成感を表現するハロルド。それに劣らず、やり遂げたと安堵の息を漏らすダイクロフト開発チームのメンバーたちも互いに手を取り喜びを分かち合っている。
 そんな中でも表情を変えずに一人佇むのはマナであった。


「どうした、マナ?君も手伝ったのだろう。喜んでも良いんだよ」
「ラディッツ殿」
「それとも、何か気になることでもあるのかな?」
「わかりません」


 俯き首を振るマナに、彼は何かに気付いたのかふうむ、と頷く。
 頭上からの音に彼女は顔を上げたが、その途端にハロルドと目が合ってしまって慌てて目線を逸らした。
 ハロルドが何やら言っていたが、それも良く聞こえない。それほどにマナは思考に夢中になっていた。


「君は、地上軍に来てから変わったね」


 相変わらずマナに向き合っていたラディッツが言う。


「何かを目で追ったり、誰かに反応を返したり。以前はそういうことはなかった」
「そうでしょうか。話しかけられれば返答はしていました」
「そうやって、反論することもなかったね」
「……」
「良いことだと思うよ。君はもっと、一人の人間として感情を知るべきだ」


 カンジョウヲシル。
 それは、とても曖昧な言葉だった。真っ白で、到底理解のできない、必要のないはずのものだった。


「何故」
「ん?」
「何故、彼らはこのような貧しい地上にいて、そして強大な天上軍に弓引こうとするのでしょう。理解ができません。そんな考え、愚かしいものだとあの方は一掃されるでしょう」
「けれど、彼らは勝とうとしている。不利な状況を打開しようとしているね。それはとても尊いものだと思わないか」


 優しげな目を細めて、彼は微笑んだ。


「そしてそれこそが、私たち研究チームが助けたいと思った、人々の希望なのだよ」
「希望?希望などない!我ら優れた天上人と天上王に敗北などありえないのだ!」


 胸の奥から湧き上がった強い感情に、耐えきれず言葉が口をついていた。
 ハッとして口を塞ぐが、もう研究所の目は彼女に集まっていたのだった。


「珍しく大きい声出したと思ったら、場違いも甚だしいわね。ここだからまだ良かったけど、基地で言ってたらあんたリンチものよ」
「あ、わた、私…」
「どんな理由があるにせよ、地上軍に来たならそういうのは言わないことね」
「でもっ!天上軍が負けるわけ…負けたりしないもの!優れた…天上人が、」


 喋っているうちに、何が言いたかったのかもわからなくなっていた。
 ただ、何かを言わなくてはならなかったのだ。


「あんた、何を認めたくないの?」


 だから、ハロルドの言葉が、やたらすんなりと心に収まったのも気のせいでなくてはならなかった。


「――もどる」
「マナ?」
「私は、天上軍に戻らなくては」


 胸のざわつきと、皆の視線と、何より口に出してしまった言葉が、マナの足を動かした。
 腹の奥から湧き出る生ぬるいものが、どうしようもなく彼女をかき立てたからだった。







2016.03.23投稿


 
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