12
天高く積まれた瓦礫と、ガラクタの山を見上げて、
ナナリーはため息をついた。そして口元を覆う。
トラッシュマウンテンは数えるほどしか来たことがないが、この独特のガスの匂いだけはいつもうんざりする。
「ホント、よくこれだけのゴミが出たよね」
見渡せば辺りに所狭しとわけのわからない物々が転がっている。
足場も悪ければ、見通しも悪い。戦いにくさとモンスターからの不意打ちが普通より体力を削ってくる。
まったく、どうしてこんな場所ができてしまったのだろう。苛々をそのまま文句に変えて口に出した。
「困ったもんだよ、本当に」
「天上軍…というよりも、天上人がいかに豪勢な生活をしていたかという証拠だな」
使えなくなったら捨ててしまえばいいという考えだったんだろう、と話に乗ってきたのは意外にもジューダスだった。
話題はこちらを向いているけれど、彼の目はこっそりとマナをうかがっているようだった。誰かの気を引きたくてわざと悪いことをしたような子どものような仕草だ。
同じ年頃の子と比べると大人びたような彼は、たまにそういう一面を見せる。まだ会って間もないのにそんなことに気付いてしまうのは、自分が未練がましく"姉"だということに拘っているからだろうか。
そんなジューダスの視線に気付く様子もなく、マナは黙々と先頭を歩いていた。かわりに彼の言葉に反応したのはロニだ。
「おいー、なんとかしろよナナリー。おまえのご先祖さまたちなんだろ?これ捨てたの」
「そういう文句は、本人たちに言っとくれよ。なんなら、今度は過去に行って、直接文句言ってきたらどうだい?」
「おいおい、カンベンしてくれ。時間旅行は一回やればじゅーぶんだよ。…っと、マナ、どうした?」
ナナリーを振り返りながら歩いていたロニは、マナがこちらを見つめているのに気付いたようだ。
立ち止まった少女を追い越したカイルとリアラも、不思議そうに振り返った。
「このガスで気分でも悪くなったか?だったら歩くペースを落とすか」
「ただでさえ慣れないと酷い暑さだしね。無理はするんじゃないよ」
眉根を寄せるマナの体調を心配したけれど、彼女は首を横に振った。具合が悪いわけではないらしい。
リアラは、また何かあったの?とロニに聞いていたけれど(なにをしでかしたんだろう)、多分、彼女はナナリーのことを見ていたのだと思う。カルビオラへの道中も何度か目が合った。ただもの言いたげに見つめているだけだった。
――ホープタウンで数日過ごすうちに、マナは随分と住人たちと打ち解けていたようだった。どこからか拾ってきたものでレンズ式の機械を作っては、皆で使えるようにしてくれたので、街の母親たちから感謝され可愛がられていたり。何故か、街はずれに住む偏屈で有名なじいさんにも大層丁寧にもてなされていた、なんてこともあった(ちょっと異様な雰囲気で怖かったが)。
ただ、不思議なのは頑なに連れの者たちとは言葉を交わさないことだ。
ナナリーや街の人々とは少し無愛想ながらも会話をするのだが、それがジューダスやロニ、途中で合流したカイルやリアラに対してはおかしなくらい話そうとしない。
それどころか距離をとっているような気すらした。
トラッシュマウンテンを知り尽くしているような足取りで進む彼女は、結局カルビオラに着くまで一言も発さなかった。
「これが、聖地カルビオラ…ずいぶん変な形してるね」
荘厳なドーム状の建物を目の前にそう評したのはカイルだ。ここに神さまが祀られているとかいう話なのに、身も蓋もない言葉にクスリと笑う。
笑い話になりそうだった話題は、けれどふと気付いた違和感にたちまち背筋が冷えるようなものになっていた。
この場所はなんだかおかしい。やけに心地よい気温だし、こんな砂漠の中だというのに砂の一粒だって落ちていない。
さっきまでと別の世界にいるみたいだ。
「…誰か来るぞ」
少しの間の沈黙を破ったのは、ジューダスだった。
その言葉の後に遠くない距離から足音が聞こえて、慌てて物影に隠れる。
どうやら丁度人が出て行く時間だったらしい。今のうちにと急いで中へ侵入する。
「今がチャンスだ。やつらが戻ってこないうちにとっととレンズを探して、こんな時代とはおサラバだ」
「『こんな時代』で悪かったね」
ロニの軽口に乗せられて反論していると、ジューダスからうるさいだなんて注意が飛んできた。
けれど確かに騒ぎすぎてしまったのか、あと一歩というところで神殿の人間に気付かれてしまう。
「神の御前を汚そうとするふらち者め!覚悟しろ!」
まだ少人数だけど、きっとすぐに増援が来てしまうだろう。先手必勝、とばかりに弓を構えた。
――その時。
「うわああああ!」
巨大な岩壁が中空から現れた。
岩は神官を潰し、部屋の出入り口を塞いでいる。
「マナ…?」
誰がそんなことをしたのかと、咄嗟にいつも後衛で術を使うリアラを見たけれど、彼女は違う者の名前をこぼす。
その視線の先には、幼い容姿に不釣り合いなくらい酷薄な表情をした少女がいた。瓦礫を見詰める横顔はなにか強い感情が宿っているようで…ガラにもなくゾクっとした。
「…今のうちにレンズを探すぞ」
惨状を取り繕うように皆を促して、ジューダスが目の前の扉の向こうへ進んだ。
マナを窺うように一瞥してカイルたちも後に続く。
「マナ」
崩れた壁を睨みつけていた少女にそっと声をかける。何か別のものを見ているような、あらぬところに向けられていた目線がフッと上がり、我にかえったようだった。
「みんな行っちまったよ。遅れないようにしないとね」
「ええ」
いつもの無表情に戻った様はやはり、浮世離れしたようなのに、微かに聞こえた相槌はなんだか迷子のようだった。
ちぐはぐな少女の有様がどうにも危なっかしくて。さっきの底知れない恐怖もどこかへやって、ナナリーはマナの背にそっと手を添えてしまった。
彼女がすぐに歩き出したから、触れていたのは一瞬だったけれど。その身体はわずかに震えていたような気がした。
2021.06.27 投稿
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