03

 沈みかけた船を宙に浮かせてみせたリアラは、乗客たちの歓喜の声の中倒れてしまった。力が足りない、と言っていたのに自分の限界以上のことをしたからだろう。
 一行は、船長の好意を受けてフィッツガルドのリーネ村というところで彼女を休ませることにした。そこからは歩いてノイシュタットへ行かなければならないのだという。
 下船の準備をしている時、カイルがそうだ、と声をあげた。


「ねえ、あの女の子はどこにいっちゃったのかな?」
「あの女の子って誰のことだよ?」
「ほら、俺たちを助けてくれた子だよ」
「まさかカイル…あいつも連れて行く気か?」


 ドキ、と心臓が跳ねたのを顔に出さず、ジューダスは二人の様子をうかがった。
 怪訝な目であごを掻くロニは、関わりたくないと態度から滲み出ている。
 カイルはそれを見て頬を膨らませて抗議した。


「えー。だってあの子さ、俺たちのこと何度も助けてくれたじゃん!それに、地下水路で会った時から、不思議な子だなって思ってたんだ。あの子といたら面白いことが起こりそうじゃない?」
「お前の言う面白いことなんて、もう嫌ってほど起きてるよ…」
「ねえ、ジューダスはどう思う?」


 ふいに振られた話題に、内心落ち着かない気分になりながら平静を装う。
 はあ、とひとつため息を吐いた。


「どうせ止めても聞かないんだろう?好きにしろ」
「ほら、ジューダスも良いって!」
「はあ?」


 なんで止めないんだ、とロニの視線が突き刺さる。けれどあの少女を捕まえておきたいのはジューダスも同じなのだ。
 どうでもよさそうな風を装って、部屋を出て行くカイルの背を目で追いかけた。


「まったく、カイルの考えなしにも困ったもんだぜ」
「お前がそれを言うのか?」
「へっ、言ってろよ」


 不機嫌そうなロニと二人のこの空間はいささか空気が重い。
 それは向こうも同じだったようで、そわそわしていたと思ったらおもむろに部屋を出て行った。きっとまたナンパでもしてくるのだろう。結果は見えているが。


「あれっ、ロニは?」


 そう間もないうちに、再び部屋のドアが開かれた。
 もっと説得に時間がかかるものかと思っていたが、無事に例の少女を連れてきている。
 彼女の方にもなにか同行する理由があるというのだろうか。だがジューダスにも確かめたいことがある。一緒に来るというなら好都合だ。


「良く説得できたな」
「へへっ、まあね!…なんて、マナはすぐにいいよって言ってくれたんだ」
「…マナ、というのか」
「そうだよ。マナ、こっちはジューダス。ジューダスも俺たちのことを助けてくれたんだ」


 やはり、名前も同じであるし、彼女がシャルティエの言っていたマナであることは間違いないようだ。
 少女の表情を見逃すまいと見つめるが、彼女は伏せ目がちに感情のない顔で佇んでいるだけだ。相槌も打たないし、一言も発さない。
 ジューダスはマナの声をどうにかして聞きたかった。あの怪物と戦った時に聞いた、彼女の声が――姉さんの、カリナのものとそっくりだったから。
 それが自分の願望による幻聴なのか、本当に同じ声の主なのか。もし彼女がカリナなのだとしたら何故ここにいるのか、千年前の人間だということは本当なのか…聞きたいことはたくさんあった。
 しかし彼女の唇は動かない。


「マナっておとなしい子なんだね」


 カイルは呑気にそんなことを言っていたが、やはり黙り込んだままの得体の知れない彼女は、正直、少し気味が悪かった。あまりに外見に不相応な態度だったから。
 幼い少女の虚ろな瞳を見つめながら、何かを探ろうとしてもひとかけらの情報も見当たらなかった。







2019.03.26投稿


 
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