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飛び出したリアラをエルレインから救出し、ストレイライズ神殿から持ち出されようとしたレンズを奪還しようと、
ロニたちは飛行竜を追いかけて乗り込んだ。
「飛行竜に追いついたのはいいけどよ。これから、どうするんだ?」
持ち出されたレンズは、研究用だとかでかなりの量がある。とても抱えて持ち出せるようなものではない。
そこで、ジューダスの提案で、飛行竜の動力を止めて海へ墜落させることにした。
まあそれしか方法はないのだが、自分たちの乗っている巨大なものが墜ちるのを想像すると、ゾッとしない。
うへぇ、という顔をしながら動力室へと向かったら、あちらも拒むように部屋への扉を閉ざしてきた。すかさず障害を破壊しようとするカイルに無駄だ、とジューダスが言った。
「飛行竜は、限りなく生き物に近い機械だ。これを壊してもすぐに再生する」
「じゃあ、どうすればいいの!?」
「飛行竜の体内にある制御装置を破壊するんだ。全て壊せば、このロックも解除されるだろう」
それにしてもよくもまあ、こんな飛行竜のことまで知り尽くしていることだ。やっぱりどう見ても自分より歳下の持っている知識とは思えない。
疑うような気持ちで詮索するのはやめたが、好奇心が刺激されるのは仕方のないことだろう。道中のグロテスクと言っていいような仕掛けに苦戦しながら、頭の片隅でそう考えた。
「リアラ、気をつけて。ここ滑るよ!」
「ありがとう、カイル」
手を差し出されたリアラは嬉しそうにカイルに手を伸ばす。思い詰めて暗い顔をしていたのが嘘のようだ。まだ時折悩んでいるような素振りは見せるけれど、カイルにかかればきっとそれも晴れてしまう。
どちらかと言えばロニが気になるのは、その後ろで手を貸そうか迷いつつマナの方を見ているジューダスだ。普段の不遜な態度はどこに行った?と聞きたくなるくらいに所在なさげだ。
マナはといえば、背後の葛藤に気付くでもなくあいかわらず無表情に突っ立っているだけなのに。…いや、飛行竜の障壁が破壊される度、僅かに眉を顰めていた気もするが、それくらいだ。
あの霧中の小屋の中で、彼女はジューダスを庇うような素振りを見せた。だから二人とも面識はあるのだろうし、何がそこまで躊躇させているのか、さっぱりだ。
話したいことがあるなら話せばいいのに。話せなくなってからでは、遅いのだ…。らしくもなくモヤモヤした思考を吹き飛ばすように、目の前の景色に目を向ける。
「なんなんだよ、この気持ち悪いやつは…」
「飛行竜は生体金属で作られたものだ。ある程度は生き物の構造を成しているのだろう」
「それにしたって、これはなあ」
狩ってきた獲物を捌いて内臓をとりだしたりするのは何も思わないはずだったが、その中に自分が入っていると思うと途端に嫌悪感を抱いてしまう。人間が乗るものにこんな機関を付けるなんて、造ったやつらも随分と悪趣味だ。
滑る壁やら床やらを眺めて腕をさする。と、背後から視線を感じた。
「マナもこんなとこ、うんざりだろ?」
「……」
少女は両手をキュッと握りしめて、何も言わずに顔を背けた。
その表情は強がりとか拒絶とかではなく、少し悲しげに見えた。飛行竜に何か嫌な思い出でもあるのだろうか?引っかかりを覚えて首を捻る。
考えてもすぐには分からなかったが。
飛行竜を墜落させ脱出しようとした一行は、エルレインの罠に嵌まって爆発に巻き込まれそうになった。
咄嗟にリアラが機転をきかせて皆を安全なところに移動させ、安心したのも束の間。そこには目を疑うような光景が広がっていた。
「…なんで、あれがあるんだよ…十八年前に、スタンさんたちが、ぶっ壊したはずだろ!?」
空にはポカンとあいた穴のように、ダイクロフトか浮かんでいた。
あれはロニにとって仇のようなものだ。
ヒューゴやカリナ、リオンとかいうヤツらが世界を滅ぼそうとした先の戦い。ロニはあの戦いで、家族をなくしていた。かすかに覚えているしあわせが破壊された象徴のようなものだった。
憎しみとともに空を睨みつけていると、後ろからリアラの声が聞こえた。
「ど、どうしたの?マナ」
一番後ろの方に佇んでいたマナ。
振り返って見ると、彼女は静かに、静かに泣いていた。
何も言わず、涙だけが頬をつたっていく。けれど大きな緑色の瞳には、裏腹に様々な感情が見えたような気がした。
皆はその姿に唖然としていた。何故泣いているかがわからなかったし、どんな慰めの言葉をかければ良いのか、──かけても良いのか、わからなかったからだ。
「なあ、マナも18年前に親を亡くしたとかなのか?」
ロニはジューダスにこっそり尋ねる。
「なんで僕に聞くんだ」
「どうせ本人は喋らないだろ?お前はマナのこと多少知ってるっぽいし…その割にはよそよそしいけど、まああの歳頃の子はそういうもんだよな」
「でも、それだとマナの歳とは合わないんじゃないかしら」
「そういやそうだな…」
じゃあ、セインガルドの名家だったけどあの騒乱で一家離散してしまったとかだろうか?そんな話も少なくはなかったと聞いたことがある。今や王国は滅びたも同然だ。
ただ自分の生まれていない時のことを思うにしては、あの涙は実感がこもったもののように思えたけど。
飛行竜での寂しげな顔も、多分関係のあることなのだろう。
憶測を重ねてみても結局結論には辿り着けない。
答えを求めるようにジューダスをうかがった。
「彼女のことは…僕もよくわからない」
らしくもなく彼はうつむく。
わからないなんて言っておきながら、どうしてか似た表情をするものだ。それが答えのような気もするのに。
前方にはナナリーに肩を抱かれて歩くマナがいる。
殿をつとめながら二人を見つめるジューダスの指はずっと剣の柄を弾いていて忙しない。
そういえば同じようなことを孤児院のガキがしていたな、なんて思い出して、でもやっぱり口に出すと倍にもなって返ってきそうだったのでそのまま呑み込んだ。
2022.03.21 投稿
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