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連戦に次ぐ連戦、バルバトスとの戦闘。あまりに酷使した身体は既に限界を訴えている。
けれど走る足が止まらないのは、この先に待つであろう人物のためだろうか。
結局、ソーディアン完成の後ダイクロフト攻略作戦を迎えた今も、地上軍にいるマナは拘束されたままだ。
ソーディアン・シャルティエの知っている展開と異なってしまった今、ここから先はもうどうなるかわからない。
ジューダスは珍しくうるさい鼓動を落ち着かせようと息をゆっくりと吐いた。
「いた! ディムロスさんたちだ!」
玉座の間に着くとすぐに剣を鞘から抜く必要があった。
ソーディアンチームの戦闘は終わってはいない。
神の眼を背に、彼らを迎え討つ男がいる。あれがきっとミクトランだ。
そして、その前には──
「マナッ!」
「退くんだ、マナくん!」
「マナさん…どうして…」
金色の髪を揺らしもせず、彼女は冷たい眼差しで目の前の敵を眺めている。
信じ難いことに、あのソーディアンチーム6人を相手にしても涼しい顔を崩さずに応戦しているようだ。
「おかしなことだな、マナ?どうしてずっと天上にいたはずのお前のことを下賤な地上人どもが知っているというのだ」
「…おそらく、ベルクラント開発チームの研究員たちにでも私の話を聞いたのでしょう」
顔色ひとつ変えずに淡々と答えるマナに、誰かが、ずっと天上にいた?と呟いた。
その声に反応してか彼女の杖を握る手に力がこもる。
「無駄な口を叩く暇があったら、攻撃の一つでも通してみせなさい、地上軍!」
「クッ…、どうなっているんだ!?」
「混乱している場合ではないぞ、我らはなんとしてもミクトランを討たなければならんのだ!」
ディムロスが檄を飛ばしてはいるが、一度"マナ"に同情をしてしまった分、戦いづらいのだろう。アトワイトやシャルティエ等は戸惑いが影響して、わずかにだが刃が鈍ってさえいるようだ。
大分苦しげな戦況に、ハロルドが側にいることも忘れて、カイルが焦った表情を見せる。
「ねえ、あれって俺たちといたマナだよね!?なんとか…手を引いてもらえないの?」
「それができるならマナはそもそもあそこにはいねえだろ!」
「でも、こんなの!」
そう言い合っている間にも、マナは間断なく晶術を放つ。
何の迷いもなく戦う様子を見る限り、彼女の意思を変えることなどできそうにもない。
どうして、かつては自分の境遇とリオンを重ねて、なんとか逃げさせようとまでしていたのに。今はソーディアンチームと冷静に戦っているのか?
彼女の経験した千年前と、あれだけ忌避しようとしたのと同じ状況に陥っているというのに──いや、
「この時代のソーディアンチームは、マナと深くは関わっていない…」
「ど、どういうこと!?」
これが狙いだったのか、と今更になって気付いた。
この時代のマナの立場を危うくさせることで、ソーディアンチームとの関わりを減らす。そうすれば必然と彼らの関係性も変わる。
いくら先日の拘束の件で彼らがマナに同情しようと、元の天地戦争時代で彼らが経たはずの時間や築いた信頼は、この時代ではなかったことになる。
今目の前にいるマナにとって、この時代のソーディアンチームは、彼女の知っている彼らとは別人だ。
「なるほど、親しい関係になる未来もあったのね」
未練や感傷を感じさせずにハロルドが頷く。
「でも、その"変わった関係性"に当てはまらない奴がここにいるじゃない?」
「……シャル、」
『…………』
そう、ジューダスの持つソーディアン・シャルティエも、かつての天地戦争時代を経験した身ではある。
それはジューダスにもわかってはいたが、シャルティエにとっては酷な方法ではないかと思っていた。案の定、しばし沈黙が続く。
『僕しか、』
やっと絞り出された声は苦しげだ。
『もう、僕しか…あの時代の経験を共有できる存在はいないっていうことですよね』
「…そう、だな」
『っマナ、さん…マナさんっ!』
ハッ、と一瞬だけマナの攻撃が鈍ったような気がした。
だが、また何事もなかったかのように晶術が繰り出される。
勇気が揺らいだのかまたシャルティエは押し黙り、けれど涙声にも聞こえるような音で呼びかけを続けた。
『マナさん!!ずっと貴女と話したかったんです、ずっと…あの日のことを謝って、仲直りしたかった!』
「……っ」
今度こそ、彼女の攻撃に動揺が見えた。
『あの日、僕のことを気遣ってくれたのに、僕は自分のことばかりで…あれが最後になってしまって、後悔してたんです!』
「……や、」
『でも僕は、ずっとあなたとの約束が心残りで。ねえ、覚えていますか──』
「やめてぇっ!!」
話続けるシャルティエに、ついにマナは声を荒げた。
杖を握る手が震え、肩で息をしている。
「今さらそんなことを言って何になるの、もう…もう、」
彼女の視線がこちらを向く。
「もう、お前たちが私たちにしたことは覆らないのに!」
怒り、悲しみ。ごちゃ混ぜの瞳が薄い膜を張って睨む。
「地上人と天上人は同じだと言っておきながら、千年もの間あんな場所に縛りつけて迫害してきたくせに!」
『それは、』
「お前たちのことなどもう二度と信じたりしない!私には天上さえあればいいのっ!」
感情に呼応するかのように、一層強力な晶術が降り注いだ。
彼女の狙いは完全に、ジューダスの持つシャルティエに定まっている。
まさか、マナと相対する時が来るなんて。
全く予想していなかったわけではない。だがこうならなければいいと望んでいたのに。
「いくぞ、シャル!」
『…はい、坊っちゃん!』
未練を振り切るように刀身を振る。
手加減をして無事で済む相手ではない。
久々に手にしたソーディアン・シャルティエは違和感なく手に馴染んだ。
「歴史を変えさせるわけにはいかないんだ、貴女を止めさせてもらう」
「……あなたも」
ジューダスを見据えたマナが涙を湛えたまま睨む。
「地上軍に奪われたものの、ひとつなのに」
「!…やはり、姉さん!」
「どうして私の邪魔をするの」
歓喜とも悲しみともつかない震えが背中を駆け抜けた。
ああ、この人は共にいたあの人だったのだ。
だというのに、戦うしかないのは、どんな運命の悪戯だろう。
それでも、まだ諦めるわけにはいかない。
エミリオにとっても、マナは大切なものなのだから。彼女を止めるのは自分でなければいけないのだ。
あの日の思い出を確かめるように、シャルティエの柄をギュッと握りしめて、ジューダスは彼女を見据えた。
2023.11.26 投稿
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