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 今までミクトランへの道を塞いでいたマナの標的が変わったことで、ソーディアンチームはようやく本来の目的へ攻撃を始められたようだ。
 僅かに押され始めた天上王の姿を見て、ハロルドの胸は段々と高鳴ってきていた。
 自分の作り出したもので歴史が変わる。新たな時代が作られる。きっとソーディアンは、ハロルド=ベルセリオスの名前と共に後世に語り継がれるだろう。
 まあ、自分のいない時代での評価にはそこまでこだわりはないけれど。


「チッ、ちょこまかと小賢しい…早く片付けてしまえ、マナ」
「…っはい、」


 自分に歯向かってくる敵を鬱陶しげにいなしながら、ミクトランがマナを呼んだ。
 だが、彼女は歯切れの悪い返事をする。
 確かに彼女の攻撃は、ジューダスたちの言葉からの動揺があるにしても、段々と威力も精度も落ちてきている。
 それもそうだろう。あの子の"構造"を考えれば予想してしかるべき状態だ。
 彼女は無詠唱で強大な威力の晶術を発動できる。けれど際限なくというわけにはいかない。
 さらに言うと、今目の前にいるあの子は地上軍基地にいたマナではないらしい。もっと未来の存在だ。
 耐久年数を考慮しなくとも、これ以上戦わせたらきっと命に関わる。だというのに。


「ああ、もう限界か?これだから出来損ないは」


 ミクトランは、あろうことかマナの有り様を冷たく嗤った。


「いつまで経っても雑魚すらも蹴散らせぬとはな。もういい、最期に一人でも道連れにしてゆけ」
「それは、私は…!」


 マナの言葉も拾われることなく、無慈悲に神の眼が強烈な光を放った。
 目を瞑っても刺されるような光量が断続的に視界を白くする。数瞬の後、静まったかのように思えた神の眼は、一際強く光った。
 途端、レンズエネルギーが数多の稲妻となり、一処に集う。
 ──マナの元に。


「いやあああああぁぁ!!!!」


 エネルギーの雷に撃たれたマナの目が見開かれる。
 胸元を掻きむしって、ゼエゼエと聞こえるほどに呼吸が苦しそうだ。
 幾許もなく、彼女は崩折れ項垂れる。
 その足元には、無数の陣。それらはすぐに牙を剥いた。


「避けろ!」
「うわっ、晶術ってこんなに一気に発動できるものなのか!?」
「こんなの、まともに食らったらまずいよ!」


 あらゆる属性の大小の晶術が息つく暇なく降り注ぎ、回避に徹することを余儀なくされる。
 術の衝撃による煙で、少し先の視界もはっきりしないような大混乱の様相の中、ハロルドにも僅かの焦りが生まれた。


「あんな速度であんな威力の術を連発してちゃ、あの子の身体が保たないわ!」
「…っどういうことだ」
「晶術の発動のためのレンズが、エネルギーに耐えられないのよ!このまま術を使い続けてたら動けなくなって…最悪の場合は死ぬわ」
「よくわかんないけど、マナをどうにかして止めないとなんだろ!」


 近くにいたらしいジューダスとカイルが焦った声で返す。
 他の皆もそう遠くない所にいるはずだ。


「いい?神の眼からのエネルギー供給を断つ一番手っ取り早い方法は、一旦マナの意識を失わせることよ。無意識下では晶術は使えない」
「つってもこの視界じゃどこにマナがいるかなんてわかんねえだろ!」
「わたしが風の晶術で煙をどうにかしてみるわ!」
「よし、あたしも援護するよ」


 リアラとナナリーが次々に風を起こしたことで、少しずつ視界が晴れる。
 白煙の幕をかき分けて、カイルとジューダスがマナに向かって飛び出した。


「姉さんっ、」


 呼びかけにも歯を食いしばって彼女は身体を丸める。
 マナのことを"姉さん"と呼ぶジューダスは千年後からきたと言う。だとしたら、その年月を経た後もあの子は存在していたというのだろうか。
 彼女の歴史では、天上は負けたのだろう。その瞬間を経験したまま、千年もの間、敗北を抱えて生きたのだろうか。
 だからこうも頑なに、地上軍を拒むのだろうか。


「ロニ、援護しなさいよ!」
「無茶言うな、よっ!」


 襲いかかる礫を跳ね返しながらロニが呻いた。
 その調子でお願いね!と返して、詠唱の態勢に入る。


「二人とも、行くわよ!スプラッシュ!」
「よし、隙ができた!」


 下から噴き上がる水勢に、直撃したマナの身体が僅かに後ろへ倒れた。一瞬の陣の乱れを見逃さず、カイルとジューダスが距離を詰める。
 覚悟を決めたような目で、ジューダスがマナの腕を引いた。
 痛みに耐えるように顔を顰めながらも、彼女はハッとして、止めようのない晶術が彼を掠めたのを見て、ついに自分から手を伸ばす。
 ほんの少し弛んだ晶術の隙を縫って、カイルがマナに打撃を与えた。


「晶術が止んだぞ!」
「今だ、ミクトランを倒すんだ!」
「この、役立たずめ!」


 怒りを顕にマナを罵るが、護る者のいなくなった天上王はソーディアンチームの攻撃に徐々に押されていく。
 それぞれ疲弊しているとはいえ、連携して戦う皆に敵などない。なんといっても、ソーディアンがあるのだから、負けるわけがない。
 ギリギリの攻防の中だが、段々と手傷を負うミクトランを見定めて、カーレルがディムロスと目配せをした。
 すかさずアトワイトが晶術を唱える。


「ディープミスト!」


 視界が濃い霧で塗りつぶされる。
 その中でキラリと刃が光るのが見えた。


「ミクトラン、覚悟ッ!!」


 カーレルの声が聞こえる。
 そして、ミクトランの呻き声。
 そして、


「やめて――――っ!!!!」


 虚しい叫び声が響き渡った。




2023.11.26 投稿


 
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