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 それからハートの海賊団は暫くの潜航ののち、潜望鏡で追っ手が見えないことを確認してから浮上した。
 アドリアーナの拡大魔法で周囲を見てもそれらしい影はない。相手は軍隊だ、無事な艦がないのであれば無理に追ってくることもないだろう、というのがクルーたちの総意だ。
 そうしたところでアドリアーナたちは次の島へと辿り着いた。島の周囲をぐるっとまわって海軍が来ていないかを十分確認してからの上陸である。
 たどり着いたのは春島のようだった。ろくに見て回れなかったこともあって鬱憤が溜まっていたのか、海軍を警戒して慎重に行動しろよとローが釘を刺したにも関わらずクルーのほとんどが陽気に飛び出して行った。
 思い切り溜息を吐くローの隣で、勢いに乗らなかったアドリアーナはあらまあと呑気にクルーたちの後ろ姿を眺めていた。

「あれ、キャプテンもアドリアーナも行かねェの?」
「いや……行ってくる」
「行ってらっしゃいー」

 船番兼メンテナンス担当だったカジカが顔を出し、ひらひらと手を振るのに見送られてローが船から飛び降りた。
 アドリアーナも「行ってきます」と返して同じように降りる。キャプテンはぶっきらぼうだが存外育ちが良いのか律儀なのか、言葉はきっちりと返すほうだ。姿勢の良さやカルテの纏めかた等を見るにどちらもだとアドリアーナは見ている。答え合わせをするつもりはないが。
 ともあれ仲間の後を追って歩き始めたアドリアーナの耳が遠ざかる足音を拾い、振り返る。そっちは町じゃないとローの背中に声をかけようとしてやめた。加入して日が浅いアドリアーナは慣れていなかったが、そういえば己のキャプテンには放浪癖があるらしい。
 加入したてで生活用品の買い足しだったり偉大なる航路グランドラインへの突入準備だったり、それから海兵がいたり。慌ただしくしていたので上陸した先でただのんびり観光するというのは海賊になる前が最後だった気もする。
 とはいえローほどの実力者であれば今更案じることもない。一人でなんとか出来る人だし、引き際も分かっているタイプだから大丈夫だろうなと思ってアドリアーナは放置することにした。
 
 アドリアーナは旅行が好きだ。その土地特有のものに触れることを楽しんでいる。ふらっと寄った飲食店で特産品のイチゴを使ったタルトを食べて、服を売っているあたりに寄る。衣服にも島の特色があったりするので観察してみると面白いのだ。
 春島だからか、全体的に明るく感じる。行き交う町の住人の服装なんかも明るく軽い色味であることが多い。
 偉大なる航路グランドラインに浮かぶ島は一年中その気候だからこうなるのか、と思いながらアドリアーナは観光を楽しんでいた。

「アドリアーナ!」
「イッカク?」

 ちらほらと近くに仲間がいることを分かっていたアドリアーナは特に気にしていなかったが、呼び止められて振り返る。
 唯一の同性クルーであるイッカクだ。気分転換に着替えたのか、普段見ないブラウスにワイドパンツ姿で色味も含めて春らしい装いをしていた。こちらで買ったもののようだ。

「なんだ、アドリアーナは服買わなかったのか?」
「ええ、ほら、こういうのがあるから」
「あ、そうか」

 アドリアーナは付けていたヘアバンドを指す。これだけならともかく尻尾があるので、アドリアーナは衣服の選択肢が少ない。
 ツナギも専用に尻尾穴と、それを隠すためのリボンやスカーフだったりを付けられるように改造してもらってあるのだ。それ以外に尻尾を出せる服をアドリアーナは持っていない。ハートの海賊団であることを指し示す揃いのツナギならまだしも、私服まで改造を頼むのは気が引けたので。
 だけど、とアドリアーナはイッカクの着ていたワイドパンツを眺めた。かなりゆったりと幅を取ったデザインのようだ。

「それならわたしでも楽そうね」
「見に行ってみるか?」
「試着してみようかしら。色違いあった?」
「たしかカーキとかベージュ系統だったかな」

 そういう会話をしながら連れ立って歩くふたりと入れ違ったペンギンとシャチは顔を見合わせて呟いた。

「女子だ」
「女子の会話だ……」

 彼女たちはたまにああいう、男が入りにくい空気感を出す。あれには誰も近寄れない。
 というよりはペンギンとシャチにその手の耐性がないとも言う。幼少の頃から異性と過ごすことは滅多になかったし、旗揚げまでローたちと男所帯で生活していれば当然かもしれないが。
 しいていうならベポがたまに無謀にも突っ込んでいって話についていけず、すごすご帰ってきている。
 船に戻った男たちが目にしたのはずいぶんと春らしい恰好をした女子二人だった。


 明くる日。島の外れに停泊していたハートの海賊団のもとに届けられた新聞には更新された手配書が挟まっていた。
 その手配書には自分たちが含まれていたので、朝の食堂が賑やかになる。
 ハートの海賊団に懸けられた賞金は総じて上げられていた。海軍にばかり損害を出してこちらが出したのは足止め程度の労だったからだと思われる。ローの懸賞金は億に届こうとしていたし、囮に出て戦っていたベポたちも少しばかり額が上がっている。それからアドリアーナも手配書に乗った。
 夜に撮られた写真は薄暗く、かろうじてヘアバンドをした女だということしか分からない。その写真を見せられて、アドリアーナは首を傾げた。

「夜目が利かないと不便ねえ」
「そこかよッ!」
「オイ!」
「なんかもっとあるだろ!?」

 大勢に全力の突っ込みを受けてアドリアーナはうんと頷いた。だっていずれ賞金首にはなるだろうなァと思ってたし。

「……思ったより額が低いな」
「べつに暴れてはないもの」

 箒に乗っていたからだろう。“魔女”と冠せられ、額は三千万ベリー。偉大なる航路グランドラインに入ったばかりにしては上がったほうなのではないだろうか、と思う。
 海軍の前でやったことだって足を突っかけた程度だ。靴がどうとか騒いでいた気もするがべつにアドリアーナの仕業だとは明言していないし。箒で浮いていただけだし。ただ能力者という時点で睨まれるようだ。悪魔の実とはそれだけ強い力を持っており、政府はそれを警戒している。
 どちらかといえば空を飛べるという点で懸けられた額がこれだ。果たしてこれがどう転ぶのかというとアドリアーナには想像もつかないけれど。
 海賊であるならば逃れられない道である。アドリアーナはさした反応もせずに渡された手配書をシャチへ返した。

「え、記念に飾っておかなくていいのか?」
「顔もまともに分からないのに?」
「いやそうなんだけどさ。でも一番始めの手配書だぞ!」
「いらないわ」
「ええー。じゃあおれが書室に飾っとこ」
「…………まあ、お好きに」

 自分の顔写真を飾る趣味はないが、仲間が賞金首になって喜んでいるらしいしと思ってアドリアーナは放置した。

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