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 結局アドリアーナはロゾリオ島に足を踏み入れることが出来なかったので、その体調の悪さも含めて同情したクルーたちは各々買い込んできたワインやらそれを使った菓子類やらを分けてやった。
 おかげで女子部屋の一角がこんもりと山を作ることになり、アドリアーナはありがたくそれを大事に少しずつ崩していた。生き物の気配に敏感になっているのだと分かったからこそのお土産である。

「……もしかしてメインマストに登ってない?」
「当たり!」
「帆に何かあったらどうするの……あ、いま落ちたわ」
「ゲッまじ!?」

 見てくるとペンギンが駆けていった。幸い帆が破けたり支柱に何かあったわけでもないようだが、いくらアドリアーナの覇気を鍛えるためとはいえ変な体の張り方をしないでも……。
 色々と試したりしたところ、アドリアーナの見聞色の覇気らしきものは聴覚より嗅覚のほうが鋭くなっており、そして感知している範囲は望遠魔法を使って見える範囲のようだった。つまりかなり広い。鍛えればそれ以上にも及ぶようだが、その前にアドリアーナはその取捨選択ができるようにならなければいけない。
 意識して“認識しない”ようにしようとしているわけだが、どうにも知らないものへは警戒して匂いをかぎ取ろうとする癖があるからか行く先々で人酔いを起こし体調を悪くする──ということを繰り返している。ある程度慣れれば気にならないところまでくるので一切上陸できないわけではないのだが、毎回そうだとストレスが溜まって仕方ない。
 ハートのクルーたちはもともと常日頃から生活を共にしていることもあって気にならなくなるのは早かった。
 アドリアーナはスイッチのオンオフを切り替える方面で制御を身に着けようとしていた。いっそ魔法を絡めてと色々試しているが、今のところ進展らしい進展はない。しいていうならたくさんの匂いをかぎ取ること自体に慣れた。麻痺したともいう。
 半ば面白がってアドリアーナの覇気を試したがるクルーたちと誰がどこにいて何をしているかのクイズをさせられながら(実のところ普段から匂いでどこにいるかくらいは分かるのだけれど)、アドリアーナは覗き窓のむこうを見た。
 その覗き窓の向こうから何かがこちらを覗いていた。近すぎるせいで目とそのまわりの肌しかわからない。ウロコはなかった。

「うわッ! 久々に寄ってきたなァー」
「イルカかー?」

 アドリアーナは見聞色の覇気でイルカの群れが近付いてきていることが分かっていた。
 クルーたちが「よお」と慣れたように手を振っている。潜水艇というのは海の生き物から見ても珍しいようで、覗き窓があることからイルカのような知性のある生き物が度々覗きにくるのだ。シーモンキーのような大波を起こす悪戯をするようなのも近づいてくるので困りどころでもあるが。
 しばらくじっと見ていたイルカの群れはやがて離れていった。アドリアーナはイルカと言葉を交わせないので分からないが、きっと害がないことくらいは分かったのだろうと思う。
 アドリアーナはもともと海のなかでも魚がいるなァというくらいはわかる。水中に関しては陸地で生活する虎よりもシロクマであるベポのほうが敏感なはずだ。
 しかし見聞色の覇気らしきものに目覚めてからより鮮明に分かる気がする。
 イルカの群れはやがてどこかへ泳いでいく。この船とはべつの進路を取っているようだ。遠ざかっていくのを感じ取りながら、アドリアーナはテーブルに頬杖をついた。

「水生生物だったら海の匂いが強いから平気なんだけど」
「なんだ、じゃあ海の中も分かるっちゃ分かるのか」

 そうね、と頷いて過ぎ去っていく色鮮やかな魚たちを見送る。
 こうなってくると島に近づいて無理やり慣らしてもいい気がしてきたな、とアドリアーナは思った。
 気を遣って離れたところで潜水してくれるみんなには悪いけれど。


 果たしてこれで大丈夫なのかどうかという不安を「でも感覚がキツくはなってないから大丈夫なはず」と己に言い聞かせながら見聞色の覇気の鍛錬を続けるなか、そういえば、とアドリアーナが思い出したのは己がハートの海賊団に入った日のことだ。
 タトゥーでも彫りましょうかと言ったな、と。あれからそれなりの日数が経過しているが、未だに入れてはいない。単に忘れていた。
 アドリアーナはそれにそこまでの良さを見出していないし、ローだって他者に入れる意味を感じてはいないのだろう。たぶん、だからお互いにその話を出すことがなかった。
 しかしそうと思い出してみればなんとなく入れてみようかな? という気にもなる。なんとなくで入れるようなものではないのだが。
 ひとまず相談してみようと思って、潜水しているおかげで軽い体で船長室へ行ってみた。

「あァ……入れる気あったのか」

 ないものと思われていたらしい。いやまあ、軽口のように言ったのはアドリアーナだし、それにこれだけ月日が経っていればそうと解釈するのも当然だろう。

「入れようかなって気になって」
「希望は」
「……二の腕?」
「落書きと勘違いしてねェだろうな」

 このザマだったのでローは呆れて「位置とデザイン考えてから出直せ」と追い返した。
 さもありなん。しかもアドリアーナはじゃあなんかまあいいかな……と思ってやる気をなくした。

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