17
さらにもういくつか島を越える頃にはアドリアーナも見聞色の覇気をきちんと使えるようになっていた。
結果的に人の気配を無意識下へ置く方面になったのは単に慣れである。
その間にも戦ったり戦わなかったり、敵船から物資を奪ったり海軍に追われたり。
ローにかけられた懸賞金は2億になっていたし、ほかのクルーたちも賞金額を増やされ気付けば悪名高い海賊団だ。
悪い噂は絶対にローのオペオペの実とその戦い方のせいだとアドリアーナは思っている。
「なあ〜〜そろそろ? まだ?」
「もうしばらくしたら何か見えてきそう」
「お、近い? じゃあ見てよ」
次の島が近い、ということに一番はじめに気づくのがアドリアーナなので、暇を持て余したクルーに群がられることが増えた。
人気の多いところは既に感知できる範囲にあったので答えてやれば、キッチンでだらけていた数人が甲板へ飛び出していく。
「そろそろ見えてくる距離だってよ〜!」などと言いふらしながら出て行ったので、これで違っていたらヘコむんだろうなァとアドリアーナは思った。みんな、次の島を楽しみにしているから。
「数は」
「ものすごく多いわね。いままでの比じゃないくらい人がいるわ」
「7本の航路が集まる場所だからな……体調はどうだ」
「まだ平気。でもさすがに出歩くには酔いそうだから今日は船にいていい?」
「ああ」
その確認のために寄ったらしい。ひとりキッチンに残っていたアドリアーナに声をかけにきたローは頷いて、そのまま甲板へ出ていく。
彼もまた態度には出さないが到着を少なからず心待ちにしていたのだろう。
もうすぐ、ハートの海賊団は偉大なる航路を半周したことになる。
偉大なる航路、前半の海において最後の地。いわば中間地点と言えるシャボンディ諸島へ辿り着こうとしていた。
シャボンディ諸島はヤルキマンマングローブと呼ばれる、海底からまっすぐに生えた巨大な樹木の集まりだ。
79本ものマングローブで形成された諸島は広く、はじめに分かれた7本の航路が集結する場所でもあるのでどうしても人が多い場所になる。
海軍本部も近くにあるし、聞けば遊園地からホテル街、観光地と化した場所まであるそうなので本当に人の往来が多いのだろう。
近付くにつれてそういうやたらと多い気配を感じ取っていたアドリアーナは、いくら慣れたとはいえあまりの多さに久しぶりに人酔いしそうだと顔を顰めていた。既にミント味の飴を用意して構えている。
精度のほうは自信を持てるほどだが、制御出来ているかというといまいちだ。たくさんの匂いを拾う感覚に慣れたというだけで、べつに自在にオンオフ出来るわけでもない。処理というか反応速度は早くなったと思うけれど。
「わたしだって早く観光したいのに」
遊園地とかジェットコースターとか遊園地とかジェットコースターとか!
箒があるだろうって? 己で制御しないからこそ良いんじゃないか、とアドリアーナは思っている。
誰か一緒に行ってくれないかな〜とぼやきながら、アドリアーナはがらんとした食堂のなか、ひとりテーブルに上半身を預けてぺたりとくっつけた頬を冷やした。
案の定アドリアーナが思いきり人酔いを起こしたためにポーラータング号は停泊場所を選ぶことになった。
もちろん海軍の駐屯地があるので、その目の行き届かない無法地帯のなかで、だが。
外周、ホテル街に寄ったあたり。木の幹に番号が記されているためにそこさえ覚えていれば、似た景色ばかりの諸島でも迷わずに済むというわけである。
「いやァ〜治安の悪さやべェよ、億越えいるっぽいし喧嘩売ってくるやつ多いし」
「無法地帯ではあるでしょうね……」
あちこち見て回って帰ってきていたウニたちから話を聞きながら、ようやく復活してきたアドリアーナは小さくなってきた飴を奥歯で嚙み砕いた。
慣れるまでに一日かかったのは進歩かどうか。
「少なからずキッドはいるみたいだぜ、暴れてるって話を聞いたから」
「ふーん。ウニたちは何かしたの?」
「いやァ? キャプテンが大人しくしてりゃ見物しやすいだろって」
ああ、それは言いそうだ。アドリアーナはなるほどと頷いて次の飴を口に入れた。特有のいろんな匂いが混ざりすぎた気持ち悪さは薄れてきてはいるものの、本調子にはほど遠い。
一気にかぎ取ってしまうものだから、ここまで人が多いとアドリアーナの見聞色は精度が下がるらしい。いわゆる強者特有の匂いというのもあるにはあるが、今のところ色んなのが混ざってしまってよく分からなかった。
ローが情報収集を欠かさないようにしているために、アドリアーナたちもまたなるべく新聞へ目を通すようにしている。そのために他の海賊のことは、報道される限りは見知っていた。
ハートの海賊団もなかなかに記事になるほうではあったが、見境なく暴れているのがキッド海賊団だ。
周囲への被害がとにかく甚大なのだ。怒りを買えば徹底的に。その凶悪性から船長の懸賞金は三億ベリー。ローを超える額だ。
しかもその海賊団にはもうひとり、億を超えた賞金首がいる。殺戮武人と物騒な異名をつけられた戦闘員である。
それに臆することは決してないけれど、相手をするには少々面倒臭いことは確かだ。その暴れ方にはまるで理性がなく、勝ったところで得られるリターンは少ない。
存外煽られやすいキャプテンがいるので、アドリアーナは変な絡まれ方しなければいいけど、と思った。
「お前ら、出かけるなら三人以上で固まって動けよ」
「え、そんなに?」
「明日天竜人が来るらしい」
「げえ……」
「アイアーイ」
夕食のために集まったクルーたちへの指示にめいめいに返事をするなか、アドリアーナは「あした遊園地いってくれるひと!」と手を挙げた。アドリアーナがダウンしている間に大半が遊園地へ遊びに行ってしまっていたのである。
船番をしていたイッカクはジェットコースターが嫌いだし、ウニやカジカたちはもう行ったから他のところに行きたいという。声をかけた面々がダメだったので、それならばもういっそと思って募集したのに。
「アドリアーナ、お前はおれと来い」
「キャプテン遊園地いくの?」
「いかねェ。見物ついでにお前、匂い覚えてこい」
「…………」
警察犬じゃないし。匂いとかずっと覚えてらんないし。
憐れんだペンギンとシャチが「明後日一緒に遊びに行こうな……」と言った。 prev|next [
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