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 外ではとうに包囲を終えて武装を整えた海軍が構えていた。どうやら麦わらのルフィが殴った天竜人をそのまま人質に取っているものと捉えたらしい。実際は全くそんなことはなく、普通に気絶したまま目覚めないというだけなのだが。

「おれたちは巻き込まれるどころか完全に共犯者扱いだな」
「麦わらのルフィの噂通りのイカレ具合を見れたんだ、文句はねェが……大将と今ぶつかるのはゴメンだ……!」

 ルーキー共、と拡声器で響いた通り、眺めていただけだなんて言葉はきっと届かないのだろう。
 ローたちも、共に居合わせただけであるキッド海賊団のほうもそこに文句はないが、やはり大将が出てくるとまずいのはハートの海賊団に限らないらしい。

「あー、私はさっきのような力はもう使わんのでキミら頼むぞ。海軍に正体がバレては住みづらい」

 素性を隠してコーティング屋のレイさんの呼び名で通っているらしい冥王はそう言って、応急処置を終えたらしいタコの魚人を背負い上げる。

「もののついでだ、お前ら助けてやるよ! 表の掃除はしといてやるから安心しな」

 居合わせただけだし海軍の相手は麦わらの一味に任せて下がるのかな、と思っていたアドリアーナは、キッドの言葉が頭に来たらしく鬼哭を持って出て行ったローを意外に思った。

「あの人あんな挑発に乗りやすかったっけ?」
「いやお前……初めて会った時のこと思い出せよ」
「あー。……ああー?」
「覚えてねェのかよ!」

 そういえばアドリアーナが挑発をした、気もする。ぶっちゃけあのあたりの振る舞いは一人旅故の警戒込みなので今や記憶にない。人攫いはなんとかならないかなと思っていたが。
 苦笑したペンギンに「わかんない」と答えて、ローへ続くために立ち上がった。体力を使う能力を持ちながらに中々タフな人ではあるものの、普段から能力の行使は省エネ気味なのでああも暴れているのはアドリアーナからして見れば本当に珍しいことだ。
 古い付き合いだというペンギンたちにとってはどうやらそうというわけでもないようだが。

「あ、アドリアーナは無茶すんなよ。キツいんだろ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて」

 酷い大乱闘が始まってしまったので余計に情報量が増えて頭がだいぶくらくらしていたところだ。
 アドリアーナは頷いて、ローに加勢しに行ったベポをよそにペンギンとシャチのかげに隠れる。
 こちらのクルーではベポが筆頭で暴れまわっていたが、ある程度海兵が減ったところでローがおもむろに入口でじっとしていた大きな男の錠を外していた。天竜人の奴隷、らしい。

「おれと来るか? 海賊、キャプテンジャンバール」
「──そう呼ばれるのは久しぶりだ」

 解放されたジャンバールが巨大な腕の一振りで海兵を何人も伸している。

「天竜人から解放されるなら喜んでお前の部下になろう!!」
「半分は麦わら屋に感謝しな……!」

 海兵の前で堂々と天竜人の所有物を解放したローへ、アドリアーナは少しだけ笑った。
 かなり大きな男だったがポーラータング号のサイズなら入れるだろう、たぶん。そう思いながらアドリアーナはペンギンの後に続く。
 混戦極めていたために、存外グローブからグローブへの移動はスムーズだった。標的がハートの海賊団に限らないからだろう、数が多いものの、海兵はあちこちに散らばって配置されているせいで通り抜けやすい。
 撤退のためにいくらか冷静になったのか、それとも同じように暴れるほかの船長がいなくなったからか、ローは能力の行使をやめて走ることに注力していた。ローの能力はROOMの展開をするために間を置かなければいけないから、というのもある。
 グローブ同士を繋ぐ橋を全員が渡り終えたのを見計らってジャンバールとベポがそれを破壊する。
 アドリアーナが、ひくりと頬をひきつらせた。

「キャプテン、やばいのがいる」

 それが恐らく黄猿の前軍として来ると言われていたものであると、アドリアーナは肌で感じていた。

「あれは……ユースタス屋と、……なんで七武海がこんなところに……!」
「トラファルガー・ロー……!」

 王下七武海、バーソロミュー・くま。立場からしても厄介極まりない相手だ。
 しかも目の前にいるのと同じ気配のやつが、周囲に点々といる。見聞色でそれを唯一分かるアドリアーナが一番焦っていた。
 あまり相手をしている余裕はない。なるべく早いうちに撒いて、船を出して潜水してしまうのが良い。
 だがそれを実行するには相手が悪すぎた。
 バーソロミュー・くまがその口を開き、光線のようなものをローへ放つ。
 かすりもせずにローは回避したようだったが、爆発と共に地面を深く抉るその威力は洒落にならない。
 避けられるかというとアドリアーナだって無理とは言わないが、いまはコンディションが悪かった。長期戦は無茶だ。

「後ろから海兵も来てる!」
「あー、もう、昼間の撤退戦は嫌いだわ」

 視界も開けていて見つかりやすいことこの上ない。アドリアーナはペンを取り出してくるりと回し、箒へ変化させると飛び乗った。
 相手が光線を撃てるのなら、空中にいたほうが余波を食らいにくいし、それに仲間を巻き込みにくい。
 予備動作は殆どないが、それを撃ったときにピピと鳴る音が聞こえた。人──だが、アンドロイドか何かのよう。
 それが強いものである、ということは誰にだって分かる。だが、その匂いはあまりにも人からかけ離れていた。
 ちらりとアドリアーナがベポへ視線を向けると、ベポもまた違和感を覚えているようで困惑していた。それでも攻撃の手に一切の容赦はない。

「うーん」

 魔法を使って足先から浮かせようとしてみたが、どうにもアドリアーナではパワーが足りない。よほど重たいようだ。

「アドリアーナ!」

 戦闘中であれば目の前の敵に集中できるからか、周囲をあまりノイズに感じなくなっていた。研ぎ澄ました耳がバーソロミュー・くまから光線を撃つための“動作”を拾う。
 ぱかりと口が開くより先、アドリアーナはとうにそれを避ける位置にいた。

「キャプテーン、これ、能力じゃないかも」
「はァ!?」

 その口の中がこちらを向いたときに、アドリアーナはしっかりそれを見ていた。

「ビーム撃つときに駆動音がしたわ! そもそも人じゃなさそう!」
「七武海にサイボーグがいるという話は聞いたことがねェぞ……!」

 サイボーグ自体については麦わらの一味にいるフランキーの例があるように、実在はするし認知もされている。
 ただ早々お目にかかれるようなものではない。よほどの技術力を有している世界政府ならありえる話ではあるが。
 アドリアーナとローのやり取りにへえ、と声を上げたのは先にバーソロミュー・くまと交戦していたキッドだった。

「“魔女”は耳がいいな」
「ひとつ貸しだな、ユースタス屋」
「バカ言え、聞こえるとこで話してたお前らが悪い。それに先に戦ってたおれたちが気付いてないとでも思ったのか?」
「あァ!?」

 うーん、ガラが悪い。アドリアーナは「もー、なんでもいいから早く倒して帰りましょうよ」とぼやいた。

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