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 結果的にキッド海賊団と共闘の形になったことは、双方の船長にとって不本意極まりないようだった。
 クルーたちはさして気にしていなかったが。船長としての矜持だろうなとは元とはいえキャプテンであったジャンバールの見解である。
 キャプテンになったことも群れの長になったこともないアドリアーナにはあまり理解の及ばない話だ。
 まあなんか張り合って勝手にやってくれる分には構わないのだが。こちらに負担がかからないのであれば。

「っぶねー、ありがとうな!」
「海兵たちがどんどん集まってきてるわ、また包囲網を敷かれる前にアレをなんとかしたいけれど……」
「おれたちはせいぜい一兵卒の相手してるよ」

 どちらかといえば“的”として飛び交ったり、寸でのところで仲間を拾い上げて光線を避けさせたりというサポートに徹しながら、アドリアーナはより強い気配がこちらに来ないことを祈っていた。
 実際問題、バーソロミュー・くまを模した何かの相手はアドリアーナたちには荷が重い。
 ベポはミンク族、あるいはシロクマゆえのウェイトと戦闘勘で遅れを取らずにいるようだったが、鋼鉄かなにかで出来ているらしいそれへペンギンたちの持つ武器が通ることはないし、拳を振り上げたところでこちらが痛みを負うばかりに違いなかった。
 しかし的になるばかりでもない。海兵だってこの場にいるわけで、そしてここにいるのが首謀・共犯扱いのハートの海賊団とキッド海賊団。当然捉えるべく向かってきている。
 そういう一兵卒をどうにかしつつ、それから橋を落として通行を止める。アドリアーナたちは各々の役目に徹しながらキャプテンが強敵を倒すのを待っていた。

「“カウンターショック”!」

 妥当な手段だろう、と思いながらアドリアーナは“くま”に近づいていたせいで真正面から光線を受けそうになったローの腕を掴みながら箒で駆け抜ける。
 片手は鬼哭、そしてもう片方の手で“カウンターショック”を使うためにすぐさま能力で戻ることが出来ない。すぐさま放たれた光線がコンマの差でローを掠めた。

「あれ、効いてない?」
「いや……機械に電気は弱点だからな。アレがそういうモンならカバーしてておかしくはねェ」
「面倒臭いわね」
「海に落とすか。お前、海上に行ってろ」
「アイアーイ」

 降り立ったローがすぐさまROOMを展開し、アドリアーナは海面すれすれのところにまで飛んでいく。

「“シャンブルズ”」

 それに重量等の制限はない。ぱ、と目の前の景色が切り替わり、アドリアーナと“くま”の位置が入れ替わる。
 飛行手段を持たない“くま”は重力に従って落下し、ずいぶんと重たく沈む音が響いた。
 しかしそれでも動くには動けるのか、耐水機能が十分備わっているのかマングローブの根を伝って這い上がろうとする──

「“反発リペル”」

 それを抑えたのがキッドだった。人間屋にできていた海兵の包囲網から突破するために使ったものと同じ技を使い、どうやら“くま”を水中に押しとどめるどころか海底へとさらに沈ませていく。
 これで少なからず陸に戻ってくるまでに時間は要するはずだ。

「貸しも借りもこれでねェな」
「ハッ、やったのはほとんどおれだ」
「キャプテーン、わたしもうしんどいから帰りたいんですけど!」

 放っておいたらそこらにいる一兵卒を狩って貸してやるよだのなんだの言いかねない。そう思ったアドリアーナはローから鬼哭を取り上げて自分たちの船があるほうへ向かう。
 舌打ちをしたローはシャンブルズでそれを取り返し、溜息を吐くと「お前ら、行くぞ!」と自分のクルーたちへ向けて声を張り上げた。

「お前は早く人混みに慣れろ」
「汗臭いからイヤ!」

 ローはこの匂いの強烈さを分からないからそう言えるのだ。アドリアーナは憤慨したが、ローは「そこかよ」と呆れていた。

 “くま”との戦闘はその一度きりで済み、ハートの海賊団は無事全員ポーラータング号に乗船していた。
 ほかに出かけていた面々も騒ぎを聞いて早々に船に戻ってきていたのだ。
 むしろ最後になったのが1番グローブにいたローたちである。騒ぎの中心にいたのだから当然の話ではあるが。
 全員がいることを確認すると慌ただしく出航し、潜水する。停泊していたのがかなり端のほうだったので海軍を撒くのは容易かった。

 潜水期間は可能な限り延ばした。潜望鏡で確認出来る範囲では追っ手はないようだったが海軍大将が来た上に兵器らしきものを投下するような事態だったのだ。
 幸いにもハートの海賊団は誰も大将と対峙することはなかったが、アドリアーナいわく“くま”よりも強そうなのが──おそらく大将黄猿と思わしき気配が別のところにいた、ということなので、全員揃っての出航は本当に運が良かったらしい。

「アドリアーナ、調剤室にこもるのはいいけどこれ読んでみろよ」
「……ああ、新聞?」

 状況が状況だったのでシャボンディ諸島観光ができなくなったアドリアーナは、ストレス発散がてら調剤室にこもって薬草を粉末状に砕いたり水に浸すための魔法石を選り分けたりと魔法薬を作る前準備を延々と行っていた。
 魔法薬の制作自体は火にかけなければいけないものが多く、停泊中だったりよほど安定した気候のなかでなければ作れないので。
 イッカクに呼ばれて手を止めたアドリアーナが、読みそびれていた新聞を受け取る。
 見せたい記事があるらしい。差された箇所は大きな見出しで、アドリアーナは思わず顔を上げてイッカクを見つめた。

「キャプテンはどうするかまだ考えてるみたいだ」
「…………全面戦争」

 ポートガス・D・エースの公開処刑──記事での書かれ方はあくまで予測ではあったものの、しかし七武海の招集や処刑場所がマリンフォードであることから世界政府が対白ひげに構えているのは明らかだし、そもそもとして白ひげが何もせずにそれを受け入れるわけがない。
 しかもその中継をするとは悪趣味が過ぎるというか、なんというか。
 よほど権威を示したいらしい。

「……どうなってしまうのかしら」
「さァな。どっちが勝つにしろ、世界は大きく動いちまう」

 そうね、とアドリアーナは頷いた。
 世界は一週間後に注目している。

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