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 ハートの海賊団は当日までをシャボンディ諸島で過ごすことになった。海軍は対白ひげに備えていたので、人間屋で起こった事件もその日を過ぎれば捜索の手は打ち切られて警備が手薄になったことも大きい。おそらくは麦わらの一味が船を残して行方知れずになったことが大きいと思われる。
 その間は完全に自由時間となったので、アドリアーナは存分に遊園地や観光街を楽しんだ。遊ぶのに付き合ってくれると言質を取っていたのでペンギンとシャチを連れまわし(そもそもふたりとも否やはなかったが)、初めてと言っていい長期滞在だったこともあってとことん遊び尽くした。
 シャボンディ諸島特有のシャボン玉を使った乗り物も一通り乗り回したし、イッカクは買い物であれば付き合ってくれるというのでベポも誘って観光街へ繰り出した。
 男所帯のなかで一番女性陣の買い物に付き合ってくれるのがベポである。基準がクマであるのでなにかと趣味の合わないことがあるにしろ、ベポとアドリアーナが持つ獣性は近いところがあるのでその共通点から、お互いに特有の気の回し方をしていることは多々あった。

「うわっシロクマが喋って歩いてる!?」
「シロクマですみません……」

 すれ違い様に言われてずーんと落ち込むベポの、シロクマのおおきな手を引いてアドリアーナはへの字に口元を歪めて先を急ぐ。
 クルーたちは彼がシロクマであることに慣れているけれど、行く先々でベポはシロクマであることに驚かれてしまう。打たれ弱いところのあるベポはそうやって落ち込んでしまうのだ。
 アドリアーナは耳と尻尾を隠してしまえば普通の人と変わりないけれど、ベポはどうあがいても人間らしい見た目にはなれない。
 シャボンディ諸島滞在四日目。通行人に驚かれるのももう三度目だ。イッカクも「気にすんなって」と軽く宥めてやりながら、ベポの代わりにもやもやとした気持ちを抱えているらしいアドリアーナに苦笑した。
 シロクマと呼ばれることと海賊と呼ばれて怯えられるのとではわけが違う。イッカクたちは各々覚悟をして海に出ているのだし、海賊らしい行為だって多少なりとも行っているのだから一般人からの扱いは当然だ。

「ちょっとそこの路地入るわよ、そう、ベポそこに立っていてね」

 自分は隠せばいいが、ベポはそれが出来ない。アドリアーナが憤慨したのはそういうあたりだったので、むっとした気持ちのまま、ベポに視線を遮ってもらった物陰でペンを振るった。
 ハートのクルーだと一見分からないように着ていた私服から馴染んだつなぎ姿に実践魔法で着替え、つなぎの背中にはジョリーロジャーがプリントされているのでそれを隠すために袖を抜いて腰回りで縛る。ヘアバンドも外してしまった。
 イッカクは苦笑しながらそれを眺めていた。彼女は己もそれを隠さないことで折り合いをつけたらしい。

「さ、行きましょ」
「おれにも似合うヘアバンドないかなァ」
「そりゃあるだろ」
「探してみましょうか」

 シロクマと、それから虎の耳に尻尾をくっつけた女が道を歩いている。
 時折驚かれては落ち込みかけたベポを「落ち込まないの!」とアドリアーナが叱咤して先を行く。

「あっ、ベポたちじゃん、おーい! こっち!」

 出くわしたシャチたちに呼ばれて近寄ってみれば、土産屋で何やら悩んでいたらしい。
 キーホルダーやポスターを手にしたシャチにペンギン、ウニがそれらをアドリアーナたちへ掲げる。

「どれがいいと思う!?」
「……心底どうでもいいな。好きにしたらいいぞ」
「好きなの買ったら?」
「おれもキーホルダーほしい!」

 木刀を出してくるよりはマシか、とぼやきかけたアドリアーナは、しかしこちらでは武器として使うので世界観が違うんだったと思いなおした。
 ベポがキーホルダーを求めて陳列棚を覗き、何を買うか決めたらしいウニとペンギンがレジへ駆けていく。
 同じようにイッカクとアドリアーナがベポの後ろから覗き込むと、シャチが「あ」と声を上げた。視線の先は頭の上、アドリアーナの耳だ。

「なに?」
「さっき布地見てたんだけどなー、イイ感じの虎柄あったから買っておいたからな!」

 きょとんとしてアドリアーナは隣にいたイッカクと、それから振り返ったベポとも顔を見合わせ、それから思わず笑みを零した。

「? なんだよお前ら」
「なんでもない」

 不思議そうなシャチを前に、三人はただ笑いあっていた。

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