あいさつ
「まずは皆に挨拶だね」
リンクに手を引かれながらコキリの森へ続く道を歩く。
構成的にこの森林地帯は、コキリの森を囲むように周りが迷いの森になっており、切り株がある場所はその迷いの森の中。デクの樹に近い場所にあった。
人目を気にせずに往復出来ていたのでリンクと先日あったコキリ族だろう少年以外には顔はまだ見せていない。
霧のせいでうっすらとだが小屋がいくつかあって、真ん中から隔てるように小川が流れていた。
暗くなったコキリの森だがコキリ族ではない異邦人の空気を悟ったのか、なんだか集まってざわついていた。
霧がすこし立ち込めた中でもこちらの気配が分かるらしい。
そのなかで淡い緑色の髪をした少女にリンクが手を振りながら声を上げる。
「あ、サリアー!」
「リンク!あれ、見かけない顔。だあれ?」
くるっとした髪型が特徴の皆のアイドルらしい、コキリ族の一人であるサリアがいた。
他にも遠くでちらほらとこちらを見定めるように若干の警戒心と好奇心を持ちながら見つめる目の中で彼女が一際目立つのは何故なのだろう。
それよりもなんで警戒しないのだろう。誰だって知らない人間が来たら驚くだろうに、周りのコキリ族の子たちの行動が本来正しいと思うのだけれど。
すこし気後れしながらも今にも走り出しそうなリンクに引っ張られてその集団の輪に近づいた。
「聞いたら驚くよ、なんと外から来たんだ!」
「本当?凄いよ、皆スタルキッドになっちゃうのに。
きっとデクの樹サマに認められたのね!」
きゃっきゃっとはしゃぐ二人の話を聞いて少しゾッとした。
本当に魔物にならなかったのは自分だけだったのか、悪運が強い自覚はあるのであまり笑えないが。
それだけ自分は貴重な存在なのか。
コキリの森は他の場所にはいない妖精がいるから捕まえようとする輩もいるのだろう。
しかしデクの樹に認められたとはいえ無欲の勝利とも言えず、その代わりに帰るすべをなくした私はなんなのだろうか。
得たものは何もない。
強いて言えばコキリ族に邂逅できたはじめての外からの人間、という称号くらいじゃないだろうか。
サリアはぞろぞろと近づく皆に「外の人が来た」と話し回っていた。
じろじろと見られてなんか、見世物状態だった。
サリアが話せば警戒心は多少解かれたのか、なんだなんだとサリアやリンクと同じ緑の格好をした子達がまた次々と集まって来た。
近づかれると頭ひとつ半分ほど背丈が違っていたことが分かった。
本当に子どもの姿だったが、年齢までは分からない。
「名前はなんていうの?」
どこかから放たれた声に戸惑いながらも『……ユキセ』と答えれば皆が一様に私の名前を口にする。それがすこし恥ずかしかったが、それからの怒涛の質問が私に降りかかってきた。
「スタルキッドにならなかったの?」
「デクの樹サマみたいなのは外にもいるの?」
「外ってどんな所?」
「町ってどんな所?ここよりも人が沢山いるの?」
「外は恐ーい巨人がいるって聞いた事あるぞ!」
みんな好奇心旺盛な瞳でなんでと答えを求める声が飛び交う。
子どもらしいその遠慮の無さ。
デクの樹に聞いただけじゃよくわからないからだろうか。聞いても目で見なければ解らない事もある。
けど確実に最後のは嘘だろうとは分かる。
かと言って私に聞いても見ても直接じゃないし外から来てないから聞かれても、という状態なので矢継ぎ早に放たれる質問に戸惑うばかりだ。ずずいと言い寄る子どもたちに思わず後ずさりした。
そういえばデクの樹の目線てどのくらい高いんだろうか。
ゲームではハイラル城が見えるくらいだと聞いた。
でも人の手が加えられてない木々は種類によるが結構背が高い。
ここら一帯の木全てにデクの樹の意思が宿っているのだろうか。
いけない、思考が現実逃避してしまっている。
それに気づいたのかサリアの一声でピタリと声が止んだ。
不思議な光景とは裏腹にほっと安堵した。
よほどサリアは信頼されているようだ。
「皆、一度に聞いてしまってはユキセも困っちゃうよ。ごめんね」
『いや、さ。別に大丈夫だから。気にしないで良いよ』
苦笑いしながら顔の手前で手を振る。
謝る必要はないと。
けれど、まず何から話せば良いんだろう……。
聞いたことはなくてもある程度なら話せることもある。それに外に出て確認することもできないコキリ族ならすこし残酷だけれど、多少の嘘も方便くらいにはなるだろう。
そんな考えの罰だろうか。
ずんずんずんずん、と
音がつきそうなくらい踏ん反り返りながら歩く三人の子どもがこっちに向かってきた。
あんなに偉そうに歩くコキリ族は……まぁ例のグループしかいないだろう。
ジャイアニズム丸だしですこし面白い。
けれど少し嫌な顔をしてしまった。もちろんそれは一瞬でやけに目立つ足音にみんなそちらに向いていて誰も見てはいない。
ああいうのは嫌いだ、関わるとロクな事無いの否応なしに経験済みだったから。
考え無しの大声でこちらに向かって叫んできた。
「おい!誰だよお前は!」
コキリ族の自称リーダーこと、ミド(と、その部下らしい2名)だ。
「外から来た人よ」と誰かが言う。
彼らだって魔物に変えられなかった人間はいないことだって知ってるだろうし、ここまで来れて魔物にならなかった理由だってある程度は予想付くはずだ。サリアが良い例である。
けれどそれを最初から真っ二つに切り捨てた。
「そんなの信じられっか!外から来たヤツはみんなスタルキッドになるんだぞ!」
とミドは大声で返す。
確かに、とも思う。
スタルキッドか……なっちゃったらもう向こうの皆には会えなくなっちゃうな。
でも、自分は何故魔物にならないんだろうか。そう思えば本当に不思議だらけなのだ。
ちゃんと森の外から来た訳じゃ無いから?
他は森の外から足を踏み入れるしかない、けれど私はあの切り株からまるで導かれるようにここへと入れた。
うわ、なんかチートじゃ?とも思うがそれはあまり答えになっていない。理由もまだ証明できていないからしっくり来ないのだ。
所詮、中学生の子どもの頭脳ではそれ以上証明を導き出せない。
もう少し大人だったら分かっただろうか。
「ミド!」
とはいえ結果的に魔物にならなかった存在が目の前にいることにサリアが怒鳴る。ミドの好き勝手なことを言う言葉に怒ったようだ。
初対面の相手でも優しいサリア、うん可愛いね。
サリアの声にびびって肩を震わす。意外と小心者だ。
「どうしてミドはいつもそういう事ばかり言うの!」
「だ、だってよ……」
「それにユキセがならないのは森に認められたのからに決まってるじゃない!それはデクの樹サマが認めたのと一緒よ、
森に認められなかった人が、悪人がスタルキッドになってしまうの。
ユキセは悪人じゃないもん!」
『……』
「ふ、ふんだ!
スタルキッドにならないんだったらコイツは一体何なんでここにきたんだよ、連れて来たのはどうせ妖精無しだろ!
何かあったらお前のせいだからな!」
と、暴言とも言える言葉を吐きながら子分を連れて逃げた。
妖精無しじゃない!とリンクは去っていくミド達に叫んでいた。
まあミドの言う事も解らなくは無い。
自分が此処にいて何が起こるか解らないから。
世界にとって自分は異分子、バグ、本来この世界には要らない存在。そう言っても差し支えないくらいだ。
だからスタルキッドにならないのかもしれない。
まぁ、いつかは帰らなければいけない存在なんだ。いつかは知らないし、帰れるかも分からないのだけれど。
それに、悪人じゃない証明だって魔物にならなかったからという理由だけで証明できるとも思えなかった。
思わず表情に暗い影を落とす。
悪人ではないと信じてしまえるサリアに申し訳ない気持ちがいっぱいだった。