悪夢
「…ん…ううーん…」
三日目、夜中にリンクがうなされていた。
よほど恐ろしい夢を見ているのか、ときどき苦しそうに悪夢うなされる声に自然と自分は起きた。
時の勇者としてと資格を生まれながらにして持っているリンクはこれから迫りくるハイラルの危機に予知夢として感じ取っている、と原作ではそういった設定としてあったがこれでは本人が一番苦しいだけではないだろうか。
そういえばリンクの手の甲にはトライフォースの痣がどこにもないことに気がついた。
リンクが覚醒するのはいつのことなんだろう……自分はやったことあるのはこの世界のゲームでしかないから答えは結局分からなかった。
これからきっと毎晩同じ夢を見続けるのだ。
まだまだ幼い子どもの生育にも良くない。
とりあえずこのままにはしておけないのでリンクを揺すって起こすことにした。
『リンク、リンク……』
リンクのベッドの側に寄って起こすのも日課になりそうだ……と思いながら揺さぶり起こすと、バッと勢いよく起き上がった。
汗がしとどに流れておりそうとう怖かったのだろう、
涙も溢れてるのが近眼である私の裸眼でもなんとなく分かった。
持っていたハンカチでリンクの汗を拭ってあげよう。
「ねっ……お姉ちゃん…」
『煩くて眠れない』
「ひどいや……」
『冗談。……うなされてたけど』
「……うん、怖い夢をよく見るんだ……」
予想通り。
私がここに来る前から悪夢は繰り返し、よく見るらしい。
おそらく舞台はハイラル城の夢なのだろうけど。
聞くのも悪いかと思ったが、少しだけ興味本位で聞いてみた。
『……どんな夢だった?』
「ん……えっと、前までよく分かんなかったけど、空が真っ黒に覆われてて、尖んがった屋根がいくつもついたものすごくでっかい家の前に立っててさ………
でかい馬に乗った人が俺の前を通り過ぎてくんだ。
そんで、場面が変わって。
目の前に黒い羽根……が生えた真っ黒の変なのがいて俺に向かってくるんだ………」
『羽根……真っ黒の……?』
聞き覚えの無いもの。
リンクの悪夢の回想に羽根なんてものは現れなかった。
羽根の生えた真っ黒いもの……それは私がここに来たことへの変化だろうか……。
きっと悪いものには違いない。新たなガノンの手先だろうか。
それ以上は覚えていないと首を振る。
「よくわかんなくて……」
『そっか、……あ、そうだ』
バッグの中をごそごそと漁る。
小銭入れと携帯と少しのお菓子類しか入っていない。病院帰りだったから。
バッグに付いてたが、金具が壊れてしまって取っておいたままのある飾りを取り出しリンクに渡した。
「なにこれ?」
『悪夢を見なくなるおまじない……みたいなものかな。
蜘蛛の巣みたいでしょ?
蜘蛛が悪夢をとってくれるっていう意味が込められているの。バッグに付けていたんだけれど……壊れちゃって、直す道具もないし……私にはあまり必要なかったからあげる』
元の世界のある部族が作っていたという伝統装飾品。
柔らかい柳の枝で小さな円を作り、糸を円の中に蜘蛛の巣状に絡み合うよう編んで、ビーズや羽などが飾り付けられている。
子供が悪夢を見ないようにとして作られ、悪夢だけ蜘蛛の巣に絡ませその夢は夜明けと共に消え去るようにして、良い夢だけを運ばせるとたしか聞いたことがあるが効果のほどは分からない。
たまたま雑貨屋で見つけて手のひらサイズの小ささといい、可愛かったので飾っていたのだけれど、別に今、夢見が悪い訳でもないのでリンクにあげよう。
それをうまい具合に蔓で紐をつけてリンクのベッドに引っかける。
果たしてそれでリンクが悪夢だと思っている予知夢が消えてくれるとは限らないけれど……。
バッグを元の位置に戻して、柔らかな髪を撫でながら良くなるといいねと言えば小さくありがとうとお礼が聞こえた。
それにしても黒い羽根……。
自分じゃないことは確かだけど一体なんなんだろう。
なにかの暗喩なのか、それとも別の何かなのか。
原作ならそこを抜かした夢だが、未来が変わったことには違いない。
いろいろとその正体を考えたが、
やがて小さな寝息が聞こえて、自分も眠気が訪れたので考えるのを止めて自分も毛布を被って目を瞑る。
* * *
翌日、意外とすっきりした顔のリンクの顔を見てほっとした。
あのあとは予知夢を見ることなく寝れたようだ。
『どう、効いた?』
「うん!だいぶすっきりして寝れた!」
にこっと笑いながら話すリンク。控えめに言って天使。
効果が出て良かったのかは分からないが……、まぁ本人がそれを意識して、こちらがフォローすれば大丈夫じゃないだろうか。
『あまり無理しないようにね』
「でさ、あの大きな建物はなに?すっげぇデカイの!」
夢に出てきた城について聞いてきて、また外の世界に想いを馳せるリンクを見て飽きないなぁと苦笑した。
……リンクが予知夢を見るようになった、ということはあと少しでコキリの森に、デクの樹に、リンクに危機が迫る。
ここにいる以上自分は巻き込まれるだろう。
自分は無事に生き残れるだろうか。
いっそのこと、逃げてしまおうか?
その未来に不安を感じて、待つことしか出来ない自分に無力さを感じつつも、身の保身を考えてる自分に少し嫌気がさした。
* * *
最近変な夢を見る。
毎日ずっと同じような夢。
もしかしたらデクの樹サマよりも大きいかもしれない建物が目の前にあって、真っ赤だった。
夢だから熱さは感じないけれど、焚き火のように近寄れば火傷してしまうほど燃えているんだろう。
空は真っ暗だった。黒い雲が空を覆い尽くして太陽が見えなかった。
まるでなにか悪い奴が来るみたいに。
デクの樹サマが話す昔話はいつもそういう時に決まって悪い奴がくる。
周りにはデクの樹サマもコキリの皆も、外から来た姉ちゃんも居なくて、怖かった。
まるで一人ぼっちで。
恐くて寂しくて、姉ちゃんに起こされたあと涙が出て止まんなかった。
そんなオレを慰めてくれた後、姉ちゃんは
「繰り返す夢はきっと意味がある」って言っていた。
意味って何?って聞いたけど少し曖昧で悲しそうな顔でわからない、って言ってその後ごめんねと謝っていた。
何で謝るんだろ。
姉ちゃんが悪い訳じゃないのに。
いつもはそれでおしまい。
それで終わり……の筈だったんだ。
今日見た夢は何時もとは違った。
場所は同じだけどオレ以外に目の前に何かいた。
真っ黒い。
恐い物を全て混ぜ込んだような色。
目が真っ赤に光り、体ぜんぶが黒いからそれがとてもよく目立つ。
そいつはこちらを見つけるなりいきなり襲って来て、持っていた剣で対抗したけど、大きすぎて全然駄目だった。
そしてそいつが鋭い爪を持った手を振り上げたところで夢は終わった。
思い出したくないから姉ちゃんには黒い羽根としか言っていない夢。
あまり心配かけたくないから。
……変なコだと思われてしまうのは嫌だから。
姉ちゃんから貰った糸を巻き付けた小さな蜘蛛の巣の様な飾りを貰って寝たら不思議とあまり怖い夢は見なくなった。
最初はすがる気持ち半分、本当かなって効果を疑ってたけど、
本当に効果があるかもしれない。
その後、気になったあの大きな建物について姉ちゃんとデクの樹サマに聞いた。
あれは“城”というものみたいで偉い人たちがあの中で暮らすみたい。
偉い人たちっていうのは何なのか聞いて見ると、
一番上に王さまという人がいて、
王の奥さんが女王、
その二人から生まれた子供を女の子なら王女、男の子なら王子っていうらしい。
聞いててぶっちゃけ意味が分かんなかったけどそんな人たちがいる外の世界に行きたいという気持ちがまた大きくなった。
コキリの森にはない、そんな人たちに会ってみたい。
いつか本当に外の世界に行ける日があったら良いなぁ。
そしたらデクの樹サマやミドのやつに自慢してやるんだ。