森の異変



この先の展開は知ってる。
リンクがゴーマという巨大な魔物を倒して、けれどデクの樹は死んでしまう。リンクに外へ出るように促して。
トライフォースの試練に立ち向かわせるために、コキリの翡翠を最期に託すのだ。
それが、未来……。


『……リンク、呼ぶの?』


思いの外小さい声でデクの樹に問うた。
手と脚の震えが錆びたブリキのおもちゃのように小刻みに揺れて止めようと押さえつけても止まらない。


「……そうじゃ。
ナビィ……ナビィや」

《デクの樹サマ……》


茂みから淡い青の光を放つ妖精、コキリの誰のものでもない妖精であるナビィがすうっと飛んでくる。
心配そうな声色でデクの樹に応えた。


「ナビィ……、
見ての通り、邪悪なるものがわしの中に入った。……あの妖精の無い子を、あの子を此処へいざなうのだ……ユキセも共においき、
わしは大丈夫だから」

『……(何も、聞かないのか……)』

《……はい、行きましょうユキセ》

『……うん。よろしくね、ナビィ』


デクの樹はなぜリンクを名指ししたのか聞くことはなかった。それとも聞くほどの体力もなかったのか、大樹に、しかも精霊に体力があるかは不明だが憔悴してるのは分かる。

デクの樹が心配でちらちらと後ろを振り向きつつ、
一定の距離を保ってくれるナビィを追いかけて、まだ震える身体を無理やり押さえ込みながらリンクの家へ急いだ。

動くには気分が悪く、動く度に頭がくらくらしてくる。
胸の奥が痛む感じもして苦しい。
さきほどの出来事が自分にとってよっぽどショックだったのか、悲しいのか辛いのか感情が形容がし難いものに覆い尽くされていた。

体力的にこれ以上走れなくて息が切れて速度を緩めてしまう。なので、ナビィを指をリンクの家へ指して、先にリンクの元へ行かせた。
少し遅れてリンクの家が見えるとなにやら小さい影があった、あれは……。


『……あれ?ミド何やってんのこんな夜中に』

「げ、起きてたのかよ!」


何故かミドがのこぎりで床を削っていた。
リンクか自分を落とすつもりなのだろうが……そんな見え透いたワナ、普通引っ掛かるだろうか。というより中を確認してからそれを実行すれば良かったんじゃないだろうか……。
それに音が響いてうるさいのに、それでも起きないリンクが逞しいのかなんなのか。

ナビィは眼中にないのかミドを無視してさっさとリンクを起こしにいった。
なんかミドが哀れに見える……。
よくガノンドロフに出くわさなかったね……。

暫くしてナビィが外へ出てきた。
リンクが起きたようだ……というか、ナビィがあの小さな羽を必死に動かして逃げてる……?ように見えた。
どうやらリンクは寝ぼけてるみたい。ついに妖精が来たとはしゃいでいた。


《捕まえないでってばー!》

「さっそくミドに自慢しにいくぞ!」


と、意気込みながら梯子に向かっていくけれどそのままミドが空けた穴に綺麗にはまり、その真下にいたミドを下敷きにして落ちていった。
……良かったねミド、罠に引っかかってもらえて。


「あれ?ミド、なんでこんなとこに?」

「大きなお世話だよ。てオイそこ!
笑ってんじゃねぇ!」

「あ、姉ちゃん!
見てよ!ついに俺に妖精が来たよ!」


リンクに潰されたミドがあまりに滑稽なもので、思わずよそ見して笑いを堪えてるとリンクが嬉しそうにこちらに向かって報告してくれる。
微笑ましくてさっき感じてた恐怖も震えも少しだけ薄れたのが救いだ。

リンクの笑顔にはいつも救われる。
けれど、今は悲しいかなリンクと一緒にそれに喜んでいる場合ではないのだ。
唇を引き締めてリンクを見つめる。


『……今は、そんな場合じゃないんだよ』

「え?」

「ってオイ、見ろよ!」


ミドが草を指差す。
その草は目に見えるほど急激にに枯れていってしまった。
さっきまでそんなこと無かったのに、コキリの森にまで及ぶガノンドロフによる呪いの影響に冷や汗が出てくる。
このまま放置したらきっとコキリ族たちが住めなくなってしまう。


「草が枯れてる……?」

「こんな事、初めてだぞ……!」

《早くデクの樹サマのもとへ行って!お願い!》

『お願いリンク、急いで』


ナビィと私の言う通りにリンクはデクの樹へ走って行った。
自分も邪魔になるだろう毛布をリンクの家に置いて、こっちへ来るときに持ってきた鉛筆削りに使用するカッターナイフを手に持ち向かう。そこまで鋭いものではないけれど、これしか私には扱える鋭利なものがないのだ。


「オイ!」


向かう途中、ミドが大声で引き止める。
そんな声を出すとほかのみんなが起きてしまうだろう。それで目を覚ましたのだろう、やけに静かな夜の森のなかで自分たち以外が動く気配がする。
顔だけそちらに向けた。


『……なにかな』


自分的に早くリンクの元に行きたいんだけれど、ミドの訝しげな瞳が聞くまで駄目だと告げていた。
ため息をつき、きちんと相手へ向き直した。
聞きたいことはきっとその一つだけだろう。


「最初に会った時からなんかおかしいと思ってたんだ!お前、何か知ってるのかよ!知ってるなら教えろ!」


こんな遅くに起きてたのを怪しんだんだろう、と一拍置いて理解した。それかよそ者だから一番に怪しんだか……。
けれど何した、とは聞かないんだ。
知ってることは知ってる。私はこの世界の未来を知っている。
けれど、


『……知ったら、元に戻れなくなるよ?』

「……え?」


少しだけ冷めた目でミドを見つめる。
それほど暗い表情をしているのかミドが怖じ気づいていた。
この世界の人間がこの先のことを知ったらどうなってしまうだろうか。
発狂してしまうのだろうか。
それとも、無謀にもこの世界に訪れる危機に立ち向かおうとするのだろうか。
“これ”は未来へ立ち向かう矛にもなり、己を貫く矛にもなる。
諸刃の剣のようなものだ。

子ども達を頼んだ、と言って
それ以降ミドの方へ振り返ずに自分もデクの樹の元へ向かった。

夜空に大きな満月と煌めく小さな過去の光たちがただ、何もいわずにうっすらと森を照らしていた。




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