甲殻寄生獣ゴーマ



今まで出会った魔物たちよりも巨大で、その邪悪で禍々しい姿に果たして自分達は無傷で勝つことが出来るのだろうか……。
硬そうなデクの樹の内部を諸共せずに平気でむさぼり食らう姿にただただ恐怖した。
一般人である私が恥よりも恐怖が勝る光景に失禁しなかっただけまだマシというものだろう。


「あ、あいつ……デクの樹サマを……た、食べてる……!」

『……っ!』


ぱらぱらと木屑が辺りに散っていく。力強い顎の力で噛み砕き、そこから黒く変色し腐敗し始めていた。
きっとデクの樹の力を食べているのかもしれない。
こんな短時間で……樹にとって中を抉られれるというのは致命傷だ。
自分の顔がひどく険しくなるのがわかる。


『どうしてこんな……』


そいつは「石はどこだ」とブツブツ呟きながらデクの樹を喰らい続けていた。
やがて、こちらへ気がつき鋭い目をとてつもなくぎょろつかせながらこちらを向いてきた。

あー……、あれだ、コイツが出て来るムービー。
あれと一緒で目玉をぎょろりと一回転させていた。どういう構造をしているのだろう。
実際に見ると気味が悪くて、気持ち悪くて、
思わず目を逸らした。精神衛生上よろしくない。

恐怖で動けないこちらにゆっくりと向かったその体はこの人間の中で最も身長が高い自分でもとても巨大に感じた。


「で、でけぇ……!」

「こんなのがデクの樹サマを……!」


鋭い爪を持った蠍のような腕をまるで覆うかのように広げた。
今にもこちらを捕食してしまいそうな勢いだ。


「お前達にも……呪いをかけてやろうか……!」


ただでさえ服も乾いていないのに、背中にまで嫌な汗が湿って不快感がした。
さすが現実(リアル)、迫力在りすぎだよ……!


「わ、わ、わああああ!!」

『い、一旦距離取ろう!』


このまま突っ立ったままだと生命の危機を感じたのですぐさま二人の腕を引っぱり、震える足を無理矢理に動かして走った。

幸い相手は動作が鈍く簡単に距離が離れた。
……しばらく喰い残したらしい柱になっている場所に隠れてやり過ごそう。


「ど、どうすれば良いんだよ……!」

「分からない……!」


二人とも強大な敵に脅えていた。
そりゃそうだ、自分だってそうだ。自分なんて魔物やあんなのすら現実には存在しない世界にいたのだから。
平穏な国の日本。平和ボケなんて揶揄されるほど驚異なんて何もない平成という時代で私は生きてきたんだ。

相手の弱点はあの大きな目玉。けど二人は脅えて動けなさそうに見える。
自分がパチンコを使ってやりたいが、パチンコなんて生憎やった事がないから当たるかどうか、命中率が心配だ。
玉も有限で無駄使いは出来ない。ああ、なんだったらパチンコくらいはリンクに教えてもらうなり習得しておけば良かったと後悔が先に走る。

……いっそのこと、自分が囮になれば。
隙が出来るしもしかしたら少しでも良い方向に進むかもしれない……。

傷付くかもしれない、すごく痛い思いをするかもしれない。けれど、どのみちそうなるかもしれないなら……自分よりも小さい子どもたちがそれで助かるのなら……。


『……リンク、ミド、自分が囮になる』

「ぇ……」

『その隙に逃げるなりなんなりして。言っとくけど、死なないでね』

「お、おい……!?」

《ちょっと!ちょっと待ってユキセ!?》


柱の陰から出て、こちらをどう料理するかと構えていたゴーマを見据えた。

……正直怖い。脚が相変わらずガクガクと震えているが武者奮いだと思いたい。

恐い、すっごく恐い。
けどもっと嫌なのは、目の前で誰かが傷付くこと。
これ以上見たくなかったんだ。
自己満足だ自己犠牲だって言われたって良い。
それだけは、それだけはいやだ。

あの爪で攻撃されたら痛いだろうな、とか余計な事を考えてしまう。
けれどもしそれが自分じゃなく、誰かに当たってしまったらと考えると気が気じゃなくなってしまう。
……えーい!当たって砕けろ!相手を巻き込んで!


『鬼さんこちらっ手のなる方へ!』


手なんて鳴らして無いけれど、ゴーマを挑発して自分に意識を向けさせる。
こちらに気づいたゴーマはゴキブリの如く害虫走りをしながら素早くこちらに追いつき、振るってくる爪を寸でで避ける。

爪が顔や腕にかすって傷を作るがお構い無しに攻撃がくるのでそんなのに構ってられない。
カッターナイフ手で強く握って隙を見て目玉に投げる。鋭い刃がまぐれで目玉に入った。

……と思ったが、

あと少しのところでカッターナイフは硬い甲殻に当たり、別のところへと弾かれてしまい無駄な攻撃となった。
すぐこちらに来るだろう爪にさあっと顔が青褪めた。


『あ……っ!!』


距離を取ろうと後ろに下がるとそこには小さなチビゴーマがいて背後から体当たりをされた。
肘を強く打ち付けて、受け身も取れずに地面に転がる。

後ろに下がる筈が前へ倒れてしまいゴーマと距離が近くなり、爪をぎりぎりで転んで避ける。
立ち上がった瞬間、反対の爪がこっちに勢いよく振り払われた。
一瞬での出来事に視界と思考が追いつかなかった。
横っ腹から衝撃が来たことは感じたが、宙に投げ飛ばされているとやっと理解した頃には
壁にぶち当たり、頭に衝撃が訪れた時だった。


『か、はっ……』


壁に当たったと同時にミシミシと嫌な音がなる。衝撃に骨が耐えられ無かったらしい。
壁から崩れ落ちて顔から地面にいったものだからとてつもなく痛いが地面がひんやりしていた。
ぬるりと暖かい何かが額から垂れてるような感覚がする。


やっぱり……ただの一般人がやるべきことでは無かったらしい。
分かってた……でしゃばってることくらい。

当たって砕けろを見事に体現して見せてしまった身体は痛くてとてもでも動かない。
リンク達が叫んでいるが、朦朧としかけた意識では何を言っているのか聞き取れなかった。

無謀だと言えたこの行為。
当たり前の結果だ。大して努力もしてない、運動能力もない人間にはこれで十分活躍できた方だろう。
天国に行くのか地獄に行くのか分からないけれど、これでリンクが活躍できるなら、……ああでももう少しでも良いからリンクと一緒に旅してみたかったな……。

ゴーマは少しずつこちらに近づいてった……獲物を狩るために。
あ、ゴーマって肉食なのか……それとも殺すだけなのかぼんやりどうでもいいことを思いながら意識を手放す準備はいつでも出来ていた。




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