死を垣間見る




……って何を言ってるんだ自分。

自分の命の危機なのにどんな疑問持ち出してるんだ。
どのみち自分死ぬじゃん。そんな答えが解る時って自分が殺される時じゃないか。

ここで人生終わりハイサヨナラはもうちょっとあとにして欲しいかなぁ。

やっと、やっと此処が現実(リアル)だって認識出来るようになってきたんだ。
今まで此処にいる間は夢で、あの切り株に戻ったら夢から覚めたんだと思ってた。

元の世界に戻れなくなってからは長い長い夢を見てるんだと思った。
けど、こんな痛い思いして、
まだ物語は始まったばかりなのにここで死んでしまうだなんて、
そんなの嫌だって我が儘言ったってバチは当たらないはずだ。
それにここで私が死んだとしてリンクたちが怪我をしないとは限らない。
自分でプレイしてるゲームならまだしも、彼らは自分の意思を持ってここに立っているんだから生き残るための、戦いに勝つために動いてもらわないといけない。

ぼやけた視界の中、見えたのはリンクとミドがゴーマに何か丸いもの……石を投げつけていた。

ああもう、それじゃあ囮の意味がなくなったじゃないか。まだ死にたくないけどリンクたちがここで死ぬ訳にはもっといかない。
誰がハイラルを救うというんだ。ポゥになっても物理的に解決にはならないんだぞ。

ああ、ゴーマの目線がこちらから違う方向へいってしまった。

怖いのなら、もういっそのことその気持ちに素直に従って逃げて、生き延びててくれればいいのにとさえ思う。
けれど今、最悪だが最良なその選択は出来ない。
最悪コキリの翡翠がガノンドロフの手に渡ったとしても物語上、あまり支障はない。リンクがトライフォースにより七年守られ、眠りについていれば良いから。

けれどゴーマがいる限りコキリの森は脅威に晒されたままだ。
デクの樹によって守られてきた彼らには戦う術がない。
将来、森の賢者として目覚めるサリアだっているのだ。
なんとしてでも生き延びててもらわなければ。


『く…ぅぁ……』


今一番良いのは自分の身体が動くことなんだろうけど……。まだ身体がズキズキと痛み、うめき声しか出せない。


どうすればいい?

どうすればリンクの力になれる?

異世界から来たのに、何も助けられないままだなんて嫌だ。
私は我が儘だから、よくある話みたいに力が、力が欲しい……。
どんな敵にも、どんな強い奴にも敵うような圧倒的な力が……。


パシン。


なにか弾けるような音が聞こえた。
突然周りが真空になったとでもいうようにゴーマの歩く音や、リンクたちの声、石の転がる音が一切しなくなった。
音だけがなくなった空間。ついに耳まで使い物にならなくなってしまったのか。


――道は閉ざされた。元の道へ戻ることもできない。


急に頭に言葉が響く。声は聞こえない。けれどそれははっきりと“話していた”。

……ちょっと待って。
何で声……ではないけれど誰かが聞こえてくるの。
ついに頭まで使い物にならなくなってしまったのだろうか。
自分は実はもう一人の闇の自分がいてそれは生前の自分でという某もう一人の僕じゃあるまいな。二重人格は遠慮したい。

元の道へ戻ることもできない……、それは元の世界へ帰れなくなった私のことを指しているのだろうか?


――人は誰しもが力を求める。
それは強大な力を求める剣か?それともより強大な力をも屠る盾か?
どれほど求めようとも、鷹は太陽へ手を届くことなどない。


この会話は一方通行らしい。まるで言葉遊びみたいな言葉を並べてこちらに語りかけてくる。
言っている意味が解らないまま、ただその言葉を聞いていた。


――何故助けたい?
果たして、その想いは何処まで続く?
それは優しさ?それとも偽善?

――物事には必ず代償が必要だ。
君は何を願い、その願いに何を差し出す?


その問い以降、声を発しないのは返答を求めているからだろう。

自分は弱い。無謀にこうやって囮になっても相手は自分達をどうやって殺すかサイコロで手法を決めるようなものだ。

会ったばかりだけれど、自分はそれでもリンクたちを助けたい。
偽善と言われても目の前で死んでしまうよりはマシだ。

けれど、私にはそれに見合うような代償を持っているだろうか?
なにかを求めるには同等のなにかが等価交換として必要だと漫画で何度も聞いた。
私にはちっぽけな生命と、この肉体しかないし何かしら才能やら幸運に恵まれてる訳でもない。

むしろ交友関係は狭いし、いじめに巻き込まれて入院したことはあるし、今だって自分より小さいリンクに頼らないといけないし、
特攻したらこのざまである。

……代償に成り得るものが何ひとつもなくて逆に焦る。
生命くらいしか何もなくない?

これには声なき声も呆れたのか、そっと小さい声を投げかけられた。音もないのに心なしか小さく聞こえる。


――そう、きっかけが無いのなら一度だけ時間を置こう。
さぁ、お行きよ。勇者のもとでその生命を育むといい。


体に暖かさを感じるとともに痛みが消えていくのが分かった。
一体何が起きたのか、あれがいったい誰の声なのか分からずじまいでその声は聞こえなくなった。



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