砂漠の王との邂逅
屋根の上から何やら人だかりができてるのを見つけた。
うん、なんかキラキラと妖精みたいなものが助けを呼ぶように高い所でくるくる飛んでるのは気のせいだと、良いネ。
《ユキセー!助けテー!》
『聞こえない聞こえないあーあー全然聞こえないよー……』
目を逸らして耳を塞ぐ。
あーもう面倒事を起こしてるみたいだ。
おそらくあの人だかりの中央にリンクはいるのだろう、じゃなかったら私の名前だけを叫ぶはずがない。
リンク何したの……?もしかして本当に無銭飲食しちゃったの……?
原作じゃリンクの性格なんて描写は無かったけれどこんなにやんちゃなんて知らなかったよ。
アイテム手に入れるたびにちょっとダジャレ入れるのが好きな感じはしたけれど……。
このままにするのも、ルピーの代わりに宝石を取られたら困るので渋々と屋根から降りて騒ぎの場所へと向かった。
が、人気のある表へあと少しのところで腕を引っ張られたと思ったら、何者かに突き飛ばされ地面へとダイレクトアタックしてしまった。
い、痛っ……!突き飛ばされたせいでメガネがどこかへ飛んでいってしまった……。
「おい見つけたぞこの糞ガキ!」
屋根に上っているときにみつけたのだろうか、声からして先ほどの男がこちらを酷く睨みつけながらこちらに歩いてきたのだろうが、こちらは眼鏡を紛失したためその相貌を見ることが出来なかった。
なんとなく見た目と大きさと声でさっきの追いかけてきた大男だと思う。
『うっわ……まだ捕まえようだなんて思ってたの!?』
「お前みたいな色合いは滅多にいないからなぁ売ったら良い金になるんだよ!」
『ひいっ!人種差別とか誘拐罪とか諸々犯罪……っですよ!?や、やめたほうが……!』
「ごちゃごちゃ五月蝿え!覚悟しろ!」
そう言ってこちらに手を伸ばそうとして咄嗟にしゃがんで頭を抱えながら身を構える。
人攫いにあったら塊のようにこうしろと言われたのが一番に出てきてくれたのはいいが、この世界では果たしてその間に優しい大人は助けに来てくれるのだろうか。焼け石に水のような気がしたが行動に移してしまったためこの行動を取り続けるしかない。
けれど男は自分ではなく、ある一点だけを見つめて、更に顔を青くだらしなく口を開け震えていたのだ。
その視線は自分の頭上よりも上を見ていた。
「ア、アンタは……ぎゃあっ!!」
凄い何かと何かがぶつかった音と、いつの間にか目の前の男が、庇うように構えた自分の前髪の毛の隙間から見える視界からはどこにもいなかった。
構えるのを解いて男の行方を見ると、まるで火に焼かれたかのようにぷすぷすと嫌な臭いと煙を発し、火傷のように赤黒くなって役に立たなくなってしまったその腕を庇いながら這いずる大男がいた。
大男はきっと自分と同じような、下手したらそれよりも酷く情けない怯えた表情をしていたのだろう。
焼けた肉の匂いがなんなのかさえ分からなかった。
いったい自分が目を瞑った間になにが起きたのかまるで分からなかった。
喉から漏れ出した悲鳴を漏らす。
「ひっ、ヒィっ……!」
「早く消えろ、ゲスが」
その背後からによる声に焦って転けながら逃げていく男をただ訳もわからずに見つめるだけしか出来なかった。
なんで……というか、後ろ……?
――ゾクッ。
急に背後の存在がとても恐ろしいような予感がして全身に悪寒が走った。
後ろを振り向きたくはなかった。
無かったが……。
ぎこちなく震えながら首を背後へと向ける。
イヤな汗が背中からでつつも、まるで好奇心のような知らなければいけないという必然性を感じてソレに逆らえずゆっくりとだが頭を上げてしまった。
『ひ……っ』
そう、見てしまったのだ。
背後に存在するはるか向こうの砂漠の民の王を視界に。
視界がボヤけても分かってしまった。
「……フン、なかなか見ない黒の相貌か」
まるで石像のように固まってしまい、脚が動けない。
デクの樹が死守した宝石を狙いに来たときと同じだ。
カタカタと震える肩と手に生存本能がこの存在から逃げろと警報を鳴らす。
もし逸らしてしまったら首根っこを掴まれてまるで屠殺される鶏のように絞められてしまうのではないかと思うほどに恐怖と涙で溢れかえっていた。
今今世紀最大の大ピンチを迎えていた。
しゃがみこみ黒い肌の手が髪に触れるや否や、反射的にその手を払ってしまった。
あ、死んだかもと思った。バランスを崩してあの逃げた大男のように這いずりながらも何か言い訳を考えねばと三流のような言い訳を百年に一度誕生するゲルド族の王の前で即座に並べ立てるとは日本人とはどこまでアレなんだろうか。
『す、すみません、先ほどはありがとう、ございます。つ、い動転してしまって、本当にごめんなさい。で、でも……な……何で……私を助けたんですか……?』
つい口を滑らせ変なことを聞いていた。
このまま感謝の言葉を言ってさっさと逃げればいいのに腰が抜けたままで動けない私は聞いてしまった。
死亡フラグビンビンでリセット機能があったらぜひ城下町に辿り着く辺りから人生やり直したい。
目の前にラスボスがいたとしても聞きたいと思ってしまった。あのゲルドの盗賊王と呼ばれ、このハイラルを支配せんと画策している男が一介の娘になぜ救いの手を差し伸べたのだろうかと。
たとえその答えが気まぐれでも知りたいと思ってしまった、がそのあとすぐに後悔した。
ヤバイ、思考が可笑しくなってる。
もしかして角度的に私がとっさにしゃがみ込んでなければ大男の腕と共に私も頭がなくなっていたのではないのだろうか。
それを考えたらさらにちびりそうになった。
先生、お家に帰りたいです。
帰りたくても言えない、帰りたくても家ないけど。
「フン、普通ならあの男のように逃げ出すものを……。それとも恐怖で動けないか、単に恐れ知らずか」
彼の言う言葉にうんともすんとも言わない……いや、言えないしそれに視力の悪さに今こんなにも幸せだと思ったことはない。ぼんやりとした世界でこちらの態度に満足したようくつりと笑う。
いや、怖い。普通にやっぱり怖い。
さっきのあの大男が負ったあの大火傷ですむかも分からない痕。きっと助からないかもしれない。
……あれってこの男がやったんでしょ?
笑みが深くなる度に冷や汗が大量に出る。
蛇に睨まれた蛙の様な気分で密かに生唾を呑み込み相手を伺うように俯いていた顔を上げたが、それがいけなかったのだろうか。
「この俺をゲルド族の王と知ってかは知らんが良いだろう。教えてやる」
『っ!?』
ニヤリとその獲物を狩るような瞳孔の開いた鋭い瞳が笑いながらこちらの顎をガッチリとつかまれた。
いい具合にグキッと首の骨が鳴って痛い。
いけない音が鳴ったきがする。
それすらも気にかけずに盗賊王は出来れば流してほしかった問いに答えた。
「一つはただの気まぐれだ。俺はハイリア人が嫌いだからだ。特にあんなゲスは城にうじゃうじゃと虫のようにいる。
あの長耳は神の声を聞くというが奴らが聞こえるのは騒音だけだろうな」
『は、ハイリア人って……私だって……』
「お前はハイリア人とも他の種族とも違う」
私はなりたくてハイリア人になったわけじゃない。
そう話す前にそう言われ、心臓の鼓動が大きく高鳴った。
なぜ分かったのか……?自分にもいつの間にかだがハイリア人らしき耳を持っているのだ。
耳の形だけでそう言っているのかもしれない。
「お前の髪、瞳は一部の好き者が好む色だ。このような暗い場所に来るなど自ら火に入る虫の様なものだ。
せいぜい狙われないようにするんだな」
そう言い放ち、やっと顎を離してくれてほっとする自分を彼は通り過ぎて暗い路地の曲がり角へと消えていった。
カチャリカチャリとガノンドロフの鎧が揺れる音が聞こえなくなるまで、自分はといえばずっと地面に座り込んだままだった。
いや座り込むしかなかった。肩が、脚が重く感じるのだ。あれが王たる存在。あれが未来のリンクの宿敵。
しばらくしてやっと喋れるようになり出した一声は、
『……ラスボスと喋っちゃった』
これにはなんとも自分でも情けなく呆れるばかりだった。