無銭飲食の反省
周りに誰もいなくなってからもしばらく動けなかった……。
ラスボスと会話、なんて感想はなんとも呑気なものだがあとから時間差で恐怖が滲み出てきて動けなかった。
圧倒的な存在感、圧倒的な脅威。
盗賊王にして砂漠の神。ゲルド族の中で最も強い魔力を持つ王。
“あんなもの”に自分はリンクを挑ませようとしていたの……?
幼いリンクでは、いや大人になったとしても知識と経験の差があり過ぎるのではないのだろうか?
そんな考えがよぎってしまう。
さっさと忘れてしまおうと先ほどの出来事を振り払って無理やり立ち上がり路地裏を抜けた。
もうあの大男はどこにもいなかった。
あの大怪我で大丈夫だったのだろうか……。
医療技術のないこの世界では魔法か、もしくは切断するしか方法が無さそうである。
その様子を想像してしまいぶんぶんと頭を振りながらそれも忘れることにした。
思い出したら吐いてしまいそうだったから。
私は何も見ていなかった、すべては白昼夢である。
広場の一番騒がしい場所へと入る。
なにやらガヤガヤと騒ぎの中から「お金の使い方を知らないなんて孤児かしら」なんて言葉が聞こえる。おおかた、いや自分のなかではリンクしかいない。
言葉通り、人を掻き分けながら少しずつ進んでいく。
『すいませんちょーっと通りまーす……』
なんでこうなったんだっけと思いながら人と人の隙間をくぐり抜けてリンクに近付く。
あっちもなんでこんなことになったのかは知らないけれど、さすがに単独行動して食べ物勝手に食べた尻拭いなんてしたかないよぉ……。
しかし自分は保護者的存在……しなければいけないのである。
荷馬車でおえおえと酔っている場合じゃなかったな……お金のやりとりについて教えるべきだった。
人だかりの中心で騒いでた大人たちが急に静かになった。
何かあったんじゃないかと無理矢理でも人を押し退けてリンクの元へと向かった。
もしかしてガノンドロフがリンクに接触したとか?そんなことがあったら大変どころか世界が終わる。
『リンク、リンクー!』
「姉ちゃん!」
リンクはぱぁっ、と顔を明るくしこちらに寄ってきた。
ナビィはホッとしたように忙しなかった羽の動きを緩めた。
それを見て私も強張っていた体がやっと解れたような気がした。
『大丈夫?何があったの?』
《それがリンク、お金を払わずに物を食べちゃってね……》
ナビィから聞いた話によると何やら腹が空きすぎて本当にお金を払わずにバクバクと屋台の食べ物を爆食をしたらしく、お金も1ルピーも持っていなかったリンクは店の人からコキリの翡翠を取られそうになったとか。さすが勇者、ある意味それも勇気がいるか。
無知とは時に凄いことをしでかすんだね……。
一瞬過った最悪な考えを打ち消してため息を吐きながら笑った。
とにかくリンクとナビィが無事なら良かった。
最初のナビィのヘルプの叫びを無視して悪漢に追いかけられ、何故かガノンドロフと接触してしまったことは心の内に秘めておいた。
『あちゃー、私のカバンの中にルピー入ってるんだからお腹空いてたら言ってくれれば出すし、今度からちゃんとリンクにも渡すからそれで渡して買うんだよ?
……まあその前に私のそばにいないと渡せるものも渡せないからね』
「ごめんなさいぃ……」
『私もリンクに物々交換について話せば良かったのを忘れてたし、リンクと手を繋いでれば良かったのもあるからおあいこね』
しゅん……とわずかに耳を下げて謝るリンク。だがもちろん許すに決まっている。
当たり前なのである、可愛いからね。
それにこちらにも非はあるのだ、世間から隔絶された世界で育った人間に最初から慣れろとは言えないし、この世界の常識が私の元の世界の常識と合致するかなんて分からないのだ。
お上りさん状態である。
けれど謝らなければいけないものなのですぐさま屋台の店主だろう人たちに頭を下げる。
『あ、あの、すみませんうちのリンクが迷惑をかけてしまって……』
うちのというよりデクの樹の、て感じはするが細かいところはともかく迷惑掛けたお店の人にも謝ろうと向かったが、何故だかとても良い笑顔で気前良く許してくれた。
んん?何でだろう。
コキリの翡翠も取られないで済んだのはとても良いことなんだけれどなんだか思ってた対応と全然違う。
《なんか不純な許し方な気がするけど……。
あのね、この子が助けてくれたの》
不純とは?とはてなが頭上に浮かぶ。
ナビィがふよふよと飛んでった先には可憐な少女がいた。
リンクとはまた違った気品のある黄金色の髪色に清楚な薄いピンクのワンピースを着こんだ少女はふわりとした微笑みを向けた。私は天使でも見ているのだろうか、ここはもしかして天国なのでは?
自分の不純な気持ちはすぐに遠くへ追いやり頭を下げながら鞄をごそごそと漁る。
『ごめんね迷惑かけちゃって。リンクのこと、ありがとうね……ええとお金……』
「ううん、良いんです。お金も大丈夫です」
『いやでも、』
《代わりに一緒に遊んで欲しいんだって》
どれくらいお金を払ってくれたのか分からないし、所持金も僅かしかないから払えるか分からないんだけれど……遊びでチャラになるならとても有り難い。
他の人とは違い、珍しい妖精を連れた緑と赤の似たような変な格好をしたポッと出の田舎者みたいなのと一緒に遊びたいだなんて物好きだなぁと思ったが、それで良いんならと頷いた。
まぁ、お金を返すにしても持ってる額は少ないし……それこそ雀の涙なので本当に良かった。
この子と親御さんにも感謝しなくては。
とりあえずここでは目立つからと人の群れから放れて隅の方へと向かった。
でも遊ぶにしても、私たち二人と妖精一匹はこの城下町を訪れるのは今日がはじめてで辺りのことは何も知らない。
そしたら彼女も知らない、今日がはじめてだと言うではないか。
えーっ、どこの深窓のご令嬢?
一緒に遊んで捕まらないよね?というか貴族制度がこの世界にあるかどうかも分からないけどもしかしてもしかするとこれはキーパーソンな子では??