ちっぽけに見えた現実
初めて……異世界観光?をしてから数日が経った。
まだこの事は誰にも話していない。秘密にしたいという訳では無いけど……きっと、これからも話すつもりは無いと思う。
まず先日と一緒にいた友人に話したとしても信じてはくれないだろう。自分でさえ昨日の事をあまり信じてないのだから当たり前だ。
お昼休みの教室の中、ふと嫌な視線に気付く、が敢えて無視をする。
私はこの視線が嫌いだ。
大人しそうな人間を目につけて言いなりにさせようとマウントを取る、その視線が。
昔はいちいち癪に障るものだからその都度対応していたけれど、ある事件がきっかけとそれでもそのしつこささに諦めて無視することでその場を納めてた。
無視されるのが気に食わないのか手を出されることもあったけれどそれでも無視した。
もうごめんだった、こういう奴らに関わるのは。
歪んだ笑みを浮かべてクスクスと陰口を叩く。叩くだけ叩いたら開始とでも言うように此方に醜悪な笑顔を浮かべて来た。
「ねぇ赤桐さーん」
「ちょおっと頼みたい事があるんだけれどぉさぁ、お昼御飯買ってきて欲しいんだよねぇー。私達、ちょうどお金忘れてきちゃってさぁー」
語尾伸ばすな気持ち悪い。
……なんて言えないのが自分の性、ああ自分が怨めしい。
こんなときに 「なら自分で買いに行きなよ馬鹿らしい。語尾伸ばすなキモい。ほら、そんなに食べたいならそこら辺のゴミ置き場でも行って漁ってれば良いんじゃないかな。その方がエコだと思うしお昼ご飯代浮いて良いしそれこそ相応しい食べ物だよね?」
なんて、言えば。
「はあ?何コイツ反抗してきてムカつく。ちょっと校舎裏にk(ry」
て返ってくるだろうしなぁ。これ以上面倒臭いから止めて欲しいんだけども。
………眼鏡と目を隠すような長い前髪がいけないのだろうか。いや、他にも似たような人はいるが悲しいかな性格は月とすっぽん並みだ。短くしたら恥ずかしいだけだ、自ら恥じるような事はしたくない。
卑屈なままがずっと、いい。
しかし、無視してもぎゃあぎゃあと騒ぎ出しそうだし、かといってんなこと素直に聞く必要なんて無いし。
頭の中で天秤にかけたがそれでもそのまま無視したままでいいかな、と思っていたその時。
ぎゅむ、と勢いよく抱き着いて(私の肋骨が机の角に当たるおまけ付き)くる人間がいた。
『………重い、痛い、苦しい』
いきなり飛び出てきた(抱き着いてきた)人物は自分の全く多くない友人その一。
というか期間的にも最も交友が深い同性、と思う。
「ねぇねぇお腹空いたー、ご飯食べよー?」
始終笑顔でかなり近い位置にいる二人女子を完全に無視して早く食べよー、と駄々を捏ねる友人。
私にもその勇気が欲しい……。
更には人の鞄を漁り弁当箱を取り出して(待て、なんでそれを)いつも食べてる場所へ移動した。
『あ、ちょっ』
「今日はコロッケパンがいいかなそれともカニクリームコロッケパンがいいかな、あ、カレーパンも捨てがたいなぁねえねえユキセ、どれがいい?」
『……コロッケパン』
「じゃあそれにしよー」
……この子は第一に食べ物を考える人間だ。
一に食、二に食、三に何故か私、四に同じ位置にゲーム!と豪語していたのを思い出す。
いやまさか、この子が自分を庇うなんてましてや、この育ち盛りの年頃でお腹が悲鳴を上げる昼休みにそんなことするはずが無かったようだ。
なんでこいつと友人関係出来てるのだろう、自分がわからなくなってきた。
『はぁ……』
「ん、どした?」
『……はぁ』
「ちょっ、人の顔見て溜め息吐かないでよ!」
溜め息も吐きたくなる。
この友人は私によく付き合ってくれるけれどよくわからない人物なのだ。
噂では一部で恐れられてるらしいしさっきの2人もなんだか怯えた様子だったけど一体知らない所で何してるのか分からなかった。
キュッ、キュッ、と上履きがワックスを掛けた廊下を擦る音が複数聞こえる。弁当や食堂で買ったものを持って行き来する人が沢山いるなか、弁当を落とさない様にしっかり持つ。ぶつかって落としたら大変だ。
廊下を歩いてる途中、友人はこんなことを聞いてきた。
「前に描いたポスターのさ、あれ何処で描いたの?あんなにいい所あったっけ?」
あ、あれね……。
途中異世界で描きましたー、だなんて言えないし。それにそんなに良いものだろうか。ただ着彩しただけのものだ。
けれど自分でも不思議とその絵はクオリティがアップしていたのだ、今までの私とは違うくらい細密描写されていた。
顧問も褒め称えてくれたがなんだか素直に喜べない。
『あー、えっと……ちょっとね』
「えっ、なになに?どういう手法?」
『ほら、有名な人だってある程度省いたり自分の世界作り上げるでしょ?それを真似してやっただけ……』
「ほんと?あー、テレビで見るやつね!盲点だったー!」
プロとアマチュアの違いって悪く言えばどれだけ見てくれる人を騙せるかによると私は思う。
私はそれほど真剣にプロを目指しているわけじゃないけれど、是非とも見習いたい箇所だ。
……けれど余計に私の今までの作風とその絵に違和感が募った。
目と鼻の先に購買所が見えたところで友人の目が光った気がした。
「あ、パン買ってくるねーん!席取っておいてー!」
『わかった』
コロッケーとふんふん歌いながら走っていく友人を一瞥し、食堂のテーブルで自分も弁当を広げた。
あまり好かないこの弁当をしょうがないと思いながらもつつく。
『(そういえば今日は短時間授業……か)』
ならば思い立ったが吉日、ともくもくとおかずを食べながら午後の予定を組むのだった。
その後、
「あー先に食べてるし!浮気もの!」
と言う友人に軽く白けた目を向けると愚友はorzの状態で嘆いた。
しかし持っているパンの数が女子中学生のものとは思えない量なんだけれどそこは指摘してもいいのだろうか。
えげつない量に咀嚼していた口が変に引き攣った。