迷いの森



思い立ったが吉日、というのはまたこの森へ行こうと算段したのだ。
地元というのもあって電車で乗り継いでいけば行ける距離だ。
異世界へ行けることに少し、いやだいぶドキドキしながら霧が消えるのを待った。
しかし謎の頭痛に襲われ切り株にしばらく蹲っていた。


『う、うぅ……』


なんか頭がぐわんぐわんとする。
次元を越えた副作用……とでも言うのだろうか?
切り株に座り込み、暫くこの頭の違和感に振り回された後、ようやく止まった。痛みはないけど脳みそが揺らされてる感覚だった。
後遺症残らないよねこれ……。
前は感じなかった違和感に悩んだ。

改めてまわりを見渡す。
うん、前に来た時と変わらない風景。霧も段々と晴れてゆき、視界が良くなった。

しかしどういった仕組みで世界を行き来ができているのか……。

なぜあの切り株からこちらへ来れるのか非常に不思議で、最初は霧が辺り一面を覆い、暫くすると消える。目に見えるほど異常な速さで霧が動くのだ。
不思議でしょうがない。


『しかしリンクが見えない、と』


仕方ない、あの時に何時になど会う日にちも時間もちゃんと決めてなかったし。
ただ、もしまた会えたなら、と思っただけだった。

分かりやすいように前会った時の服に着替えて、山を登り切ったところにある切り株に佇む。
動きやすいジーンズにパーカー、渡したいと思ったものを入れた鞄。
またあの場所へと行けるとしたら此処しか思い浮かばなかったから。

単身一人コキリの森へと行っても外の見知らぬ人間だと他のコキリ族を怯えさせてしまうかもしれないし、
迷いの森の中をうろつくのは一歩間違えると森に食われる、スタルキッドになる可能性だって出てくるのだ。
なにが起きるか分からないから用心に越したことはない。

けれど、スタルキッドにも性別はあるのかとか若干ズレたワクワク感はあったりする。

何処もかしこも木々が光を遮って薄暗い。この場所は明るいけれど、まあ緑緑としてるから絵を描く時山百合を加えたりしたのはたしかに良かったかもしれない。

とにかく、ここでジッとしてるのも暇だし探した方が良いだろうか。
思ったが吉日だなという訳で歩きだした。しかしながら自分は此処が迷いの森という事を失念していた。



* * *



薄暗いから当然草で腕を切ったり。
半袖で来るべきでは無かったな、掠り傷と泥だらけ。下はジーンズだから幸い傷は無い。
しょうがない、さっきまで暑い所にいたのだから。しかし此処は暑くないから薄手のパーカーだったが、今度から上着でも着て行った方が良いかも知れない。
というか今度……があるかは知らないがそうしよう。
一人で自己完結してると足にブニ、と柔らかい物をふんだ。


「……」

『……』


どうやら、頭に草を生やした此処の住民を起こしちゃったらしい。
あはは、ユキセったら悪い子……。
…………。



『ヒ、……ゼェッ、ゼェッ……ゲホッゲホッ!』



種が当たった後頭部を摩りながら木の影に隠れた。
頭がクッソイタ……うぐぐ、あんなろ……後頭部に当てやがって……!
あう、軽くコブが……。

だいぶ息が落ち着いたところで、周りを窺う。どうやら撒けたようだ。しかし耳をすますがなにも聞こえない。聞こえるのは自分の呼吸と森から来る虫のさざめきだけだ。

今自分が置かれてる状況を一言で表すと、
迷子である。

薄暗く、とにかく撒く為だけに逃げ惑った。
とにかく脚を沢山動かした。
普段動いてない訳だから明日は筋肉痛確定だろう。


『(どうしよう……)』


迷い易いほどに同じ景色が続くから迷いの森と呼ばれてるだけあって、今何処だかもわからない。
誰も此処に迷っている人がいるなんて知らないから自分で人里がある所へ歩くしか無いようだ。

最悪此処でターザン生活か……。
最近勉強続きでそれも良いかもしれない……。
ここに食料があるかわからないけど。
ああでも現代社会の利便性が失われるのは困った……。
ターザン生活の以前にスタルキッドに成り果ててるか、スタルキッドって何を食べてるのだろう?
人の肉?肉食系とか冗談……。


『………ホントに異世界、だよね』


零れた言葉は静かな森の中に消えた。
けれどこのほわほわとした違和感は消える事は無い。妙なところで自分は現実主義だったらしい。

だってあり得ないじゃないか。

異世界なんて行ける訳など無いのだ。
物理的にもどんな理論をもってしても不可能だ。
所詮彼もあの襲ってきたモンスターもゲームの中の敵、画面の向こうの世界の住人のはずだ。

自分は今本当に此処にいる?

きっと此処は夢なのかもしれない。
またその考えがよぎる。

現実はずっと意識不明の中にいて此処で走って疲れて……。
けれど、これが夢ならリンクのあの笑顔も描いた絵も夢となってしまう。
そこだけ不明瞭な矛盾を抱えてしまう。
それがとても恐く感じてしまった。



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