コキリの森



『……誰かいないー?』


心許ない声色で助けを呼ぶ。
……いるわけ、ないか。
なんせ迷いの森と言われるくらいだし、迷ったら二度と人に戻れないと云われる所に人が来ることなんてない、か。
少し絶望にも似た諦めをしていた時。


「だっ、誰だお前!」

『へ?』


ぼやいてたら近くに誰かいたらしい。誰かがそこにいた。
リンクと同じ緑の……コキリの服、だろうか?暗くて近寄らないと解らない。


『?
誰?どちら様?』

「お前こそ誰だよ!ここはコキリの森だ、よそ者が来る場所なんかじゃねぇ!」


質問を否定で返された。
悲しい。

近寄ってみれば薄暗いなか、保護色のどこかで見たシンプルな服を着ていた。
うん、コキリ族のようだ。前髪が長く、目を悪くすんじゃないかっていうくらいに伸びていた。
前髪が長いところに少し親近感が湧いたが自分はあそこまでじゃない。


『えっと……、森に迷っちゃって』

「えーっなんだお前もかよ。よそ者の癖して迷うのかよ、スタルキッドにされんぞ!」


よそ者はこの土地にはじめてくるからよそ者だから……。
という事はあっちも行き方も今いる位置も知らないようで、目の前の子はまだしも私だけスタルキッドになってしまう。
手掛かりがまるでないからこれは困った……。

さて、どうしよう。自分ができる選択肢はいくつか頭の中にあるけれど……。

一つは少年(この男の子)と探す。二つめは一人で探す。三は諦める。
最後の四つめはスタルキッドになる。

……一番か二番しか有力候補がない。
スタルキッドにもなりたくないしこのまま一人にもなりたくない……。
この暗い中一人行動はしたくないから結局この子に着いて行くしかなさそうだ。


「くそぅ……リーダーがあんな事
しなきゃこんな目に合わなかったのに……」


何やら少年がぶつぶつ言っている。迷うとスタルキッド、このままだとスタルキッド、何とかしないとスタルキッド。
なんで魔物に追われたとはいえ、無謀に辺りをさ迷ったのかなぁ……。
このまま家にも帰れないのかな……。

『はぁ………』

「話聞いとけば良かったナァ……はなし?はなしはなし……
ああっ!」

『うっさいっ!……なに、何か思い出したの?』

「風が吹いてる方へ歩けば自分の行きたい所へ帰れるって聞いたんだった!よっしゃこれで帰れるゼ!
お前もとっとと森から出ろよ!」


ずいぶんなご都合主義だなと思いながら
少年にならい舌で軽く唾をつけ、風を探る。つか早く思い出せよと一人愚痴る。

風は外から来るのかコキリの森からなのか解らないが、やってみる価値はあるかな。
暫くすると風が指に当たった。コキリ族の少年の方に振り返ったが、既にその姿は無かった。
え、うそ私だけ置いてけぼり?
すでにはるか向こう側でガサゴソ音がするだけだった。

少年の言葉は確証は無いが、今は藁にもすがりたい気持ちなので歩いた。
ずっと同じような景色を延々と歩くのはしょうじき怖くて仕方なかった。

何度か確認しては風が当たる方向へ進むと少年の言った通り、切り株辺りまで戻る事が出来た。

なるほど、闇くもに歩いたら疲れて果て死んで。スタルキッドか森の栄養分……て感じかな?
やだ、なにそれ怖い。



* * *



切り株に座っている少年に声をかけると安堵のような喜んだ顔を見せた。


「姉ちゃん!」

『やぁ〜……まだスタルキッドにはなってないよー……』

「お姉ちゃん生きてたんだね!良かったぁー!」


また会えたねと力なく手を振る。
日にちが空いていたので、忘れられたか迷って死んで森の栄養になっていたかスタルキッドになったと思われたみたいだ。
忘れる以外碌な目にあってない……。
こちらを見てリンクが驚いた表情をしていた。


「姉ちゃん凄い格好……」

『え?あぁ……これは』

「ついてきて!」

『え?う、うん』


ここは迷いの森よりもなんとなく明るかったので自分の状態を見てみれば、髪の毛には枝や葉っぱが引っかかってズボンは泥だらけになっていた。
手や腕も血が滲み出ている。

切り株から離れ、暫く歩くと(自分が探した場所とは反対……だったらしい)小屋がいくつかあるだけの森に囲まれた小さな集落へと辿り着いた。
ここが……コキリ族の森だろう。
はじめて見る光景に呆然とする。


「ほらほら早くっ!」

『え、え?』


あたりは既に夜になっていて、しん、と静かで虫の鳴き声が聞こえるだけだった。
外に出ているのは私とリンクの二人だけ。誰もがもう寝ているようだった。
起こさないように静かに移動する。


『………?』


着いたのは一本の木ををくり貫いて作られたかわいらしい家。リンクの家のようだ。
高いところに作られてるのは魔物避けかもしれない。


「ほら、ここになら治せる薬とかあるからさ。お姉ちゃん、お家遠いでしょ?」

『あ、なるほど』


嘘が役に立つとは。
有り難く薬を使わせて貰う事にした。……けれど使い方が解らない物だらけで一つずつ教えて貰った。
なんか毒々しい色をした薬(?)もあったが冷や汗を垂らし教えてはくれなかった。
……?
聞かないでおこう。

後に教えて貰い衝撃がリンクのように冷や汗と共に出て来たのはまた別の話だ。


「オレさ、もう来ないかと思ったんだ」


ふとリンクがこう呟いた。腕の治療をしてくれているので頭と帽子しか見えなくて髪に隠れて表情が見えない。


「外から来た人はみんなスタルキッドになるって、言われてるぐらいだし。お姉ちゃんにまた会えてよかった」

『あはは……』


自分もそう思った。
昔から悪運だけは良かった……怪我だらけだけど。


「真っ暗のなか大丈夫?」

『大丈夫、姉ちゃん(悪)運は強いから』


不安な表情をされるがからっと笑っておく。
運で乗り切れるさ……多分。
霧が溢れる森の中、歩くのは正直怖い。超が付くほど怖い。
しかし、帰らねばいけない。


『大丈夫だって。
あ、そうだった、これあげるから』

「………何これ?」


渡した物は小さい頃みんな使ったであろうクレヨン。ちなみに新品。食べても平気な天然の素材を使った物。
それとスケッチブック。


『これでなにか自分の好きな絵を描いてみて。風景だけじゃなくて好きな子とかさ』

「うわぁ!ありがとう大事に使うよ!」

『ん、それじゃ』


後ろへ手を軽く振りながらリンクに背を向け、暗い森を携帯電話の光を照らしながら歩いた。
何とも不思議なもので、行きはあれだけ迷ったのにただまっすぐに霧の薄い所を歩いてたら切り株へとたどり着いた。

切り株の周囲だけ霧が晴れている。まるでこの場所だけが異質な感じがする。精霊みたいな存在でも住んでたりするのだろうか……?

前と同じように霧が自分がいるところまで濃くなってから強い風が真正面から吹いてきた。
それを目をつむり、耐えるとそこは一瞬で場面を灰色から茜色へと変えていた。

晴れた空はまだ赤く染まっており、時間を確認すると五時だった。なんでまだ明るいんだろうあっちは暗かったのに。携帯電話を除いてもその数字は夕方を示していた。
……前は時間は一致していたのに。
なんでだろう?

時間差があるものなのだろうかと考える。なんせ世界を跨ぐ移動。
もしかしたらなにかリスクがあるのかもしれないと考え、この場を後にした。



prev/next


back