異世界の朝で朝食を



ポッポー。


ポッポー。


ポッポー。

クルポッポー。

ポッポー。



『……うるさッ!』


思い切り起き上がって窓の方へと叫ぶ。
ベッドのすぐ側の窓辺にいたやけにでかい小鳥は声に驚き、バタバタと羽をバタつかせそのまま飛び立っていった。視界に入った人間にビクついたみたいだ。

……。

なんだあの茶色い鳥は、あんなのいたっけか。
まあいいや。

もう一度寝ようと布団に潜る。

……。
………。
…………。
………………。


『ちょっと待って』


ガバッと勢い良く起き上がり、
布団を蹴り払い近場にあった眼鏡を掛けながら、硝子越しの窓の外を見る。

まだ若干ボヤける視界のなか低血圧にしては忙しなく動く目が捉えたのは空を飛び回る茶色い目付きの悪い生き物。なんだかよく見たらでかい鳥もいる。
なんだよアレ、太陽光を遮るほどの巨大な鳥って日本にいたっけ?

たしかお隣さんは屋根が紺色の普通の二階建てとまでしか覚えていない。
それがまるでこの家が木に囲まれて見えるではないか。
そもそも私の家は今のところ森の中に立っているわけじゃない。そんなアメリカンテイストな別荘でもない。至って普通のサラリーマンが家庭を支えている普通の一軒家なのだ。

木々の隙間を縫って見えるそこは知っているようでよくよく考えたら知らない町だ。
自分の部屋の窓から見える景色に、家の向こうの大きな野球ドームのような施設なんて見たことない。
そんな近場に家は構えていない。あるのは銭湯とコンビニくらいである。


『……どこだ、ここ』


どこかで……いや、飛んでる鳥はかなり見覚えがあるようなないような。

机に置いてあるGBASPを見る。
昨日遊んでそのままにしておいたはずのカセットは無く、代わりに別のゲームが入っていた。
電源をつけて起動させれば「わっふー!」という可愛い音声が。
この世代の機械のソフトには音声が入ることはまだすごく稀なことなのだ。


『お、探してたゲームだ。やり』


さっそくそれをやろう……てしてる場合じゃない。
荒れたままの部屋から無くなったものは“それ”関連のものばかりだった。唯一あるのはあの黄色いフォルムをした赤いほっぺとギザギザ尻尾が特徴のぬいぐるみくらい。
さっきあら探ししてわかった。
というか、また部屋が汚れた……いや汚した。

下から親が自分を呼ぶ声が聞こえる。間違いなく自分を養っててくれている親の声だった。
手に持ってるぬいぐるみも下から呼ぶその声すらも懐かしいと思うのはなんでだろう。
親の元へ行く途中、そういえば寝る前にふとなにか聞こえた気がしたことを思い出した。

しかし、知らない声のような気もした。
知り合いにあんな声の持ち主はいないし、あの時は携帯を弄ることもしなかった。
結局誰だか解らず幻聴だろうと結論付けてリビングについた。
まだ眠気があって脳みそもあまり働かずうとうとしていた。


『おはよう……なに』

「なに、ってあなた今日旅立つ日でしょう?」

『へぇ……、へ?』


パンに目玉焼きにベーコン、そして湯気の立ったコーンスープ。
それを口に入れながら適当にチャンネル回していたらそんなことを言われた。
どのチャンネルを回しても理解できる番組がなかった、まぁそんなことだろうと思った。
えっと、目の前にいる母は……うん。
いつもの母だ。
母といっても義母だけれど。

自分としてはあまり馴れ親しまない義親である家族の会話に久しぶりに突っ込んだ気がする。
まだ眠気が取れてないからだろうか……いや確実に義母の放った言葉のお陰である。
また突拍子もないことをいきなり言うなぁと思ったらマジでした。
マジか。
マジだとは思わなかった。


「ほら、今日でしょう?トレーナー試験を受けるの。世間より遅いけどまぁ平気でしょうね」

『あ……あの、ちょっと待って』

「ん?」

『もう少し先伸ばししたいんだけど……』

「どうして?」

『……部屋が散らかりっぱなしだからさ。それ片したい』


そう言えば早く片しなさいよと義母は渋々と納得してくれた。
理解出来てないまま外になんて放り出されたらのたれ死ぬのではないだろうか。

ましてや手持ちもいない。
別になくても構わないのだけれども……確実に不利だろうな。
まあトレーナー資格さえ取れば貰おうと思えば貰えるだろうなと適当な気持ち。
手持ち無しで野生の携帯獣たちが暮らす場所に入るのはタブー視されてた筈だし。
だからトレーナー試験を受ける予約を誰かがしたのだろうか。しかし義母は私があたかも予約したか声を掛けたように言うがまったくその記憶はない。
とにかく、理由を付けて旅は先伸ばししてもらった。
あまり片付ける気は起きないが。


それよりも外の様子を見てみたいのだ。
けれどテーブルに投げ出された新聞を読んでみてもこの町のことすべてが分かるわけではない。

とりあえず、家から出てみなきゃ分からないのだ。
ここは何地方でどんな町にいるのか。
漫画の世界だったら終わりだなぁ……読んだこともないから。
憧れのポケモンに触れる嬉しさと知らないうちに元の世界から飛ばされてしまった我が家にとても複雑に思いながらパンの最後のひと口を口に入れて早々に外に出る準備した。