いうほど都会ではない



『はは……ハロー、異世界……』


なんだか懐かしい感じもドキドキする感じもするが意を決して外へ出てみた。
片付ける話は後でやると言ってそそくさと朝食を食べて逃げた。

視界に入ってきた情報量により現実の世界よりも緑が多いことが手に取るように理解できた。
この家の外玄関から続いている道路は本来あるはずのアスファルトやコンクリートではなかったし、周りの針葉樹林は手入れの行き届いていてポケ……携帯獣が周りを警戒しながら実を齧ってるのが葉に隠れながらもその様子が見えた。
こんなの元の世界ならすぐ伐採されて道路もきちんと舗装されちゃうんだろうなぁ……。

丸い体から生えた草をゆらゆらと揺らしながらナゾノクサがそこをゆっくり歩いていた。
謎の音声じゃなくてガチで「ナッゾー」と挨拶して去っていった。
ちょっとだけ可愛かった。青い丸い体に草が生えてる二足歩行の生き物という観点からではあまり可愛くない。

自分の家はどうやら郊外にあり、近くに大きな町が見える。
そこへ向かう人が遠目で歩いているのが見えたのでとりあえず自分もそこへ向かうことにした。
なんだか不安なようなワクワクするような……いや一人ならまだしも家族まで巻き込まれてると一概にも楽しめる空気にはならない。



* * *



町の中を歩いてみれば人通りが多くて、立ち並ぶ建物も都会の様に思えた。
元の世界だとここまで人がたくさんいる場所は駅前くらいしかないだろう。はて、それを考えるのもなんだか懐かしい気もする。
地元を考えると懐かしいことばかりなのだ。
まずは巨大なデパートのような建物を見る。
タマ……ムシ、デパート……、すると此処はタマムシシティか。

参った。
マサラタウンから遠い。
町をうろうろしていると路地の方でふと黒が見えた。なにやらコソコソとしているが昼間のタマムシシティでは逆に目立つ。

……ロケット団かなあれ。

テレビでも名前の知らないトレーナーが大活躍でなどといったものばかりで大々的な悪事は報道していなかった。

だからまだ見てみるふりしていても良いだろう。善人ぶることへのメリットもないし、こちらも家族にまで目をつけられたくはない。

それを見過ごしながらちらっとフロントガラス越しからポケモンセンターを見た。
やはりジョーイさんはおなじみの顔だった。
違うポケセンでも何人も似たような顔がいるんだろうな。似すぎて逆に恐い気がするのは気のせいだろうか。

そのあとフレンドリィショップへ立ち寄ってみた。
ここは普通のコンビニ感もあるので気軽に立ち寄れる。
デパートの中にもあった筈だけどちゃんとあるんだなぁこのお店。
さすが都会。同じお店が二つもあるのはなかなかないのだ。
その点を考えるならば不便な世界である。

ペットボトルや弁当やその他雑貨など人間用の製品があるのはおなじみだけど、
元の世界と違うのはポケ……ポケモンでいいか、ポケモン用の製品も同じくらいずらりと棚に並べられていた。
傷薬やらフードやら……この赤と白のコントラストのボールはモンスターボールか……隣にはスーパーボールも陳列されていた。ハイパーボールの取り扱いはここではしていないようだ。

暫く雑誌コーナーに居て雑誌を読み続けた……らやばいくらい漫画が面白い。
ポケモンとの暮らしでのんびりDIY生活とか楽しそうじゃないか。炎や電気ポケモンがいれば溶接もしてくれるのである。
なんと便利なことか。

ってこんなことしてる場合じゃない。
いろいろと物色しているうちにだいぶ時間が経ってしまった。
後回しにしていた掃除をする時間がなくなってしまう。
私のことだから掃除が終わる時間は遅いのだ。

ポケモンは人と同じ扱い、進化の中で人が一番上で次にポケモン、最後は魚や牛等の動物だろうか?

ヒエラルキー的に人>ポケモン>人とポケモン以外の生物かなぁ。

じゃないと人はポケモンを食べなければいけない。
……ここではそういう食べ物の話はやめておこう。食欲無くしそうだ。
夢や希望辺りが硝子の如く壊れる。

そんなことを考えていればぐぅ、とお腹が鳴った。
思考と体は考えが反対のようだ、でもできれば昼食は肉無しがいい。
そろそろ帰るとするか、探検の続きは食べてからだ。


『……?』


帰る途中、小さな声が聞こえた。

たしか薄暗い路地からだった。なんだろ。
でもあちらは黒い怪しい集団がいた方向だ。
行くのも躊躇うほどに関わりたくないけれど、また聞こえた声にどうしても脚を止めてしまう。


……せいぜいロケット団に絡まれない様にしよう。