萌ゆる緑に身を焦がす


 ああ、隣にシンクが居る。
 幸せだなあ。

 シンクが正式にパートナーとなって僕の部屋に通ってくるようになった。
 僕からシンクの元に行くことは良い顔をされないが、会いたいと我儘を言えばシンクは時間を捻出して会いに来てくれる。
 今日みたいに泊まりに来る日もあれば夜にこっそりと顔を見に来てくれるだけの時もある。
 夜にこっそりキスするだけでも満たされる。なんて幸せなんだろう。

 相変わらず皮肉にまみれた言葉選びは変わらないが、何分知識の偏りが酷いので話していてとても面白い。
 特に性的関連の知識が壊滅的だ。直接的なことは知っていても少し婉曲的になると首をかしげる。
 セックスという単語は知っていても、肌を重ねるとか情を交わすと言われると解らない。
 それが繁殖行為だと知っていても愛を確かめ合う行為だと理解できていない。
 文字通り知識を詰め込まれただけのまっさらなシンクを自分色に染めていくのがとても楽しい。ぞくぞくしてしまう。

 ただシンクは快感に恐怖を覚えているようだ。何も考えられなくなるのが嫌らしい。自我が薄れるようで嫌だと零していた。
 なるほど。自我が成立したばかりのシンクは自分を見失うのが怖いのだろう。そのあたりはドムとして気を付けてあげないといけない。
 まあそれすら乗り越えて身を任せてくれたらそれこそ僕は天にも昇るような心地になれるだろうから、それはそれで魅力的だが。

 朝。狭いベッドで身を寄せ合って目を覚ます。
 隣にある温もりに自然と頬が緩み、僕と違って筋肉の付いた身体をぎゅっと抱きしめた。

「……朝から元気だね、アンタ」
「おはようございます、シンク」
「はいはい、オハヨウ」

 どうやら起こしてしまったらしい。もぞりと動いたシンクがうっすらと開いた目でこちらを見やる。
 眉間に皺を寄せている顔すら可愛く見える。どうあがいてもドムの欲目だが、シンクは僕と同じ顔なのだから一般的に可愛いと称される顔立ちをしている。
 ならこの寝起きの不機嫌な顔も、客観的に見ても可愛い顔なんじゃなかろうか、と思考が変な方に飛ぶ。まだ僕も寝ぼけているのかもしれない。

 ちゅう、とシンクの頬にキスをする。
 何すんのさ、と言って僕の顔を押し戻すシンクの顔は少し赤い。

「したいなと思ったので」
「アンタちょっとは自分の欲望を抑えたほうがいいよ」
「抑えてますよ、この部屋の外では」
「つまり被害を受けるのは僕だけってことか……」

 僕の言葉にシンクは朝からげんなりとした顔を浮かべた。この部屋に入るのは自分だけだと思っているシンクが可愛くて仕方がない。
 けれどそれを言えば真っ赤になって怒ることくらい解るので口には出さず、シンクの上にのしかかる。
 カラーを付けたままの首筋に顔を埋めれば、チャリとカラーの金具が音をたてた。そこに吸い付けばシンクの身体が小さく跳ねる。

「イオン!」
「ふふ、シンクが可愛いことを言うからですよ」
「意味わかんないんだけど!?」

 僕の身体を押し戻そうとするシンクの手をとって指を絡めとり、シーツへと押し付ける。
 それだけで抵抗しなくなるシンクの顔に何度もキスをする。額に、瞼に、目尻に、頬に、鼻先に、唇の端に。

「ちょっ、イオン!」
「人は愛しいと思うものに口づけたくなるそうです。聞いただけの知識でしたが、本当ですね」
「あんた恥ずかしいって感情知ってる?」
「知ってますよ。でもシンクを愛しいと思うことは恥ずかしいことでも何でもないので」
「僕が恥ずかしいんだよ!」

 つまり恥ずかしいだけで嫌ではないんだなあと思うとまた口角が緩んでしまう。
 そしたら今度は何笑ってんのさ! と怒られてしまったので、鼻先が触れ合うくらいに顔を近づける。
 キスをすると思ったのだろう。僅かにシンクが口を開けたが、唇は重ならなかった。
 そのことにシンクが僅かに動揺しているのが見て取れて、思わず目を細めて笑ってしまう。

「ねえシンク、僕からキスされるの、嫌ですか?」
「は……何さ、急に」
「ねえ、『言って』」

 緩くコマンドを使ってやればシンクから睨まれた。
 ぎゅむぎゅむと握った手に力を込めながらシンクが答えるのを待つ。

「いや……じゃ、ない」
「良かった。ちなみに僕はシンクにキスをするの、とても好きですよ。でもシンクからしてくれるのはもっと好きです」
「アンタさあ……」
「してくれませんか?」
「それ、朝食の準備をして待ってるだろう守護役達を待たせてまでしたいことなわけ?」
「してくれないんですか?」
「……してほしいならコマンドでも使えばいいだろ」
「シンク」
「……」

 コマンドを使うのではなく、シンクから自発的にしてほしい。
 そうおねだりする僕にシンクは赤い顔をしかめて、触れるだけのキスをちょんとしてくれた。
 すぐに離れていく温もりが寂しくて、けれどそれ以上に湧き上がる愛しさが爆発しそうだった。

「これでいいだろ。僕も仕事あるんだから」
「ふふ、はい! 僕も今日一日頑張れそうです!」

 上半身を起こしてシンクの上から退き、互いに身支度を始める。
 ああ、なんて幸せなんだろう。

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