萌ゆる緑に身を焦がす


「あんたとプレイをすると僕が僕じゃなくなる気がする……」

 シンクとプレイをした翌朝、目覚めたシンクにキスをしようとしたら突然そんなことを言われた。
 同時に僕の顔面をとどめるように向けられたシンクの掌。明確な拒絶に何で何でと胸がざわめく。

「シンク?」
「はあ……」

 ため息をついたシンクが身体を起こした。
 僕も一緒になって身体を起こし、嫌いになってしまったのかとその服の裾を掴む。

「なんて顔してんのさ」
「僕が、僕が嫌いになりましたか?」
「そんなこと一言も言ってないだろ。あんたは言葉の深読みをし過ぎ」
「あいた」

 軽く額を叩かれながら言われた言葉に嫌われているわけではないのだとホッとしつつも、では先ほどの言葉はどういう意味だろうかと考える。
 深読みをしないのであれば、プレイの最中の自分が嫌だと言うことだろうか。

「プレイの時に本能に引きずられるのが嫌なんですか?」
「……本能に引きずられてるって、何?」
「僕が勝手にそう呼んでいるだけなんですけど……サブのダイナミクスの力はドムと違って内側に向けられています。ですからダイナミクスの力が下ぶれればサブドロップしますし、逆に上ぶれればサブスペースに入ります。それはダイナミクスの力によって理性がかき消されている状態でしょう? ですから本能に引きずられている、と表現しました」
「ああ、そういうこと。まあ確かに、感覚的にはそんな感じか」

 前世の知識を交えた僕の説明に納得したシンクが立ち上がって服を脱ぎ始める。素肌を晒し、持ち込んだ荷物からインナーを取り出して頭からかぶる。
 ただ着替えているだけなのだが、細い体についているしなやかな筋肉がきめ細やかに見えて思わず食い入るように見てしまう。
 特に拳闘士であるシンクの着ているインナーは薄手な上に身体にフィットしていて……うん、とてもエッチ。

「ねえ、視線がうるさいんだけど」

 うんざりと言った顔のシンクが僕を見てそう言うからすみませんと口先だけで謝っておく。口先だけなので視線はシンクに固定されたままだ。
 シンクは僕の視線にため息をついた後、こういうところだよとぼやいた。

「どういうことですか?」
「アンタの言う本能に引きずられた状態だと、頭が馬鹿みたいにふわふわして理性っていうフィルターが消えるんだよ。今みたいに言い返すことも出来ない。あんたのする全部を無防備に受け入れてる。それが嫌だ」
「嫌なんですか?」
「嫌だよ。僕はもう、人形じゃない。ちゃんと自我だってあるのに」

 ズボンを脱いでスパッツを履く姿をじっと眺めながら言われた言葉にふむと考え込んだ。
 シンクのズボンってなんであんな内側だけ布がないんだろう。チラリズム? 違う、そっちじゃなくて。
 
「別にシンクの自我が消えてなくなるわけじゃありませんよ」
「……解ってる」
「あの状態のシンクは僕に主導権を委ねてくれている、ということです」
「は??」
「気を抜いている。警戒をしていない。身を任せている。まあそんな感じでしょうか」
「は? 僕が? ……は????」

 さも不本意ですと言わんばかりに顔を歪めたシンクに笑いそうになるのを堪えながら、僕も着替えることにした。
 と言っても僕の寝間着はローブ、解りやすくいえばワンピースなので一枚脱いでしまえばすぐに下着姿だ。色気も欠片もない。

「サブの特性上、おかしくはないでしょう? サブはドムに支配されたいんです」
「……チッ」
「舌打ちしないで下さい。そんなに嫌なんですか? 別に僕はシンクをお人形さんだなんて思ってませんよ?」
「解ってる。僕が勝手に嫌がってるだけさ」

 僕の薄い身体をシンクがちらちら見てくるのを感じつつ、ベッドに腰かけてタイツを履く。
 前の世界と違って合成繊維なんてないから肌にぴっちり張り付く訳でもないタイツは結構に厚手だ。

「僕は嬉しいですけどね。身を委ねてもいいと思うくらい、シンクは僕を信頼してくれてるってことですから」
「…………でなきゃ一緒に寝ないし、目の前で着替えたりしないだろ」

 法衣を頭からかぶりながら付け加えた言葉に、シンクがぼそっと返事をした。
 バッとシンクの方を見れば、ジャケットを着た後器用にアームウォーマーに紐を巻きつけている背中がそこにあって。

「……シンク」
「なに」

 少し照れたような顔でこちらを振り向く顔は、僕と同じものだ。
 けれど全然違う。こんなにも愛しい、僕のサブ。

「いつか、僕を全部受け入れてくれますか?」
「……いつかね」

 今すぐその背中を抱きしめたい衝動に駆られながらあえてゆっくりと立ち上がる。
 ああ、僕のサブがこんなにも可愛い。
 近づけばシンクが身体ごと振り返ってくれるから、その頬にちゅうとキスをした。

「大好きです、シンク」
「こっぱずかしいヤツ」

 拒否はされない。受け入れられている。何て幸福!
 つんと突き出された唇に、僕はちゅっとキスをした。

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