萌ゆる緑に身を焦がす
クリアになっていく思考が知識を引っ張りだす。精通。射精。精液。ああ、これが性的快楽。
なるほど。はまる人間ははまるものなのだろう。それ以外何も考えられなくなるなんて僕にとっては恐怖以外の何物でもないが。
イオンがハンカチで手を拭ってから僕の上で四つん這いになる。
イオン自身は何も快感を得ていない筈なのに、僕を見降ろす顔は頬を紅潮させ解りやすく興奮していた。
「僕の手で精通してくれるなんて嬉しいです。もう経験済みではないかと思ってたんですが……ふふ、ふふふ。シンクの初めてを貰ってしまいました」
そう言って僕の頬に手を添えてキスをすると、貪るようにして口の中を荒らしまわる。
一度射精をしたせいか舌を擦り合わせる心地よさがいつもよりもリアルに感じられた。
「んっ、いお……っ、ふ、あ」
随分と機嫌がいい。
口の中をまさぐってくるイオンの舌に合わせるように必死に自分の舌も動かす。
腕を縛られているのがもどかしかった。いますぐあの細い体にしがみつきたい。
ちゅ、じゅぅ、と音を立てながら舌を絡め合っていると、不意にイオンの指先が肌を撫でる。
くするぐるように胸の突起を爪先で引っ掻いて、きゅうと摘まみ上げられて身体が跳ねる。
教えられたばかりの性的快感が身体を突き抜ける。一度精を吐き出したばかりの身体は鋭敏に反応した。
「いおっ、んっ! あ、もっ、終わったんじゃ、あ、ぁあ……っ!」
「そうですね、終わってもいいんですけど」
イオンの膝が萎えたものをぐりぐりと押しつぶす。体重をかけられていないために痛みはないが、その分痺れるような甘ったるい感覚が腰から駆け上がる。
教えられたばかりの気持ちよさが肌の下を駆け巡る。抵抗しようにも身体は勝手にのけぞるだけで逃げることもしてくれない。
「もっ、やめろって……っ」
「声を我慢しては駄目だと、僕は言いました」
イオンの言葉に、先ほどとは違う意味でびくりと肩が跳ねた。
言いつけを守れなかったことを咎められている。出かけた文句も喉奥に引っ込んだ。
イオンを見れば興奮を孕んだ目がこちらを見下ろしている。あんな色は見たことがない。嗜虐心を乗せた若葉色の目が細められている。
ふふ、と密やかに笑ったイオンの指先が胸を撫で、僕の唇に触れる。
「い、お……」
「悪い子ですね」
甘い。甘い甘い声に身体が強張った。イオンは怒ってなどいない。嘲笑っているわけでもない。
それでも嫌な予感を覚えた心臓が早鐘を打ち、イオンから目が逸らせなくなっている。
「ごめ、いおん、僕が」
「悪い子はお仕置きです」
「イオン、次はちゃんと聞く、聞くから」
僕の言葉にイオンはにんまりと笑う。
「では、今からそれを証明してください」
僕の抵抗を、イオンはあっさりと切り捨てた。
また最初の体勢に戻る。背中に感じるイオンの体温。さっきと違うのは、僕の腕が自由になっているということだ。
それじゃあ意味がないと主張したが、背中越しなら大丈夫だろうと押し切られてしまった。
まあ確かにこの体勢ならイオンを締め上げることもないが、一体何を企んでるのか警戒してしまう。
イオンの手が僕の掌に重ねられる。そのまま半分萎えたものに誘導されてカッと頬が熱を持った。
「イオン、なにを」
「自分でする方法も、知っておいた方が良いでしょう?」
「だからって、」
「僕の言うこと、聞いてくれるんですよね?」
僕の肩に顎を置いてイオンが楽し気に囁く。
自慰をするよう誘導された手の平が射精したばかりのものをやんわりと包み込んだ。手を振り払いたくても、イオンを拒絶することが出来ない。
そのまま重ねられた掌で裏筋を撫でられ、強弱をつけて上下に動かすよう誘導される。一度射精の味を知ってしまった身体はそれだけでじんとした気持ちよさが走る。
「イオ……ッン」
「自分の気持ちいいところ、解るでしょう?」
「見るな、馬鹿……っ、あ、ぁ」
空いている方の手も使って掌でぐりぐりと先端をこね回され、重ねた掌で根元のあたりを上下に擦る。
気持ちいいとどうしてこんなに声が出てしまうのだろう。イオンが首筋に顔を埋めて舌を這わせれば、チャリとカラーが音を立てた。
「自分が気持ちいいようにすればいいんです。簡単でしょう? シンクは僕の言うことを聞けるいい子ですから、できますよね」
蜂蜜みたいに甘ったるい声が耳元から注ぎ込まれる。それだけで腰からぞくぞくとした感覚が込み上げてくる。
だんだんと呼吸も荒くなっていって、気付かない内にイオンに促されなくても自分で手を動かしていた。イオンの手は僕の掌に添えられているだけだ。
「あ、ぁ……っ」
「シンク、気持ちいい時は何て言うんでしたっけ? ほら、『言って』」
「あ、気持ちい、イオンの手……きもち、いっから」
「ちゃんと言えましたね。いい子。上手ですよ」
「あ」
そう言ってイオンの手が離れていく。
反射的に名残惜し気な声が出てしまったが、イオンの掌は艶めかしく僕の肌を撫で上げたかと思うと、胸の突起を優しく引っ掻いた。
ぴり、と走る快感にまた熱っぽい息が漏れる。背後から抱きしめられながらみみたぶを甘噛みされる。
「大丈夫、僕はここに居ます。シンクが気持ちよくなるところを見せて下さい。ね?」
「ん……っ、イオンの、手……が」
「お手伝いです。シンクが一人でする時があっても、僕のことを思い出してもらえるように。ね、シンク。ほら、気持ちよくなって」
「あっ、ぁ」
イオンの指先が僕の胸をするりと撫でる。つんと立ち上がった突起を両方を指の腹で押しつぶし、摘まみ上げて弄ぶ。
更には唾液をたっぷりと乗せた舌が耳に舐めるものだから、作られて間もない心臓が早鐘を打つ。
確かに、気持ちいい。でもイオンの手じゃない。少し寂しい。けどイオンが、望んでる。
自分の脈うつものを擦り上げる。イオンに教えてもらった通りに、気持ちよくなれるように。
でも何でだろう。イオンにしてもらった時ほど気持ちが良くない。けど胸に触れるイオンの指先と、耳を這う舌の感触が補ってくれているかのようで。
「は……っ、んっ、イオン……ッ、ちゃんと、聞く、から……っ」
「ええ、ちゃんとできてますよ。気持ちいいって、シンクは言えるでしょう?」
「ん、きもちっい、あっぁ、あっ」
「嬉しいです、シンク。可愛い。もっと聞かせて」
「ぁ、あー……っ、きもちっからっ、あ、いお、ぁ、あっ」
嬉しい、と言ってくれる興奮の混じったイオンの声に僕まで嬉しくなって、自分のものを擦り上げる手の動きを速める。
ぞわぞわとした感覚は絶え間なくこみ上げてきて、頭の中まで気持ちよさに蕩けてしまいそうだった。
けれど背後から包み込むようにイオンの体温を感じているせいか、思考が鈍化して自我が溶けていくような気持ちよさに対する恐怖はない。
こみ上げてくる射精感に身を任せて手を動かす。カリカリと突起を引っ掻かれるとじわじわと終わりが近づいてきているような気がした。
「可愛い。シンク、もっと。シンクの声が聞きたいです。ね、僕に聞かせてください」
「あっ、ぁ、あー……っ、イオンッ、もう、きもちいっの、くる……っ、また、出る……っ」
「出してください。シンクがイくとこ、僕に『見せて』」
はあ、と耳元にイオンの熱を孕んだ息がかかる。僕の興奮が移ってしまったかのようだ。
イオンの白い指先が突起を引っ張り上げる。くちゅくちゅと耳の穴に入り込んだ舌が音を立てる。
見せて、と言われたことに半ば無意識に足を広げる。
「あ、いおっ、それ……っ、あ、ぁ、あっ、も……っ」
「シンク、好きです。愛してます。『イって』」
「出る……っ、ぁああぁあ……っ!」
再度甘く甘く囁かれた瞬間、僕の中で快感が弾けた。頭が真っ白になって、駆け上がってきた気持ちよさがどろりと溢れる。
快楽に塗りつぶされた思考では自分の手を汚すそれすら気にならなくて、ただ気持ちよさとイオンの体温だけを感じながら幸福感に包まれた。
「ぁ、あ……っ」
「シンク、ふふ、気持ちよかったですね。上手でしたよ。僕のお願いもちゃんと聞けてましたね。いい子、さすがはシンクです。はあ、可愛い」
「ん……イオン、イオン、きす……」
「はい、キスしましょう。ちゃんと言えたシンクにはご褒美が必要ですよね。ほら、あーって」
未だ息が整わないまま振り返り、イオンに言われた通りに口を開ける。
そのまま乱れた息ごと食べられて、互いに舌を擦り合わせる。ぬるま湯に浸るような心地よさを感じて、思うがままに舌を動かす。
イオンの舌は僕が気持ちいいことを全部知ってる。裏側を舐め上げて、舌先を啜られるといつもよりもずっとずっと気持ちが良かった。
「ん、んんっ、いお、ぁ……っ、んっ」
振り返りながらするキスが少しもどかしい。そう思ったのはイオンも一緒なのか、もつれるようにして揃ってベッドに倒れこむ。
イオンが僕の上に覆いかぶさってきたから、僕もまたイオンの首に腕を回した。
じゅ、と音を立てて舌を強く吸われると勝手に腰が跳ねる。射精を終えて敏感になった身体はたったそれだけのことが気持ちよくて仕方がない。
イオンの体重と体温を感じながら舌を絡め続ける。酸欠から戻らない頭はただこの気持ちよさに浸っていたいと訴えている。
「は……シンク、気持ちいいですか?」
「ん。きもち、いい。イオンとするの、気持ちいい……」
「可愛い。シンク、可愛いです。好きです。愛してます。シンク。シンク」
口を放した後も興奮冷めやらぬ顔で僕にキスの雨を降らせるイオンはとても幸せそうだった。
自分は一つも気持ちよくなんてなってないくせに。僕に奉仕をさせる訳でもなく、ただ僕を愛でている。
可愛い。いいこ。上手。繰り返す言葉で僕の理性を蕩かしながら。
そのせいだろうか。一度目の射精よりも二度目の射精は恐怖心は殆ど無くて、ただイオンの体温に包まれるのが心地良かった。
自我が塗りつぶされるような恐ろしさは殆どなく、ぼうっとしたままの頭は幸福感に包まれたまま微睡んでいる。
「イオン……僕」
「ふふ、疲れちゃいましたか? そろそろ寝ましょうか」
僕の手を綺麗にしてから、二度の射精による虚脱感が抜けない僕をぎゅっと抱きしめる。
僕の服を直し、毛布を手繰り寄せて狭いベッドで足を絡ませ身を寄せ合う。
「おやすみなさい、シンク。貴方が僕に任せてくれたこと、すごく嬉しかったんです。またしましょうね」
ちゅ、とキスをされながら言われた言葉ゆっくりと瞼を落とす。
でも、僕ももっと、イオンに何か。
とろりとろりと近づいてくる眠気に負け、そんな考えはすぐに夢の中へと溶けて消えていった。