萌ゆる緑に身を焦がす
何分初めてのことだから、と腕を縛ってもらう。
イオンには渋られたが、以前約束に頷いたのはそっちだろうと押し通した。アリエッタにも締め上げられて怪我をしていたくせに、どうして嫌がるんだ。
手首を縛られてイオンを締め上げる心配がなくなったところで、再度ベッドに押し倒されキスが降ってくる。
何度も重ねられる唇に段々と自分がその気になっていくのが解って、差し込まれた舌が口内をかき回す頃にはしっかり体温が上がっていた。
思えば僕の身体がこんな反応をしてしまうのも、イオンが時間をかけて教え込んできた結果なのだろう。
人の許可も無しに何をやっているのかと思わなくもないが、口の中を動き回る舌にだんだんとそんな文句を言う気も削げ落ちていく。
こうやって、僕はイオンに染められていくのだろうか。
「あ、ん……っ」
「ふふ。次、シンクからして下さい。『キスして』」
散々口の中を荒らしまわった後に放たれたコマンドに頭を上げてイオンの口を貪る。自分がされて気持ちよかったように舌を動かす。唇の隙間から洩れ聞こえる僅かな水音が恥ずかしい。
それでもイオンの舌を掬い上げて舌先に吸い付く。楽しそうに細められたイオンと目が合って、羞恥心から目を閉じた。
「んっ、ん……ぁ」
「まだですよ、シンク。ほら、『キスして』」
イオンの手が服の中に入って来たことに口を放してしまったのだが、咎めるようにまたコマンドを使われて口を開き舌を出す。
にゅるにゅると絡み合う舌に集中したいのに、肌を撫でる冷たい指先の感触に意識を持っていかれる。
胸に刻まれた譜陣をなぞり、筋肉の付き具合を確かめるように肌を這う。かと思えば急に胸の突起を押しつぶされて、予想外の行動に肩が跳ねた。
「んっ、イオ……ッ」
「だぁめ、ですよ。『キスして』」
溢れかけた声ごと食むようにまた口を塞がれる。未だ解かれないコマンドに、縺れそうになる舌を必死に動かす。
その間もつんと立ち上がった突起を爪先でカリカリと引っ掻かれて、腰のあたりがぞわぞわするのが止まらない。
何のためについているのか解らない。むしろついていることすら意識していなかった筈のそこは、今やすっかり性感帯へと作り替えられてしまった。
「ふふ。すっかりキスも上手になりましたね」
ようやく唇が離れていったと思った矢先に褒められてホッと息を吐いたのも束の間、服を捲り上げられて素肌が露わになる。
むき出しになった肌に感じる外気に震えるよりも先に、イオンが舌を出して頭を落としたのが見えた。
何をしようとしているのか察した僕が待ったをかけるよりも早く、イオンの舌が固くなった突起に吸い付く。
「あ、ぁっ! イオン……ッ、そんなとこ、舐めるな、あっ」
女みたいに何か出る訳でもない。それなのにイオンは僕の胸の突起に吸い付いて、同時に股間をまさぐる。
イオンに気持ちがいいことを教えられた身体は与えられる愛撫に応えるようにとっくの昔に芯を持っていて、布越しにやわやわと揉まれるとそれだけで腰が持ち上がった。
ズボンを脱がされ、下半身をむき出しにされる。中途半端に立ち上がったものの裏筋をつうと撫でられると、それだけでじわりと快感が滲む。
ゆるゆるとしごかれるとそれだけで僕のものは完全に勃ちあがった。
「んっ、イオン……ッ」
もどかしい。出したい。
そう思って名前を呼ぶも、イオンはちろちろと胸の突起を舐めている。
けれど僕のおねだりは通じたらしい。顔を上げたイオンが淫靡に笑う。
「ふふ、物欲しげな顔をしていますよ」
「しょうがないだろ……っ」
「咎めているわけではないのですが……まあ、今日はいっぱい出してもらおうと思ってるので、もうちょっと我慢してくださいね」
「は? 何を」
何やら恐ろしいことを言ったイオンが僕の上から退いたかと思うと、ベッドサイドチェストから大ぶりな瓶を取り出す。
中に詰まっているのは黄金色をした小さな玉で、サブの集まりで見たことがあった。カプセルタイプのローションで、蜂蜜入りとかでそれなりにお高いやつだ。
中に入れれば体温で溶けるし、指で潰して使うこともできるとかいう。
「また、奮発したね……」
「シンクに使うものですから!」
それは元気よく言う台詞じゃない。
ツッコミを呑み込んで一応類似品を中に入れてきてあるから既に溶けている筈だと言えば、そうではないという。
イオンはカプセルを一つ取り出し、指で潰してそれを掌に広げていく。一体何がしたいのか。
訝しむ僕のものを、べっとりとローションで濡れた手で再度包み込む。ゆっくりと上下に動かされると、さっきよりも摩擦が減ったせいかいつもよりも強い快感が込み上げた。
「あぁあっ! あっ、なに、これ……っ、ぜんぜん、ちが、あ……っ、ぁああっ!」
「ふふ、気持ちいいでしょう? こういう使い方も出来るんですよ」
にちゅにちゅと音を立てながらイオンの手が上下に動く。ぞわぞわとした気持ちよさが込み上げて自然と腰が浮いてしまう。
身体に力が入ってしまい、縛られた縄がぎちりと音を立てた。
イオンにしがみ付きたい。いや駄目だ。咄嗟に相反する思考が脳裏を掠め、枕を掴んで何とか耐える。
「はっあ、ぁっ、イオンッ、それ……っ、すぐ出る……っ! あ、ぁっ、あっ!」
「おっと、それは駄目ですね。『我慢して』、シンク」
「ぐ、ぅう……っ!」
振ってきたコマンドに反射的に下腹部に力を込める。こみ上げる射精感を何とかこらえたところで、イオンの手がパッと離れた。
腹の奥で熱が渦巻く。射精間近でお預けを喰らい、出せなかったものが抗議するようにびくびくと震えているのが解った。
「イオン、出したい……っ」
「まだだーめ、ふふふ」
「んっ」
痛いくらいに勃ちあがったものをそのままに、イオンの指先が後ろの穴に触れる。擽るように指先が動いているのが解る。
サブの奴等に教えられたとおりに腹の中を洗ってほぐしてきたが、それでも本来他人に触れられるような場所ではない。
羞恥心と性欲で頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、表面をなぞるように動く指先の感触に顔をそむける。
「シンク、『足を開いて』」
「〜〜っ」
叫び出したいような衝動を何とか呑み込み、イオンのコマンドに従う。
呼吸が浅くなるのを感じながらぎしりとベッドの軋む音を聞いて僅かに目を開けた。見ればいつの間にかイオンがまた僕に覆いかぶさっていて、そのまま頬にキスをされる。
「良い子」
褒められた。
それに喜んでしまう自分が居るのを感じながら長く息を吐く。
そこですぼんだ口を撫でていた指先がようやく中へと入り込んできた。
「んっ、んン……ッ!」
「息を吐いて。力を抜いてください。そう、上手ですよ。痛くないですか?」
「ふ、う……へ、いき」
「ちゃんと準備してきたんですね。流石はシンクです。中にローションが入っているのが解りますよ。僕のことを気持ちよくしようとしてくれたんですよね。嬉しいです」
腹の中をまさぐられる異物感に息が詰まりそうになる中、イオンの言葉が絶え間なく降ってくる。
イオンの褒め言葉に羞恥心を耐えてしてきたことが報われた気がして自然と肩の力が抜けた。枕を掴んでいた筈の手でイオンの服を掴む。
もっと褒めてほしい。もっと僕を使ってほしい。僕ばっかり気持ちよくなるんじゃなくて、イオンにも。もっと。
「あ、うっ。ん……イオン、挿れる? なか、使って……っ」
「ふふ、まだ大丈夫です。貴方の中に入るのは、一緒に気持ちよくなれるようになってからと決めてますから。だから……ここで気持ちよくなれるように、頑張りましょうね」
「あ……っ!」
根元まで押し込まれた指がぐるりと中をかき混ぜる。腸壁を優しく撫でられて自然と声が漏れた。
気持ちいい、というよりは内臓を押されたせいだ。こんなところでとても気持ちよくなれるとは思えない。自分でほぐした時もただただ異物感があるだけだった。
けれど僕の身体をじっくりと変えてきたイオンなら、きっと実現させてしまうのだろう。だから黙って頷き、イオンに身を委ねる。ああ、支配されてる。
「痛いときは、ちゃんと言って下さい」
「ん、うん」
「もちろん、気持ちいい時も」
「う、ん……っ」
「誤魔化さないで。シンクの全部を、僕に教えてください」
「わか、ったから……っ、あ、う」
腸壁を撫で上げる指先にもやもやしたものを感じながら降り注ぐ言葉に何度も頷く。時折萎えそうになるものを擦られて情欲に火をつけなおす手がもどかしい。
出したいのに出させてもらえなくて、ただ腹の中をまさぐられている。声をかけられ続けなければ早く出したいと喚いていたかもしれない。
指が増やされ、圧迫感が増す。ぐるりと中をかき混ぜられ、また同じところを撫でられる。腹の奥でどろりとしたものが溜まっていく。
こんなことで本当に気持ちよくなれるのかという疑問が頭をもたげる。同時に吐き出せない欲に嫌でも腰が動いてしまう。
痛いくらいに勃ちあがっているものは萎えることすら許されず、先走りを零しながら射精したいと訴えている。
瞼を持ち上げれば涙で潤む視界で、頬を紅潮させたイオンが色に濡れた瞳で僕を見降ろしていた。
イオン、興奮してるのか。こんな僕を見て。そう思うとまた腹の奥が疼いてしまって、自分の中のサブ性を感じた。
「ん……っ、イオン、一回、出したい……っ、出させて……っ」
「そうですね……一度、出しましょうか」
我慢できなくなってそうねだれば、イオンの指が引き抜かれる。
ようやく射精できると安堵する。我慢していたけれど、やっぱり射精寸前でお預けを喰らうのはきつい。
なのにイオンは新しいカプセルを手に取ると、それを中に押し入れてくる。なんで、と聞くよりも早くまた指がぐにぐにと中をまさぐる。
「あっ、イオン……っ、出したい、んだって」
「ええ、解ってますよ。びゅうって、射精したいんですよね」
「ばかっ! あ、ぁっ、あっ!」
からかうような口調で言われたことに思わず悪態をつけば、散々撫でられていた腸壁に押し付けるようにして中でカプセルが潰された。
途端にぞくぞくとした感覚が背骨を駆け上がり、溢れ出した甘い痺れに脳が一瞬混乱する。何で。さっきまで、全然。
バチバチと頭の中で火花が散るのを感じながら、同時に張り詰めたものを上下に擦り上げられ、混乱したまま昂る身体をベッドの上で跳ね上げた。
「あっ、ぁあぁあっ!? 待って! イオンッ、これっ、なに!? あっ、ぁ、あっぁああっ!?」
「シンクの気持ちいいところ、ですよ。ほら、射精したいんでしょう? 出していいですよ。ちゃんと気持ちいいって言ってくださいね」
僕の足の間に陣取ったイオンが固いものを擦りながら腹の奥にある気持ちいいところとやらを押し上げる。
腹の中と外からこみ上げる快感に勝手に身体が跳ねあがり、ずっと焦らされていた身体は一気に流し込まれた快感に暴れまわった。
シーツを蹴り上げながらこみ上げる射精感にのけぞる。散々我慢を重ねてきた身体は堪えなんて効かない。
「あっあぁあーーっ! 出るッ、イオッ、きもちっの、でる、んっ! んっんんっ!」
「はい、良いですよ。ああ。『イって』?」
「あっ、あ、ぁっ、あぁああぁあっ!」
コマンドと同時にびゅるっ、と精液が溢れ出してイオンの手を汚す。同時に腹の中をぐいぐいと押し上げられ、炭酸が弾けるみたいにぱちぱち言ってる頭の中まで揺さぶられる。
射精を終えても中で蠢く指先は動き続けていて、こみ上げるじんとした気持ちよさに腰ががくがくと震えて止まらない。
さっきまでは何ともなかったのに。撫でられてももやもやするだけだったのに。イオンの指先がそこを押し上げる度に腰から気持ちいい感覚が溢れ続けている。
「上手にイけましたね、シンク。精液びゅーって、気持ちよかったですか?」
「あっ、お、ぉ……っ! いおんっ、それ、やめっ……あっ、あっ、ぁああっ」
「ふふ、気持ちいいですか? 頑張ってここでイけるようになりましょうね。初めてなのにそれだけ啼けるならすぐ気持ちよくなれます」
「なんで、こんな……っ、あっぁ、あっ、ひぐっ、ん……っ、んんーーっ! あっ、あぁっ!」
「ほら、シンク。『言って』。気持ちいい」
「きもっち、あっ、気持ちいいっ! きもちいっの、なんで、あっ、ぁああっ!」
「そう、上手ですよ。気持ちいい時は気持ちいいって言いましょうね」
腹の奥を押されるだけでは飽き足らず、イオンは射精したばかりのものをローションにまみれた手でしごき始める。
一度出して少し萎えたものはすぐさま勃ちあがり、腰から駆け上がる気持ちよさが混ざり合って潤んだ視界で火花が散る。
撫でられていない肌がざわめいて仕方がない。ひっひっと浅い呼吸を繰り返しながら、訳も分からないままにイオンの言葉に従うだけの馬鹿になり下がる。
「あっ、ぁあぁあーーっ! イオンッ、それやだっあ、ぁ、あっ! いっしょ、やめっあ、ぁ、あぁあっ! おなかっへん、んんっ!」
「変じゃなくて、気持ちいい、でしょう?」
「あぁああっ! あっ、ぁああっ! きもっちいっ、あっ、きもちいっから、止めてっ! いったん、待って! あっあぁあっ、ぁあああっ!」
ぐちゅぐちゅと粘着質な音がする。過剰な快感に目を見開いてのけぞる僕を、イオンの手が更に追い詰めていく。
どれだけ腰を揺らしてもイオンの手は執拗についてきて、やめてとお願いしても微笑ましそうな声が返ってくるだけだ。
目じりから涙があふれて落ちるのを感じながら、またこみ上げる射精感に息を詰める。さっきはあれほど出したかったのに、今は頭の中がかき混ぜられるみたいで苦しい。
「ぁあっあっ、ぁあああーーっ! また出るっ! イオンッ、また出るっから、あっ、ぁ、あぁああっ!」
「ええ、いくらでもどうぞ」
ぐにぐにと腹の中で手が蠢く。いいところをずっとずっと押し上げられている。
中から精液でも押し出すように動く指先と、ローションまみれの手が過敏なものを延々としごく快感にまた精液が溢れそうになる。
でもまだ、言われてない。イってって言われてない……っ。
だから必死に我慢する。全身を震わせながらイきたいと懇願すればイオンが一等艶めいた声で許可してくれた。
「『イって』」
途端に精液が勢いよく溢れ出して、僕の腹の上に飛び散った。
ようやくイオンの手も止まり、胸を上下させながら必死に息をする。過剰な快楽の嵐と酸欠で頭がくらくらした。
「ふっふふ、ふふふっ」
イオンの楽しそうな笑い声が聞こえる。
瞬きで涙を落とし、重だるい頭を上げてイオンを見る。これ以上ない程に興奮した顔のイオンが僕を見下ろしている。
ずるりと中の指が引き抜かれ、腰が戦慄く。べたつく手もそのままにイオンが僕に覆いかぶさってくる。
「可愛い。シンク、可愛いです。貴方が可愛くて仕方がない。どうしたらこの気持ちを余すことなく伝えられるんでしょうか。自分の語彙力のなさが恨めしい……こんなにも貴方が可愛くて、愛しくてたまらないのに、それを正確に表す言葉が見つからないんです。シンク、シンク。僕のサブ。僕だけのサブ。僕は貴方が愛しくて、愛しくて愛しくて仕方がない」
愛してるという言葉を僕に流し込むようにイオンが囁く。
降り注ぐ愛の言葉とキスに溺れそうになりながら、熱を孕んだ目で僕を見下ろすイオンをぼうっと見上げた。
「イ、オ……?」
「貴方の中に入ったら、さぞ気持ちがいいのでしょうね。でもそれ以上に僕は僕のものでシンクが善がり狂う姿が見たいんです。酷いと思います? でもこれが僕の本音なんです。シンクが僕の手で喘いで、悶えて、イき狂う姿を見ることが出来たら最高に気持ちが良いと思うんです。だからね」
「イオン? も、終わりじゃ、あっ」
イオンが笑う。興奮と嗜虐心に満ちた顔で、僕を支配するドムが笑う。
片足を抱えこまれ、またお腹の中に指が入ってくる。てっきりもう終わりだと思い込んでいたから、入り込んでくる指に喉が鳴った。
「自分のお腹の中に気持ちのいいところがあるのはもう解ったでしょう? ここを弄られながら射精をすれば、シンクの身体はここは射精するくらい気持ちのいいところだって学習するでしょう。だから中だけでイけるように、いっぱいイきましょう」
「は……っ、むり、待って、イオンッ! あっ、ぁああっ!」
こいつ、自分が何言ってるのか自覚があるのか?
とんでもないことを言われて一瞬理性が戻ってきたが、また萎えたものをしごかれて声がひっくり返る。
僕の制止も興奮状態のイオンには届かず、また溢れ出す快感にベッドの上でのけぞることしかできない。
「僕も頑張りますから、シンクもいーっぱい、気持ちよくなって下さいね」
ぐちゅりと音を立てながら指をねじこまれる。
喉を震わせて腰を跳ね上げる僕を、イオンは楽しそうに見下ろしていた。