萌ゆる緑に身を焦がす
「死ぬかと思った……」
「シンクは大袈裟ですねえ」
二人で湯船に浸かりながら本音を漏らせば、イオンの暢気な声が返ってきた。
何も大袈裟なものか。一体何度射精させられたと思ってるんだ。
文句を飲み込み、肩まで湯に浸かる。歴代導師が使っていた部屋なだけあって、導師の部屋についている浴室はそれなりに広い。僕ら二人が一緒に入っても問題ない程度には。
散々イオンにイかされた僕は快楽責めから解放されたい一心でぐちゃぐちゃの頭をかき混ぜ、セーフワードの存在を思い出して無理矢理プレイを中断させた。
その時点で意識を落としたかったのだが、なにせ下半身はローションまみれでベッドもいろんな液で汚れている。
流石にこの状態で寝てはまずいだろうと重い身体を動かして、興奮も冷めて落ち着いたイオンと共に浴室に移動したのだ。
といっても終わった直後は足に力が入らなくて、何とか歩けるようになったのは広い湯船にお湯が溜まるころだったけど。
それから腹の中のローションをかきだし、全身を清めてからこうして湯船に浸かっているのだが、今すぐ寝れる程度には疲れていた。
正直に言おう。神託の盾の訓練よりも疲れた。何で。
「気持ちよくなかったですか?」
「気持ちよければいいってもんじゃないんだよ馬鹿」
見当違いな心配をしてくるイオンの頭に軽いチョップを喰らわせる。
ちっとも痛くなさそうな声で痛いというイオンにため息をついてから、未だ敏感な肌に明日の仕事は大丈夫だろうかと心配してしまう。
一晩寝れば落ち着くと思いたいが、どうだろうか。試しに自分の腕をなぞってみればぞわぞわとした感覚が這い上がってきて、無理かもしれないなんて思ってしまう。またため息が漏れた。
「ったく。なんであんな興奮してたのさ」
「シンクが可愛くて、つい」
「それはいつも聞いてる。けど今日はいつもよりひどかった」
「酷いとは何ですか酷いとは。まあ確かにいつもより興奮していた自覚はありますが……」
「だから、なんで」
語気を強め、言い淀むイオンに先を促す。
理由が解れば次回以降はもう少しマシになるかもしれない。
そう思って追及すれば、イオンは少し迷った後に髪をかきあげ、頬を染めながら僕を見た。
「シンクが……」
「僕が?」
「射精をするのに、僕のコマンドを待つ姿が……とても、いじらしくて」
頬に手をあて、恋する乙女のような蕩けた笑顔で言われた台詞に僕は固まった。
見た目だけは何とも愛らしいというのに、言っていることはどうしようもなくドムのそれだ。
そして言われて気付いた。
今まで射精をする度に『イって』と言われていたものだから、ついイオンのコマンドを待ってしまった。
いくらでもどうぞ、なんて言われていたのに。イオンが言わないから、なんて無駄に我慢をしていたことも。
かあ、と頬に熱が集まる。
自慰なんてしないから、自分がイオンのコマンドがなければ射精できないなんて気づきもしなかった。
いや、待て。まだそうと決まった訳じゃない。別にイオンが居なければ射精できないなんて。そんな。
「違う! あれは、つい……いつもアンタが言うから! 待ってただけで!」
「はい。僕が教えた通りに覚えてくれてるんですよね!」
「嘘だろ……」
まさかそんなところまで自分の身体は調教されているのか。
本当に何てことしてくれたんだ。僕の身体なのに、なんで僕の知らない癖が出来上がってるんだ。
つい意識が遠のきかけたところでイオンが身を寄せて来る。その掌が僕のお腹を優しく撫でた。
「あとは……早く、貴方の中に、入りたくて」
「……言っただろ。挿れればいい。それで、気持ちよくなれるなら……僕は、構わない」
すり、とお湯の中でイオンの指がお臍の下のあたりを撫でる。
それが腹の奥を指していると解って更に顔が熱くなるも、僕の身体でイオンが気持ちよくなれるならばそれでいいというのも本音だ。
プレイをして落ち着いて、改めて気付いた。これはもう、完全にサブの本能だ。ドムに奉仕したい、という。
それなのにイオンが奉仕させてくれないからつい不安になってしまったが……今はだいぶ落ち着いた。多分僕はサブとして、尽くしたいという欲求がそれなりにあるのだと思う。
不安になったのはイオンはドムとして僕の世話をしたがるので、微妙に欲求がかみ合っていなかったことが原因だろう。
この辺りは後日話し合って妥協点を見つけなければならないな、と考えていたらキスが出来そうなくらい近づいてきたイオンの顔に思わずのけぞった。
なんでそんな艶めいた顔をしているんだ。ここ風呂場なのに。
「僕も言いましたよ。僕はね、僕のものでシンクが鳴いて、善がって、身悶える姿が見たいんです。僕だけが気持ちよくなっても満足できないんです」
「……ほんと、奇特な奴だよね。ドムなんてサブを使って自分の欲求を発散するのが一番だろうに」
「僕も一緒ですよ? ね、シンク。想像してみてください。貴方のお腹の中が、僕のものでいっぱいになるところを。ゆっくりと動いて、今日覚えたばかりの気持ちいいところを何度も突きあげて……」
「ばっ、馬鹿っ、何、言って」
「貴方のお腹の中に、僕のものをぶちまけるところ……想像してみてください」
「〜〜っ!」
頭が沸騰するようだった。
艶めかしいイオンの言葉にその姿をまざまざと想像してしまって、お腹の奥がずくりと疼く。
もういいってくらい射精したはずのものがまた勃ちあがりそうだった。
だって、そんな。
「お腹の中にぶちまけられながらシンクも射精出来たら……最高じゃありませんか?」
囁きながらイオンが僕の耳朶を甘噛みする。
散々喘いできた喉がか細く震える。
「ね、シンク。僕はそうしたいんです。そうしてイき果てる貴方が見たい。僕は自分の欲求のために、貴方を気持ちよくしてるんです。だから僕を最高に気持ちよくするために、シンクもいっぱい喘いで、イって、泣き縋って、善がり狂ってくださいね」
「う、あ……」
ぶるりと、身体が震えた。
イオンが最高に気持ちよくなるために僕の身体は今整えられている最中だという事実に、サブの本能が歓喜しているのが解った。
支配されている。たまらなく、全てを。染め変えられている。全部、イオンの手で。
身体の中から湧き上がる衝動に耐え切れず、イオンの身体にしがみつく。いつも服越しに感じている細い身体を抱きしめながら、イオンの首筋に顔を埋める。
「馬鹿。変態。あんたみたいなドム、他に居ないよ」
「ふふ。そうですよ。僕、シンクのことになると途端に馬鹿になっちゃうんです」
イオンも僕を抱きしめ返す。この細腕に翻弄されていたなんてとても信じられない。
でもイオンは僕のドムで、僕の支配者だ。とてもか弱くて、誰よりも強いドム。
「こんな僕は嫌いですか?」
「解ってるくせに……言わせるな、馬鹿」
身体が離れ、イオンが僕を見る。
重ねられた唇は、いつもよりも熱かった。