萌ゆる緑に身を焦がす


 たどり着いた一軒家で守護役達をなんとか誤魔化し、ヴァンに身体を清められた頃には自分の足で歩くことすら困難になっていた。
 自分の身体のことなのに準備もほぼヴァンが行ったほどだ。他人に腹の中を洗われる日が来るなんて、前世を含めても想像だにしていなかった。そのくせ身体の芯はこれ以上ない程に熱を持っているのだから笑えない。
 もしあの伯爵子息に勧められるがまま宿屋に泊まっていたら、あの男にこれをされていたのかと思うと想像するだけで吐き気がした。

 介護でもするかのように動けない僕の身体をヴァンが開き、他人を受け入れるための準備をする。
 なにせ初めてだ。本来ならば快感なんて得られる筈もない。しかし薬が効いているせいか、指を入れられた当初は吐き気と異物感しかなかった筈なのに、少し動かされるだけで快感を拾い始める。
 嫌なところで薬の効果を実感しながら、腹の中でぐにぐにと動くヴァンの指にのけぞった。放り投げている指先に無意味に力が入り、シーツの上を搔く。

「ん……っ、お前の、ゆび……っ、ざらついてて……っ、あっ」
「痛いですか?」
「そう、じゃなっ、あ、ぁ、あ……っ!」
「心地よいのならば幸いです」

 僕に覆いかぶさり、片足を抱え上げながら涼しい顔でヴァンが言う。ローションをまぶした指先が探るように腸壁を撫であげる。
 内蔵を押し上げられて喉を鳴らす僕を見降ろしながら、慎重に指先を動かす男を見上げる。義務で抱いています、という態度が癪に障った。いや、実際義務みたいなものなんだけど。
 それでもこの不本意な状況に対する苛立ちを煽られ、ついつい言わなくていい事を言ってしまう。

「お前、セックスの、時もっ、ずっと……んっ、その喋り方なわけ……っ? 可哀想にっ、あ、ん……っ、リグレットに、同情するよ……っ、はあ。ムードのないやつ……っ」

 が、僕の言葉は挑発には充分だったらしい。ヴァンは目を瞬かせると、ふっと笑って顔を近づけて来る。
 ヴァンと僕の体の間で足が折りたたまれ、指がぐうと腸壁を押し上げた。途端に駆け上がる快感に背中がしなる。

「あぁあっ!」
「ムード以前に、ベッドの上で他人の名前を口にするのはマナー違反では?」
「うるさっ、あ、ぁっ、そこ……っ、んんっ」
「人が優しくしてやっているというのに」
「頼んじゃ、いな、あぁっ! あっ、ん……っ、ぐ、ぅんっ」
「随分と煽るのがうまい」
「ひぐっ、ん……っ、ぁぁあああっ!」

 指の腹で何度も同じところを押し上げられる。勝手に腰が跳ね上がり、うまく動かない指先できつくシーツを握り締める。
 完全に僕のイイところをみつけたヴァンは執拗にそこを責め立て始める。それどころか抱えていた足を肩にかけ、勃ちあがっていた僕のものを手でしごき始めた。
 中を擦られるのとは違う直接的な快感が腰から駆け上がって声がひっくり返る。のけぞる僕の首筋にヴァンの舌が這わされる。

「それっ、要らな……っ、やめ、んっ! ヴァン……ッ!」
「煽ったのはそちらだ。一度出しておけ。多少は楽になるだろう」
「あ、ぁっあっ! なんども、出せるほど……っ、たいりょくが、ぁ、あっ! も、出る……っ!」

 ずっと熱を燻らせていた欲を放つのは早かった。普段と比べても大量の白濁が勢いよく溢れ出し、ヴァンの手と僕の腹を汚す。
 背骨を駆け上がる快感に腰を跳ね上げて射精をしたところで、腹の奥の疼きは止まらない。むしろ自分の穴がもっと欲しいというようにヴァンの指にしゃぶりついているのが解って舌打ちがもれそうになった。

「はぁ、は……っ、要らないって、言って、ぁあああっ!」
「だがよく締まる。喜んでいるのではないか?」

 指を根元まで押し込まれ、ローションと腸液が混ざってぐちゅりと音を立てる。
 笑みの混じった言葉にヴァンを蹴り上げようとしたが、あっさりと避けられた上にまた笑われた。

「随分と足癖の悪い」
「だまれっ、ぁ、あっ! んぐ、ぅ……っ!」

 指を増やされ、圧迫感にまた喉が鳴る。顔を歪める僕の上でヴァンが目を細める。
 浅い息を繰り返す僕の胸にヴァンの唇が寄せられる。鋭敏になった身体は、普段なら何も感じない愛撫も今は快感を拾い上げる。
 ちろちろと胸の突起を舐められる度にじんと響く気持ちよさに自分の顔が蕩けるのが解って奥歯を噛み締めた。

「ふ、ぅ……っ、あっ!? あっ、ぁああっ! ゆびっ、はげし、んっ、んあ、ぁっ!」
「声を我慢させる趣味はなくてな」

 その趣味は理解できるが、自分がされると最悪だ。
 増やされた指で何度もイイところをタップされて、引き結んだ筈の唇はあっさりとほどけた。
 生理的な涙で歪む視界でヴァンを見上げれば、薄暗い室内でうっすらと笑う姿が見える。垣間見えるドム性に嫌でも反発心が煽られてしまう。

「はっ、あっ、ぁ。も、いいから……っ、さっさと、挿れろって、んっ」
「まだ硬い。今挿れれば痛むぞ」
「別にい、あ、ぁああっ!」
「悪いが、痛みに歪む顔を眺める趣味もない。それにサブが蕩ければ蕩けるほど旨味が増すと教えてくれたのはイオンだろう?」
「ぼくは、サブじゃなっ、んっ、あ、ぁああーーっ! それやめっ、やめろ、ばかっ! あっあっ、ぁ!」

 ローションが足され、更に指が増やされ、前触れもなく始まる疑似的なピストン。
 ぐちゅぐちゅという音が脳を犯し、ちかちかと瞼の裏に火花が散る。
 目を見開いて天を仰ぐ僕を見降ろしながら激しく指を動かすヴァンをもう一度蹴っ飛ばそうとして失敗する。
 がくがくと震える腰が持ち上がる。こみ上げる射精感に息をすることすら難しい。

「そこ、ばっかり……っ! あっぁ、あっ、ぁああっ! またくるっ、あ、ヴァンっ! も……っ、いいっ、じゅうぶ、あっ、ぁああっ! 出るから……っ! あっあ、ぁあっ、ぁああ! うあっ、〜〜〜〜っ!!」

 叫びそうになったところでかろうじて奥歯を噛み締めたのは、多分ドムとしての矜持だった。
 二度目だというのにちっとも量が減らない射精をして、ぎゅうぎゅうとヴァンの指を締め付ける。
 いつもより長い射精を終えた後にぐったりと全身を投げ出せば、ずるりと指が引き抜かれた。

「まったく、素直に気持ちが良いと言ったらどうだ?」
「はぁ、はぁ……っ、お前が、僕の立場なら……っ、言うわけ……っ?」

 普段なら絶対しない短期間での連続射精。既にこれ以上ない程に疲れている。
 それでも息も絶え絶えになりながら睨みつければ、ヴァンが嗜虐心に目を細めた。

「言わないだろうな、絶対に」
「そういう……っ、ことだよっ、ばか!」

 悪態をつけば、今度こそヴァンは声を上げて笑った。

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