萌ゆる緑に身を焦がす
シンクがヴァンに虐げられてます。見方を変えればヴァンシンに見えないこともない……?
苦手な方は注意。
シンク
「私は感情的になるな、と言ったはずだ」
「……だったらお茶会なんてセッティングしなきゃ良かっただろ。あんたが行けって言ったんじゃないか」
導師の部屋から飛び出して数時間後、僕はヴァンに教団にある秘密の部屋に呼び出された。
密談をするのにうってつけの部屋らしい。しかし今回は僕の説教部屋として使用されるようだ。
なので僕のことを叱りつけるヴァンに噛みつけば、ため息交じりにここまで子供だと思っていなかったのだと言われる。
期待外れだと失望された気がして胸の奥が痛んだ。ヴァンの言葉にも、その言葉に傷ついている自分にも腹立たしさを覚える。
しかしそこに噛みついている暇はない。痛みを切り捨て、腕を組んでヴァンに言及する。
「それよりヴァン、僕のオリジナルはドムだ。だったらレプリカの僕もドムになる。そうだろ?」
「……はっ、驚いた。シンク、まさか自分がサブだと気付いていなかったのか?」
嘲笑交じりに言われた台詞に心臓が大きく跳ねた。
まさか。そんなはずない。僕はドムに媚びを売ることでしか生きられないようなサブなんかじゃない。
早鐘を打つ心臓を抑えながら自分に言い聞かせていたというのに、そんな僕をあざ笑うようにヴァンの声が僕に服従を強いる。
「『跪け』」
がくん、と足の力が抜けた。イオンに言われた時よりも圧倒的に強い力で頭から押さえつけられたようだった。
冷や汗をかきながら勝手に跪く自分の身体に唇が戦慄く。
ああ、こんなの犬以下だ。ただの家畜。そうでなければなんだ。奴隷か。それとも玩具か。所詮失敗作だからか。
「哀れなものだな。まさか自分が支配する側だとでも? だからお前は失敗作なのだ」
近づいてきたヴァンの言葉が耳を突く。いつの間にか息が荒くなっていた。
コマンドを無理矢理ねじ伏せて顔を上げ、ヴァンを睨みつける。お前に支配されるのはごめんだと、震える身体で立ち上がろうとする。
「『動くな』」
しかし追加で降ってきた命令が僕の動きを阻害した。軽く蹴りを入れられて無様にその場に尻もちをつく。
内ももを踏みつけられて痛みに呻く。見上げれば氷のように冷たいスカイブルーの瞳が僕を見下ろしていた。
びくりと、身体が勝手に反応する。ドムに従えとサブの本能が胸を突く。嫌だ。従いたくなんてない。
「哀れなものだな。自分が支配される側の存在だと認められないのか」
「僕はっ、アンタに支配されるなんてごめんだね……っ」
「私もお前のような子供に興味はない。だがそうだな、自分サブだと自覚したのならちょうどいい。シンク、『壁に向かって立っていろ』」
先ほどよりも強制力のある声に、身体は勝手に従う。たっぷりとダイナミクスの力を使ったのだろう。
屈辱に震えながら部屋の隅へと歩いた身体は、壁の前に辿り着いた途端にぴたりと止まって動かなくなった。
「ちょっと……いつまで、こうしていればいいのさ……っ」
「私が良いと言うまでだ」
「だからそれっていつ!?」
「さて、いつだろうな」
その言葉に胸の内に不安が広がる。
このままずっと放置されたら? この部屋で誰にも気づかれることなく、僕は乖離して死ぬのか。
何とかコマンドに抗おうと四肢に力を籠める。自然と息が荒くなる。けれど抗えない。
それがお前はサブなのだと突き付けられている気がして悔しさが胸を占めた。
「私が帰るまでそうしていろ」
そう言い残して、ヴァンは部屋から出ていった。音を立ててドアを閉めていったのは多分わざとだ。
屈辱と悔しさに歯噛みしながらきつく拳を握り締める。腕を無理矢理動かして拳を壁に叩きつけるが、殆ど力が入らない。
それどころかヴァンの言いつけに背く方が恐ろしいのではないかと思ってしまう。
ヴァンはいつ帰ってくる。今は何時だ。この後のヴァンの予定は何だった。
頭の中でぐるぐると考えるが、時計すら見れないこの状況ではそれも無意味だ。
いつの間にか肩で息をしていた。呼吸が苦しい。何故。火山に居るでもあるまいに。
「はー……っ、は、はは……っ」
ちらつく赤に自然と嘲笑が漏れた。あれに比べれば、現状などなんと容易い。
落ち着け、と自分に言い聞かせる。乱れた呼吸を深呼吸して立て直す。感情に振り回されるなと自分を叱咤する。
所詮僕はヴァンにとって都合のいい手駒なんだ。けどこんな子供に興味はないというヴァンの言葉が本当なら、ヴァンが必要としているのは戦闘の腕だけということになる。
導師から聞いたお稚児趣味の噂が脳裏をちらついたが、そもそもヴァンはリグレットのパートナーだ。集中的に鍛えられていた時もそんな素振りはなかった。あくまでも下世話な噂だろうと切り捨てる。
なら僕がすべきは、ドムの命令に従う従順なサブとして理性的にふるまうことだ。
ヴァンの庇護下に入ろうとは思えない。あいつの支配下に入るなど冗談ではない。
だったらいざという時はコマンドでねじ伏せることが出来る、使い勝手の良い手駒となればいい。
そうすれば世界に対する復讐だって出来る。利害関係の一致した、疑似的な主従関係。それが理想だろう。
そこまで考えたところで、少しだけ気分が落ち着いた。
大丈夫。まだ廃棄されるほどじゃない。万が一また火山の火口に叩き込まれたとしても、今の僕なら生き延びることだって出来る。
僕は黙ってここでヴァンの帰還を待てばいい。そして反抗しないように気を付けるとだけ言って、ヴァンの指揮下に収まればいい。
庇護下でも、支配下でもない。あくまでも指揮下だ。互いに利用することはあれど、支配されるのはごめんだ。それが一番いい道だ。
本当に?
本当にヴァンはこの部屋に帰ってくるのか?
また不安が胸を突いて、反射的に奥歯を噛み締める。
終わらないマイナス思考。まさかサブドロップ仕掛けているとでも?
ここから立ち退くのではなく、ただ苛立ちを発散するために拳を壁に打ち付ける。
今度は先ほどよりもスムーズに動いた。命令を拒絶するつもりではなかったからだろう。
自分の身体なのに自分の意思で動かせない。それがこんなにも惨めだとは。
媚びることしかできないサブとしてドムの顔色を伺うだけの存在に成り下がっていることを突き付けられる。
「くそ……っ!」
惨めで悔しくてたまらない。
何より腹立たしいのは、この状況下で良い子ですねと僕を褒めた導師の声を求める自分が居ることだ。
サブとしてドムに褒められることを望んでいるのだと解ってしまって、それがあの成功作だなんて。
こんなに惨めなことがあるものか!!