萌ゆる緑に身を焦がす


イオン

「今回のサブスペースはどうでしたか?」
「……だいぶ、慣れた。と思う。うん」

 ちゃぷん、と水音が響く浴室。
 二人そろって湯船に浸かりながら尋ねてみれば、シンクが言葉少なに返事をしてくれた。

 初めてセックスした時に失敗して以来、シンクはサブスペースに入るのを我慢するようになった。僕に負担をかけたと、だいぶ責任を感じてしまっていたらしい。
 僕としてはシンクがサブスペースに入ってくれることは幸福以外の何物でもないというのに。
 ただ我慢していたのは意識してのことではなくて、半ば無意識のもののようだった。僕が指摘するまで自覚していなかったくらいだ。

 だから、そこから少しずつどうしたら良いか二人で模索した。
 僕はシンクにサブスペースに入って欲しい。それがドムにとっての一番の幸福だと思ってるから。
 けれどシンクは僕に無理をさせたいわけではないと言う。理性を飛ばして僕を寝込ませるくらいならサブスペースなんて入らなくていいとも。

 互いの意見をすり合わせて、シンクを縛って抵抗力を奪ってみたり、先に思い切りシンクの体力を消耗させてみたり、僕も体力づくりを頑張ったりと。
 いろいろと試行錯誤した結果、互いに気持ちよくなれるようになってきたと思う。
 少なくともシンクのサブスペースが終わって二人そろって事後の入浴が出来る程度の余裕は出来てきた。
 まあシンクの足が生まれたての小鹿みたいになっていることは……要改善かもしれないけど。

「まだサブスペースに入るのに抵抗感はありますか?」
「今は……あんまり。イオンがうまく誘導してくれるって解ったし」
「良かった」
「イオンは……体力とか」
「大丈夫ですよ。昔のように終わった瞬間倒れこんだりしてないでしょう? こうして一緒にお風呂も入れてるじゃないですか」
「ん」

 笑顔で断言すればシンクが安心したように肩の力を抜いた。
 実際のところ結構に疲れてるしベッドに行けばお休み三秒だろうが、まだ大丈夫だ。明日熱を出すこともないと思う。僕だって体力づくり頑張ってるからね。
 しばらく無理は出来ないから慎重に体力分配しないといけないけど、シンクのためなら些細なことだろう。

「その、イオンはさ」
「はい」
「僕とのえっち、気持ちいい? 満足してる?」
「とても」
「そっか。ならいいや」

 ホッとするシンクに、何か不安があるのかとお湯の中でシンクの手を取る。
 ぎゅっと握ればシンクが首を傾げた。

「何か不安でも?」
「不安っていうか……体力の差を考えても、僕の方が気持ちよくなる回数多いから」
「僕は僕の手でシンクが喘いで悶える姿を見るだけでもだいぶ満足できますよ?」
「言い方」
「勿論、シンクと一つになって一緒にイけた時が一等気持ちいいですけどね」
「やっぱ射精した時が一番気持ちいい?」
「シンクが僕のもので善がり狂ってる姿を見るのがたまらないんです」
「言い方」

 シンクに言葉遣いを突っ込まれるが、事実なので受け入れてほしい。
 自分の支配下で最高に乱れる姿に満足感を覚えないドムはいないと思うので。

「なので中に出してもシンクに負担がないことが一番嬉しいですね」
「ああ、うん。あれって最初のころはなんでかなって思ってた。実際かき出さないと腹壊すって言われてたし」
「まあ僕等だからこその体質ですから、他の人だとこうはいきませんね。でもシンクも中に出されるの好きでしょう?」
「……まあ、否定はしないけど」

 そう言って僕の手を握り返すシンクの顔はお湯に浸かっていることを差し引いても赤かった。照れているらしい。
 それでも否定しないだけ、とても素直になっていると思う。

 第七音素のみで出来ている僕等の身体は、普通の人よりも音素同士の結合が緩い。そのため髪を切ればその内解離して音素に還る。
 それと同じように多分シンクのお腹の中で僕の精液も解離して第七音素に還っている可能性が高いのでは、と推測したのは何回目のセックスの時だったか。
 相手が普通の人ならこうはいかなかったと思う。第七音素同士がひかれあう性質を持ち、僕もシンクも第七音素のみで出来た身体だからこその現象だろう。
 ディストなどに話したことはないので憶測の域を出ないが、実際シンクがお腹を壊したことはないのであながち間違った憶測ではないと思っている。

 なんとなくシンクの下腹部を撫でてみる。力を入れていないせいで鍛え上げられた腹筋も今は柔らかい。
 僕の突然の奇行にシンクが胡乱気な視線を投げつけて来る。

「何してんのさ」
「いえ、ここに今僕が出した第七音素が溶けてるのかな、と。あいたっ」
「何言ってんだ、馬鹿!」

 頭を叩かれて怒られたが、事実じゃないか。
 それとも恥ずかしいんだろうか。そこで恥ずかしがる感性はよく解らないが。

「叩くことないじゃないですか」
「イオンが恥ずかしいこと言うからだろ!」
「別にいいじゃないですか。シンクの身体は僕のものなんでしょう?」
「そ、れは……確かに、そう、言ったのは僕だけど……っ!」
「ふふ。今度は潮吹きできるようになってみます?」
「潮吹き……?」
「もう射精できないってなってもずーっとここを苛めてあげると、精液とは違うものが出ちゃうんですって」

 そう言ってシンクの萎えたものを撫でてやれば、カッとシンクが頬を赤らめた。
 馬鹿、と呟く声はさっきよりも力がない。

「……イオンがしたい、なら。すればいい」
「おや、いいんですか?」
「いいよ。イオンに支配されるのなんて、とっくの昔に受け入れてるからね」

 嬉しいことを言ってくれる。
 予想外なことに照れ隠しの拳も飛んでくることなく、あっさりと許可が出たことに密かに驚く。
 そんな僕を翻弄するように、だからと言葉が続けられた。

「捨てたら許さない。こんなに僕の身体を作り替えたんだ。責任取って死ぬまで側にいてよ」
「捨てるわけないでしょう。こんな可愛いサブなのに。例えシンクが嫌がっても逃がすつもりはありませんよ。昔言ったでしょう。例えシンクが逃げ出しても、地の果てまで追いかけて捕まえるって」
「ん。なら、好きにして。全部、イオンのものにして」

 そう言ってシンクの腕が伸びてきたかと思うと、抱きつきながら情熱的なキスをされる。
 なんとも嬉しい言葉じゃないか。腰のあたりがぞくぞくした。あれほど疲れていたのに、また自分が興奮しているのが解る。
 シンクの身体を抱きしめ返しながらどうしてやろうか考える。もう一回、は流石に体力的に難しいけど……一方的にいじめるだけならいけるか??

 そんなことを考えながらシンクの口に舌を差し込む。逃げる舌を絡めとってやればシンクの身体が小さく跳ねた。
 そのままもう一度シンクの身体に火を付けようとしたのだが、シンクが身体ごと離れていってしまったので僕の目論見は失敗に終わる。

「こんなところで発情するな馬鹿!」
「あいたっ」

 また頭を叩かれた。
 誘ってきたのはシンクの方だろうに。理不尽!

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