逆行させられました。(012)
※シンク視点
翌朝。
動く、と決めたといってもそれじゃあ今すぐ動きましょう、とはいかない。
物事には順序というものがある。
旅の準備も、と思ったがそれはカナの魔術で解決した。
空間移動の術があるらしいのだ。
計画のうち一番ネックだった町から町への移動とそれに取られる時間も、コレさえあればたった一歩で解決できるとか。
といっても乱用できるわけではないらしいので、あまり頼りすぎもよくないだろうけど。
なのでまずはエンゲーブへ。
もう仕事が請け負えなくなること、この地を離れることを町の人々に伝えるためだ。
コレはカナ本人から自分の足で行きたいと言われたので、フードつきのマントをかぶせて二人で向かうことにした。
「僕はカロンって偽名を名乗ってるから、エンゲーブじゃそれで通してよね」
「私も偽名を使ったほうが良い?」
「……必要ないかな。君ってば何処からどう見ても平凡な凡人だし」
「そっか……あれ?私今貶された?」
「気のせいじゃない?」
カナの歩調に合わせいつもの倍の時間をかけて着いたエンゲーブの入り口でそんな事を話していたのだが、首を傾げるカナを置いて町の中へと足を踏み入れる。
するといつものように人々が声をかけてきた。
「カロン、久しぶりだなおい」
「バカ、おととい会ったばっかだろ」
「ようカロン!今仕事あるかい?」
「ないよ。でも新しい仕事も請けられない」
「そうかい、そりゃ残念だ」
「カロン、林檎が少し余ってるんだが、買ってかないかい?」
「アンタの少しは大量の間違いだろ」
「ははっ!違いねぇっと、そちらのお嬢さんは?」
かけられる声を適当にあしらいつつ、いつもの食材屋で背後に居たカナに気付かれた。
なので背中にへばりついてないで隣へと移動させようとしたのだが、どうやら人見知りを発動させてるらしい。
僕の袖を掴みつつ、フードの奥から揺れる瞳がおずおずといった風に食材屋を見ている。
「前に話したろ?一緒に旅してる連れだよ」
「あ、あの……その、カロンがお世話になってます」
そう言ってカナはぺこんと頭を下げる。
そこ、普通自己紹介するとこじゃないの?
何で君が僕の事で頭下げるわけ?
突っ込みどころは多々あったけれど、食材屋の男は豪快に笑って済ませた。
エンゲーブの人間ってホント呑気だよね。
「世話になってるのはこっちだ。カロンは身が軽いから屋根の修理なんかも引き受けてくれててな、ホント助かってるんだぞ」
「あぁ、確かに。跳躍力とかもあるし」
「そうそう。もう屋根までひとっ飛びで行った時はびっくらこいたわ!」
「やっぱりびっくりしますよね!」
「その話はいいよ。
それよりローズ夫人どこ?」
無理矢理話を終わらせてそう聞けば、どうもブウサギの世話の方にかり出されてるらしい。
今年はたくさん産まれたから人手が足りないのだろう。
礼を言ってそちらに向かおうとすると、食材屋の男に慌てて止められた。
「ちょっと待った!……カロン、まさか旅を再開させるつもりか?」
「そのつもりさ。今日は挨拶に来たんだよ」
「そうか……だから連れてきたんだな」
「見たいって言われたからね」
何やら感慨深そうに言われるが、別に此方はなんとも思わないのでさっさと解放して欲しい。
また来いよと涙ぐむ男に仮面の奥で眉を顰めつつ、カナがついてきているのを確認しながら一番大きいブウサギ小屋へと向かう。
その途中にも何人かから声をかけられ、仕事に誘われたが説明をして断った。
ブウサギ小屋につけば、その入り口にはバケツを持った兄妹……名前は忘れた。
「ローズ夫人居る?」
「あ、カロン!すぐ呼ぶわ、ちょっと待ってて」
「カロンじゃないか! ちょうどいい、ちょっと引き受けてくれないか?」
妹の方が小屋の中へと引っ込み、兄の方からはまた舞い込みそうになる仕事。
今となってはありがたいのか障害なのかよくわからない。
ため息を飲み込みつつ、本日何度目か解らない説明をする。
「悪いけどもう仕事は請けられない。今日はその話をしに来たんだ」
「カロン、モテモテだね」
「ブウサギ小屋にぶちこむよ」
「ゴメンナサイ」
背後で僕の服を掴んだまま離さないカナにそう言うと、兄の方がまじまじとカナを見ている。
カナもその視線に気付いたのか、少し迷ってからぺこりと頭を下げた。
「前に言ってた旅の連れってこの子か?」
「そうだよ。コレも回復したし、おかげで資金も結構溜まったからね」
コレと呼ぶのと同時にカナの頭を小突く。
カナからは抗議の声が上がったがそこはスルーだ。
すると小屋の奥で話を聞いていたらしい恰幅の良い女性が近寄ってきた。
村のまとめ役であるローズ夫人。
夫人を付けるのは余計な摩擦を生まないようにするためで、特に深い意味はない。
というか、でなきゃ付けない。
「なんだい、カロン。もう行っちまうのかい?」
「仕事中悪いね」
「構いやしないさ。そうかぁ、そっちのお嬢さんも回復してよかったじゃないか」
「あ、はい。ありがとうございます」
突然話題を降られて慌てたらしいカナが、ブウサギを撫でようと伸ばしていた手を慌てて引っ込めながら再度頭を下げる。
ただし下げた時と上げた時の勢いが良すぎて、深く被っていたフードがあっさりと舞い上がった。
慌てすぎだ。
顔が露になったことに話していた兄の方が小さく声を上げる。
「何だ、可愛いじゃん。ね、名前なんていうの?」
「え?あ、はい……カナです」
「カナちゃんか、可愛いね。何でカロンと旅してんの?コイツ無愛想だろ?」
「そんなことは、っと、うわっ!?」
「バカ正直に答えなくて良いんだよ。さっさとフード被りな」
兄の質問に困惑しつつも答えようとするカナに無理矢理フードを被せれば意地悪だと言われたが、それも無視する。
というか、何故か兄とカナを見ていると苛々したのだ。
ローズはこっち見て笑ってるし、口には出さないが何かムカつく。
「あちゃぁ……こりゃ勝ち目なさそうですね」
「諦めな。どう見ても付け入る隙無しだよアレは」
空のバケツを提げた妹とローズの意味不明な会話に眉を顰めつつ、相変わらず声をかけようとする兄からカナを遠ざける。
あぁ、もう、ブウサギが気になるのは解ったからうろちょろするな。
「そっちで大人しくしてな」
「うん。カロンも怒らないようにね」
「何で僕が怒るのさ」
「だって苛々してる」
「……解ったよ。とにかく、大人しくしててよね」
「解った」
カナに放牧されたブウサギ達の群れを指差してそちらに行くように言えば、苛々しているのを指摘されてちょっとだけ気が抜ける。
ばれているとは思って居なかったが、普段から仮面をつけていない状態で接しているのだからまぁおかしくないのかもしれない。
とりあえずローズに今居る小屋を離れることともう仕事が請けられないことを正式に伝え、今日会ってない面々にも伝えてもらえるよう頼んだ。
といっても、小屋を離れるのは半分嘘だ。
移動はカナの空間転移の魔術を使うため、帰って来る機会は減るものの拠点はあそこになる。
「そうかい。アンタのことだから大丈夫だとは思うが、一人じゃないからね。
身体に気をつけるんだよ」
「解ってる。また機会があれば寄るから」
「そうしとくれ。アンタを狙ってる子達にもよく言っとくから、気兼ねせずに来ると良い」
「カロン狙われてたの?」
「返り討ちにするけどね」
「そういう意味じゃないと思うよ」
「あっはっは!そういった方面じゃカナちゃんのが上だね!」
ほんと、意味が解らない。
ブウサギとたわむれていたカナから突っ込まれ、ローズが笑う。
こっちにも解るように会話して欲しいんだけど。
適当に挨拶をして離れると、少し見てまわりたいというカナのために町の中を歩くことにした。
働きに来ていた僕からすると何も珍しいものはないんだけど、カナは僕の服を掴みつつ目を輝かせている。
何がそんなに楽しいんだか。
「面白い?」
「うん。田舎を思い出すよ」
「まさに田舎だからね」
「町って言うより村だよね」
カナの言葉に頷きつつ、畑を見渡す。
今日でこの町、もとい村ともお別れになる。
畑を見つめていた僕の顔を見て何を思ったのか、カナは小首を傾げて聞いてきた。
「寂しい?」
「は?」
「いや、寂しいのかなって」
「全然」
「はは、カロンらしいや」
カナの笑顔に眉を潜めてしまう。
寂しくなるわけがなかった。
僕の仲間はカナだけで、カナはこれからも隣に居るのだから。
アレは何?コレは何?と目を輝かせながら質問を飛ばしてくるカナの質問に答えながら村を散策する。
民家自体は少ないが、畑が広範囲に渡るために面積だけは広いから結構な時間がかかった。
途中であった村人達にも同じようにエンゲーブを離れることを告げながら、ゆっくりとした歩調で回る。
カナと回ると、なんと言うか目線が違った。
僕にとっては当たり前のことでも、カナにとっては未知のものになる。
答えられない質問もあったくらいで、知的好奇心が旺盛な彼女に内心面倒だという感想を覚えつつも散策を終える。
「カロンはこんな所で働いてたんだねぇ。やっぱり桑振るったの?」
「いや、どっちかっていうとトンカチのが多かったかな」
「屋根の修理とか?」
「そう。柵の修理とか」
軽口を叩きつつ、出口に向かう。
帰りがけに町外れに不自然な焼け跡が見つかり新手の魔物かもしれないから注意するように言われ、視線をそらすカナにこっそり笑ってしまったのは秘密だ。
これからのこと
ここで書くのやめました。
しかし昔の文章なのでかなりつたない…
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