知られざる歴史と守護者達。(013)
※シンク視点
エンゲーブを出た僕達は、小屋を出る前に決めた通りセントビナーへと向かうことにした。
ホド戦争が終わって間もない以上、マルクトだろうがキムラスカだろうが首都へはあまり近づかない方が良いだろうという話で落ち着いたのだ。
時間はまだまだある。
もしローレライが救って欲しいと懇願したのがアッシュではなくルークなら、ND2010まで逆に動かない方が良いかもしれないくらいだ。
だからこのあまった時間を使って、まずは世界を見て回ろうとカナとは話してあった。
カナはオールドラントのことを知らないに等しいし、僕もまたダアト内部や魔物の分布図なんかは頭に入っているものの、一般市民の生活に関しては詳しいとは言い切れないから。
最初にセントビナーを選んだのは、エンゲーブの次に近い街だったということ以外特に無い。
カナがまだ魔力の使用に慣れているとは言い難いため、近場を選んでの練習の意味合いも兼ねている。
「じゃあ、ゲートを開くね」
町から離れ、人目の無くなったところでカナは杖を出現させながら言った。
僕が頷くのを確認してから、カナは目を閉じて杖を構える。
『罪科よ、咲き開け』
魔術を使う時、カナは必ず同じ韻を踏む。
罪よ、咲き誇れと。そういう意味合いの言葉らしい。
『彼方と此方を繋ぐ闇夜の架け橋よ、時空を穿ち扉を開け』
フォニック言語とは違うなにやらカチコチした言葉がカナの口から紡がれる。
途端、カナの目の前の空間が歪み、闇がぽっかりと口を開けた。
なにやらあの世にでも繋がっていそうな見た目だが、セントビナーの近場へと繋がっているらしい。
町の中に直接繋がなかったのは良い判断だろう。
「それじゃあ、行こうか」
「うん」
少しだけ緊張しながらも扉とも呼べない時空の穴を通る。
黒い闇を通り過ぎた途端風景が変わり、近場に街を取り囲んでいるだろう城砦が見えた。
間違いなくセントビナーの近くに来たらしい。
「成功したみたいだね」
「うん、また変なの出てこなくてよかった…」
「あの棒人間みたいな奴?」
「そうそう。じぇんとるめぇーん!って」
扉を閉じるカナとそんな会話をしながらセントビナーの入り口へと向かう。
戦争が終わってそれほど経ってはいないものの、一般人の出入りは問題なくできた筈だ。
そんな事を考えながら向かった門はやはり開放されていて、密かにホッとしながらも町の中へと足を踏み入れた。
鼻腔を掠める花の香りは、時代を超えても変わらないものらしい。
「凄いね…ゲームで見るのと全然違うや」
キョロキョロとあたりを見回すカナはフードを被ってこそいないもののローブを纏っている状態。
そして僕の服の裾を掴んではぐれないようにしている。
いっそのこと手を繋いだ方が早いんじゃないかと思ったが、僕から言うのも違う気がして結局そのままだ。
「とりあえず宿を取るよ」
「高いかな?」
「かもね」
手持ちで足りると良いと思いながらも、宿に向かう。
良心的な値段にホッとしつつ、二人で一つの部屋をとった。
一人一室?余裕がない今そんな贅沢できるわけがない。
これからのことを考えれば、切り詰めていかなければならないのは明らかだ。
それに今まで散々身近に暮らしてきたのだ。今更別室を取る必要も無いだろう。
「ねぇシンク」
「なに?」
「何だっけ?えっと…」
「君の頭が馬鹿だって言うのは今解ったよ」
「ちゃうがな。ほら…確か、ココって大きな木があったよね?名前忘れたけど」
「あぁ…ソイルの木?」
「そう!それ見てみたい!」
カナの要望を聞いて、時計に目をやる。
まだまだ夕食の時間まで時間はあるし、元々世界を見て回るという名目の元セントビナーに来たのだから特に問題も無いだろう。
「じゃあ行こうか。ちょっと歩くからね」
「やった!」
荷物の中から貴重品だけ取り出し、身に付けてから宿屋を出る。
町はやはり活気あるとは言い切れなかったが、それでも花だけは咲き乱れていた。
あちこちから甘ったるい花の香りが途切れることなく、鼻が馬鹿になりそうだ。
僕の服の裾を掴むカナの気配を感じながらも、記憶を頼りにソイルの木のある方向へと向かう。
といっても迷うことなど無いだろう。
住宅街の屋根の向こうに見える巨大な木が目印となっている。
そうして少し歩いた先に、ソイルの木は立っていた。
「うわぁ…」
風が吹き、葉が落ちてくる。
カナは間抜けな顔で木を見上げ、僕はその隣で久しぶりに見る木に少しだけ懐かしさを覚えていた。
この街に特に縁があるわけではないが、全く来なかった訳でもないのだ。
「大きいね…何年生きてるんだろ」
「さぁね。一説によると創世暦時代から立ってるらしいけど」
「つまり…樹齢2000年ってことか。うーん…確かにそれくらい、か?」
木の幹を眺めながらカナが腕を組んで首をかしげた。
その反応に違和感があって視線をぶつければ、カナが説明をしようと口を開く。
が、言葉を発する前に第三者の声によってそれは遮られた。
「お嬢さん、ソイルの木に興味があるのかね?」
突然声をかけられたカナはびくりと肩を跳ねさせた。
声の主は小柄で、とてつもなく長い髭の持ち主。
「……マクガヴァン元帥」
「ほ。どこかでお会いしたかの?」
「…いや、初対面だよ」
丹念に手入れをされているらしい髭は毛先で結ばれている。
僕の返答にほっほっほと朗らかに笑った後、元帥はカナへと向き直った。
「随分と熱心に見ていたのでな、ついつい声をかけてしまった。驚かせてすまんの」
「あ、いえ。初めて見たから、つい…」
「咎めてる訳ではないからそう堅くならなくても良い。怖くなければだが、よければ上にも登ってごらん」
「良いんですか…?」
「勿論だとも」
好々爺という言葉が似合いそうなほど、マクガヴァン元帥は穏やかに言う。
カナは目をきらきらさせながら僕へと視線を寄越してきて、その視線の意味を悟って僕はため息をついた。
「ハイハイ、一緒に行けば良いんだね」
「ありがと!行こ!」
「落ちんように気をつけるんじゃぞ」
「はーい!」
注意するマクガヴァン元帥に元気よく返事をしてから、カナは梯子へと足をかける。
いつ落ちてきても大丈夫なように僕も続き、結構な高さまで登ったところで足場変わりに板の張られた場所に辿りついた。
これ以上登りたいなら木の幹を伝っていかなければならないだろう。
「すごーい!シンク、良い眺めだよ!」
「馬鹿と何とかは高いとこが好きって言うけど、ホントだよね」
「シンク、それ隠すとこ逆だから」
落ちないようにその場にしゃがみこみながらカナは眼前に広がる町並みを眺める。
僕もその隣に立ちながら、人々の暮らす城塞都市を上から眺めた。
ソイルの木を中心として展開するこの町は軍基地としての役割も大きく、それなりの人数が駐屯していると聞く。
ソイルの木の恩恵もあって、陥落させるにはかなりの時間を要するだろう。
そんな事を考えていると、いつの間にかカナが移動して木の幹をぺたぺたと触っていた。
何をしているのかと歩み寄れば、なにやら気になることがあるらしく木の表面を凝視している。
「どうしたのさ」
「…この木、魔術回路が組み込まれてる」
「…譜術じゃなくて?」
「うん。詳しくは検分してみないと解らないけど…似たような記述があった筈」
そう言ってカナはなにやらぶつぶつと呟き始めた。
正直魔術に関してはサッパリなので、これに関して僕が手伝えることは無い。
なので隣に腰掛けてぼんやりとそれを眺めていたのだが、元帥まで登ってきて僕達に近寄ってくる。
ココまで近づかれると興味をもたれてるって言うより、監視されてる気分になるな…。
「何か面白いものでもあったかね?」
「あ、元帥…あの、この木の表皮、少し貰っても良いですか?」
「表皮を?」
「はい。ちょっと調べてみたいんですけど…」
「お嬢さんは研究者か何かか?」
「いえ、説明が難しいんですけど…私の専門分野にちょっと通じるところがあるかもしれなくて、詳しく調べてみないと解らないんですけど、もしかしたらソイルの木がちょっと危ない…かも??」
カナの言葉に元帥の視線が一瞬だけ剣呑な光を帯び、すぐに消える。
それはほんの一瞬の事だったこともあって、ソイルの木を相手に腕を組んでいるカナは気づかなかったようだ。
「表皮を削らねば解らんのかの?」
「もしくは枝を少し貰えればありがたいんですけど…」
「ふむ。そちらのぼん、すまんがそこの枝を少し折ってくれるか」
「……これで良いの?」
誰がぼんだ。
文句を飲み込み、近場にあった枝を手に取る。
元帥が頷くのを見て折ろうとしたら何故かカナに止められナイフを渡された。
折るより切った方が木には良いんだとか。
「マクガヴァン元帥、ありがとうございます」
「これくらい構わんよ。お嬢さんは木を傷つけるときにちゃんと許可を取ろうとしてくれた、それだけで充分じゃろ。
もし何か解ったら教えとくれ。普段は軍部に居るでな」
「はい。解り次第お伝えします。あ、手紙でお送りすれば良いんですかね?」
「そうじゃの。軍部の方にも儂に手紙が来たら届けるよう伝えておこう。お嬢さん、名前は?」
「香夏子です。こっちはシンク」
カナの言葉に元帥は頷き、少し雑談をしてから仕事が残っているからと一足先に帰って行ってしまった。
どうやら休憩時間を利用してソイルの木を訪れていたらしい。
監視されていたというのは穿ちすぎだったようだと思いながら先に下りていった元帥を見送ってから、僕らもそろそろ降りようかとカナを振り返る。
しかし何故かカナは青い顔をしてその場に固まっていた。
「…どうしたのさ?」
「いやぁ、登る時はテンション高かったから良かったんだけどね?素面に戻るとこれ降りるって…怖いなーって…あはは」
「素直に怖くて降りれませんって言えば?」
「はい、怖くて降りれません!」
手を上げながら元気よく言われ、僕は深々とため息をつく。
普段はだるーっとしている癖に、何故こんな時だけハキハキするのだろうか。
「ったく、次からは自分で降りなよ」
仕方ないので片手でカナを抱き上げる。
14歳の身体では無理だっただろうが、幸い今の体型ならば小柄なカナを抱き上げることなど造作も無い。
カナがしっかり僕の首に手を回しているのを感じつつ、下に誰も居ないのを確認する。
「ちょ、まさか…シンクさん?」
「行くよ。舌噛みたくなかったらしっかり口閉じてるんだね」
「うそっ、この高さから…のおおおおぉぉおぉおおお!!」
音素を取り込み、筋力を強化してからの落下。
第三音素を操って空気抵抗を緩和しつつ、行きは梯子を登った距離を5秒で落ちきる。
……耳元で叫ばないでくれるかな、うるさいから。
結局地面に足をつけた後も浮遊感が抜けずに僕にしがみ付いたまま動かないカナ。
その癖ソイルの枝はきっちり握り締めているのだから抜け目がない。
最終的に抱き上げたまま宿屋に向かうことになり、ベッドの上に放り投げた事でようやくカナは脱力するのだった。
大きな木の下で
タイトル打ち込むときに大きな栗の木の下で、と打ちそうになりました…。
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