知られざる歴史と守護者達。(014)


※シンク視点

カナ曰く青い狸がお腹につけてるポケットから出す道具の一つ、にも似た魔術。
魔法陣を描き遠くにあるものをコチラに取り寄せるという魔術を使用して、小屋にあった専門書をいくつか机に積み上げる。
夕食を食べたカナは本と睨めっこをしながら、大量の紙になにやら書き込みを続けていた。
時折水を入れたコップに入れてあるソイルの枝を睨みつけつつ、その作業を続けている。
試しに一枚拾い上げてみれば、よく解らない図案や細かい日本語が大量に書き込まれていた。

「ねぇ、これ何してるわけ?」

「ソイルの枝に刻まれている魔術回路が思ってた以上に複雑且つ緻密でね…その解析をしてるんだけど、これを作った人はかなりの天才だね。綿密に組み立てられてて少しでも間違えれば全く違う結果になっちゃう」

「つまり?」

「すんごく難しい。投げて良い?」

「知らないよ。君の好きにすれば」

難易度が高すぎて放り投げたいというカナにそう答えれば、なにやら呻き声を上げながら紙を丸めて屑籠に放り投げている。
そもそもこれは義務でも何でもないのだ。途中で放り投げたところで誰も何も思いやしない。
だがカナは本気で放り投げる気はないらしく、新しい紙を取り出してまたちまちまと書き込みを始める。

暇を持て余していた僕は向かいの椅子に座ってその作業を眺めていたのだが、やはり暇なものは暇だ。
そんな中、身体を拭くお湯を持って来たと宿屋の主人がお湯の入ったたらいを持って入室してきた。
部屋中に散らばっている紙の量に驚きつつ、ベッドの脇にたらいを置く。

「カナ、先にお湯貰うからね」

「うん」

どう見繕ってもすぐ終わりそうに無いので、一声かけてから先に身体を拭く事にする。
一緒にあったタオルで簡単に身体を拭けば、シャワーを浴びる時ほどではないものの結構にさっぱりするものだ。
流石に全裸にはなれないので簡単に済ませたが、僕が身体を拭き終えた後もカナは相変わらず机に向かったまま。

「カナ、キリがいいところで一回手止めてくれる?お湯が冷める」

「んー…」

お湯の温度を確かめれば既にぬるくなりつつある。
僕の言葉を聞いてペンを動かす手を止めたカナは一つ大きな伸びをしてから、席を立ってコチラへと歩み寄ってきた。
タオルを渡せば、肩を揉み解しながらもそれを受け取る。

「贅沢言うならお湯に浸かりたいよね」

「そんな贅沢できるわけないだろ」

「やっぱりケテルブルクあたりに行かないと無理かな?」

「あそこにあるのはスパ。温泉じゃない」

「あれ?」

「良いからさっさと身体拭きな」

「へーぃ」

気の抜けるような返事をしながら、カナも簡単に身体を拭き始めた。
スカートがたくし上げられ、白い太ももが露わになるのを見て慌てて視線をそらす。
…もう少し節度や慎みを持って欲しいと思うのは僕の我が侭だろうか。
小屋ではシャワーが付いていたので気にならなかったが、こうも無防備に肌をさらされるのは見てるこっちが恥ずかしい。

「んー、身体拭くだけでも結構さっぱりするんだねぇ」

「そうだね」

さり気ない風を装い、ベッドに腰掛けてカナを完全に視界から追い出す。
これから旅に出るならこんな風に個室がある宿屋じゃなく、安い代わりに大部屋で雑魚寝をするような宿屋もあるだろう。
一言注意しておくべき、なんだろうな…これは。

カナが身体を拭き終え、また机に向かい始めたところで僕はたらいのお湯を捨てに行くために部屋を出た。
どこに捨てれば良いのか聞くために宿屋の主人に声をかけようとしたら、主人はなにやら難しそうな顔で誰かと話している。
何となく声をかけるような雰囲気ではない。

「ソイルの木が良くない状態らしいな」

「あぁ、元帥が頻繁に様子を見に行ってくれちゃあいるが、どんどん葉が落ちてきてるそうだ」

「もし…もし、だぞ?ソイルの木が枯れちまったら、この町はどうなるんだ…?」

「ンなこと考えたくもねぇよ!この町はソイルの木があってこそなんだぞ!」

「わぁってるさ!だからこそ怖いんだろうが!」

「…あのさ、お湯捨てに来たんだけど」

いつ声をかけようか見ていたが、話がヒートアップしそうだったので割って入ることにした。
ようやく僕に気付いた宿屋の主人はハッとしたかと思うと申し訳無さそうにしながらたらいを受け取る。どうやら宿屋側で捨ててくれるらしい。
主人が捨てに行っている間、取り残された一人はむすっとした顔をしていて、ソイルの木が危ないかもしれないと言っていたカナの言葉を思い出す。

「ソイルの木、危ないの?」

「あ?あー…アンタ、余所者かい?」

「まぁね、故郷を無くしちゃってさ。連れと一緒に流れ旅ってとこ」

「そうか…何でこの町に来たんだ?」

「前に来たことあるんだよ。それに連れがソイルの木を見たことがないって言うから」

ちょっとした興味で声をかければ、警戒心をむき出しにする男。
だからあながち嘘でもない台詞をそれらしくぼやかして聞かせれば、すぐに痛ましげな顔に豹変した。
この時期に故郷を無くしたと言えば、殆どの人間はホド戦争を連想する。
案の定深く追求されることはなく、男は長く息を吐いてから説明をしてくれた。

「アンタも知ってるだろうが、この町はソイルの木に支えられてる。
他の地方じゃ生産できない薬草を含めた草花がたくさんできるのも、ソイルの木があるからだ。
けどホド戦争以来、段々と薬草なんかの成長速度やサイズが落ち始めててな…おかしいって話にはなって様子見状態だったんだよ。
それがココ最近になって薬草が取りにくくなったり、取れても小さすぎて役に立たなかったり…それどころかソイルの木まで異常なスピードで葉が落ち始めてるんだ。
このままじゃソイルの木が枯れちまうんじゃないかって、みんな怯えてるのさ」

「あぁ…どおりで前に着たときより葉っぱが落ちてきたわけだ」

今日、カナと一緒にソイルの木を訪れた時を思い出す。
風が吹き、葉が舞う様に違和感を覚えたのだがどうやらそのせいだったらしい。

「そうか、やっぱり落ちてたか…」

「…治癒術とかじゃ治らないの?」

「とっくに試した後さ。駄目だったよ。後はマクガヴァン元帥の研究だけが頼りだ」

「そっか…旅人だからできることなんて殆どないけど、何か手伝えることあったら言ってよ。できる限りの手伝いはするからさ」

「あぁ、ありがとな」

僕の社交辞令に力無く笑む男。そこで話を切り上げて部屋へと戻れば、部屋を出る前と同じように机に向かってるカナの姿がある。
違いらしい違いといえば、その顔が先程よりも真剣で、どこか焦りを含んでいることだろうか。

「カナ?何か解ったの?」

「シンク…」

僕が声をかければカナは情けない顔をして僕を見上げてきた。
相変わらず紙には大量の日本語と図案が書かれていて、コチラは見ているだけでさっぱりだ。
しかしくしゃくしゃに丸められたものは明らかに減っていて、テーブルの上には大量の紙が無秩序に広がっている。

「…このままじゃ、ソイルの木、枯れちゃうかもしれない」

「あぁ、今下でもその話をしてたんだよ。他の草花も成長しなくなってるんだってさ」

「やっぱり…どうしよう、このままじゃまずいよ」

「まずいって、何が?」

「ソイルの木は組み込まれた魔術回路によって大地の浄化作用を担っていて、そしてセフィロトを通じてその浄化作用をオールドラント全体に広げて循環させてるみたいなの。
マルクトの大地がキムラスカの大地より肥沃なのは、浄化作用のあるソイルの木が領土にあるおかげだったってわけ。

けどホドが崩落したでしょう?これによって浄化作用の流れが変化して、うまく循環できなくなった。
勿論時間が経てば新しい循環経路を見つけてそちらに馴染む。自然ってそういうものだから」

そこでカナは言葉を切る。
その口から語られたのは突拍子も無い話だったが、僕は黙って続きを促した。

「けど問題があった。ホド戦争による大地の汚染と音素の減少、その影響によるプラネットストームの活性化。
音素に関しては普通に生活している分には問題ない程度なんだけど、セフィロトを通じて浄化作用を循環させているソイルの木には、ホド崩落によるパッセージリングの消失も合わせると大打撃に等しい。
しかもその音素の減少を何とかしようとプラネットストームが活性化しているせいで音素の流れは細いながらも勢いは増すばかり…」

「…つまり、本来なら時間が経てば自然回復するところをホド戦争があったせいで追い討ちかけられてるってこと?」

「そう。大体合ってる」

「人間で言ったら?」

「怪我して悶えてるところに濃度の薄くて痛いばかりの消毒液ぶっかけられて、傷口に塩塗り込まれた感じ」

「それは痛いね…で、大地の汚染って言うのは?」

「そもそも浄化作用って言うのは魔界に存在する障気を外郭大地に滲ませないようにするものなんだよ。
ディバイディングラインで浮いているとはいえ、下層の大地は剥き出しで常に障気にさらされているんだから当然大地は障気に汚染されるわけ。
それを防ぐためにソイルの木に組み込まれた浄化作用が世界を巡って、大地が障気に汚染されないよう防いでるみたい」

「たった一本の木で世界全体を支えてるわけか…」

「…これは私の憶測だけど、ソイルの木と同種の木は他の地域にもあった筈なんだ。
恐らくメジオラ高原とか、あっちの方にも」

「…けど、それが無くなったから、高原は岩がむき出しの大地になりキムラスカは作物を育てるのに向かない土地ばかりになった?」

「そういうこと。それに大地の汚染って言うのは、障気だけじゃないっぽいんだわ」

カナはそう言うと、苛立ったように息を吐き出した。
眉が顰められていて不機嫌なのが人目で解る。
僕が視線だけで話しの先を促せば、カナは吐き捨てるように教えてくれた。

「ホド戦争で流れた大量の血。これもまた、大地を汚染してる。
ソイルの木は人間の尻拭いをしようとして、枯れかけてるんだ…」






誰にも気付かれることのない、





難産でした。
夢主の中ではは人間<<<ソイルの木、です。


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