知られざる歴史と守護者達。(018)


チーグルの森、メジオラ高原、イニスタ湿原、ダアト。
当初予定していた各地を全て回り終え、私達は再度セントビナーへと足を運んでいた。

ソイルの木は植物活性剤と補助となる木の存在の復活のお陰で随分と元気になったように見えた。
葉が落ちる量も目に見えて減っていたし、マクガヴァン元帥の下を訪れた時にも随分と回復したようだと笑顔で教えてくれた。

「お嬢さんたちのお陰じゃろ?礼を言わせてくれ。ありがとう」

「何故私達だと?」

「何をしたかは解らんが、それくらいは解る。年寄りを舐めてはいかんぞ?
もし何か困ったことがあったら言っとくれ。できうる限り力になろう。
ああ、今日は宿屋かの?礼には足らんが泊まって行くなら宿代はコチラで払っておこう」

私は隣に座っているシンクをちらりと盗み見して、元帥のお言葉に甘えることにした。
ダアトで出会った、フィニという名を贈った彼女と別れてからシンクは極端に口数が減っていたから、ここらで一度本腰を入れて話そうと思っていたのだ。
もう一日くらいソイルの木の様子も見ておきたかったし、丁度良い。

元帥に礼を言って、宿屋へと向かう。
町の中はソイルの木が元気を取り戻し始めた事で活気が戻り始めていたけれど、そんな雰囲気に頓着することもなく私とシンクは無言で宿屋で部屋を取った。
ドアを閉じて荷物をベッドに放り投げれば、シンクも黙ってベッドへと腰掛ける。
私が隣に座れば、シンクは口を引き結んだままそっぽを向いてしまった。

「シンク?」

「……何?」

「フィニのこと、気になるの?」

「別に」

「じゃあ何でそんな不機嫌なの?」

「君には関係ないだろ」

「一緒に旅するんだから関係あるよ。大有りだよ」

「……なんだっていいだろ」

でけぇ子供だな、おい。
そっぽを向いたままのシンクの顔を覗き込もうとすれば、鬱陶しそうに手で邪魔をされる。
なのでその手を掴んでベッドに押さえた後、シンクの両頬を手で挟み無理矢理顔を合わせた。
仮面越しだがようやく真正面からシンクを見る。

「あのね、一緒に旅するんだから関係大有りだって言ったよね?
私の顔見て話せ。放っておいて欲しいならそう言え。
そしたら私だって夜になるまで時間潰してくるくらいするよ。

でもね、さっきも言ったとおり私とシンクは今は一緒に旅してるんだよ?
シンクがそんな顔してたら心配するし、抱えてる気持ちを吐き出して欲しいって思うよ。
愚痴だろうと弱音だろうとなんだって聞くよ。
シンクには難しいかもしれないけどね、全部自分の中で消化しようとするんじゃない」

つーかいつまでそんな態度取るつもりだ。
私までもやもやしてくるわ。

シンクは唇を引き結んだまま私を見ていたが、手を撥ね退けられることは無かった。
なので頬から手を離し、仮面を取る。
眉根を寄せた顔が露わになる。不機嫌というより、困っているという顔だ。
私は一つ息を吐いて仮面を膝の上に置き、視線を落とした。

「……羨ましかった?」

「違う!」

「そう」

今度はシンクが私の顔を伺う番だった。
なので短く返事をして視線を上げれば、シンクは声を荒げたことに対して気まずそうな顔をしたものの、視線を落としてぽつぽつと語り始める。

「……理解、できなかっただけさ」

「……うん」

「……愛とか恩とか、無縁だったし。そんな思考に到れるのが、理解できなかっただけだよ」

「うん」

「……でもちょっとだけ、悲しかったっていうか、惨めだったんだ」

「うん」

「人型じゃないフィニ達でさえ、創造者に愛されてたのに……僕達はちょっと能力が足りないからって、廃棄されたんだ。
つまり僕達は巨獣以下なんだな、って……ちょっと、そう、ちょっとだけ思った。
……それだけだよ」

「……うん」

シンクが語り終わり、沈黙が落ちる。
ベッドに放り出された手に自分の手を重ねれば、シンクと視線が絡み合った。
シンクは少しだけ眉根を下げていて、口をへの字にしている。

この顔は知ってる。
情けないことした、っていう後悔してる顔だ。

「……ごめん」

「シンクが謝ることじゃないでしょ」

「だって、殆ど八つ当たりだ」

「そう思うなら次から気をつけてくれれば良いよ」

「カナは何も思わなかったわけ?」

「思うって、何を?」

「フィニの言葉に対して」

「……鳥なのに忠犬だとか、いやこの場合忠鳥なのか?とか、それくらい」

「意味わかんないんだけど、いい加減君の世界のことを基準に話すのやめてくれる?」

今度は不機嫌そうに眉を顰められた。
そりゃそうだ。忠犬ハ○公なんて言ってもシンクには解らんわな。
しかし説明するのは面倒なので、恩義深いんだなぁって意味だよ、で終わらせておく。
大分違う気がするがシンクには解らないから問題ないだろう。多分。

そして改めて考える。フィニの言葉に思ったこと。
私もシンクも産みの親というものに愛された記憶は無いという共通点がある。
しかし同時に私はその過去を切り捨て、シンクは未だに過去を引きずっているという相違点もある。
今回の件に対する印象が違うというのならば、恐らくそれが原因だろう。
それに、だ。

「多分一人だったらシンクみたいな考えに到ったかもしれないけど……今は、シンクが居てくれるでしょ?」

隣に居る、と。
以前シンクが言ってくれた言葉を思い出す。
それだけで充分じゃないかと思うのだ。

「フィニは愛された記憶を支えにしてるけど今までずっと一人だったし、これからもきっとずっと一人だ。
私は愛された記憶は無いけど、今はシンクが隣に居てくれる。
だからそれで充分だし、むしろ私のほうが恵まれてると思うんだよね」

過去を支えに孤独に生きるのと、過去を抱えて誰かと生きるのと、どっちが幸せかなんてきっと本人にしか解らない。
けど私は後者の方が良いと思うし、現状に満足している。

シンクは私の言葉を聞いて暫く無言だったが、やがて大きなため息をついてベッドへと倒れこんだ。
手を繋いでいたので自然と私も引っ張られる形になり、ベッドから落ちそうになりつつも何とかシンクの隣に寝転ぶ。

「君と話してると毎回考え方の違いに振り回されまくってる気がする」

「何それどういう意味?」

「褒めてるんだよ」

「嘘だ。絶対嘘だ!」

鼻で笑いながら褒めてるとか言われても誰が信じるか。
私が嘘だと断言すればシンクは笑いながら私を抱きしめてきた。
ぎゅうぎゅうと抱きしめられるのは、小屋で湯たんぽ代わりにされていた私にとって最早日常茶飯事だ。
なので特に驚くこともなく腕の中でシンクを見上げれば、私を抱きしめたまま目を閉じている。
まさかこのまま寝るとは言わないよな?

「……カナは過去に囚われないよね」

「今で手一杯なのに昔のことなんて気にしてられないよ」

「それもそうだね。僕もカナのことで手一杯だし、気にするだけ無駄かな」

「え、何それ。私なんかした?」

「ことごとく僕の常識を破壊してるじゃないか」

……それ私のせいじゃなくね?
いや、私と出会わなきゃ破壊されなかったんだから私のせいなのか?
え?私クラッシャー?

「破壊してるつもりは無いんだけどなー」

「してるだろ、思い切り」

「えー?それ私のせいなのー?」

「じゃあ誰のせいだっていうわけ?」

「ローレライ?」

「あぁ、納得。そもそも根本的な原因はそいつだよね」

「だよねぇ?」

二人でくすくすと笑いあいながら、責任をローレライに押しつける。
困ったときの神頼みならぬ、困ったときのローレライへの責任転嫁だ。
私たちにとってはいつものことである。

ひとしきり笑い終わった後、シンクは私を抱きしめる腕に力を込めてきた。
なんか感傷的になっているようなので、特に抵抗せずに好きにさせておくことにする。
にしても男の人に抱きしめられても何とも思わなくなった時点で、私も大分シンクと仲良くなったのだなぁと思う。

「まぁ君に振り回されるのも悪くないよ。ヴァンに振り回されるよりずっと良い」

「アレと比べられると何かむかつくな」

「じゃあ会ったときに髭でもむしっとけば?」

「そうだね、脱毛の魔術でもかけとくか。ツルッパゲになるよ、きっと」

私の言葉を聞いてはげ頭になったヴァンでも想像したのだろう。
シンクは噴出したかと思うと、私の肩に顔を埋めて笑い始めてしまう。
肩を震わせて笑い続けるのを見ると、つぼにでも嵌ったのか。
大声を上げて笑わないところがシンクらしいと思いつつ、笑いが収まるよう背中をさすってみる。

「ヤバイ、ヴァンに会ったら思い出して笑っちゃいそう……っ」

「笑えば良いと思うよ」

「絶対不審がられるって。ヤバイ、マジで笑う。絶対笑う」

「じゃあ本人にも気付かれないよう髭と頭髪を消失する魔術を、」

「ヤメテ、止まらなくなるから。爆笑するから」

「まぁ脱毛はあっても消失の魔術は無いんだけどね」

「基準が、魔術の基準が解らない……っ」

ソレは私も解らない。
未だに笑い続けるシンクに釣られて私も笑みを零しつつ、どうでも良い会話を続ける。

でもシンクが元の調子を取り戻したようでよかった。
笑い続けているシンクに私もぎゅうっとしがみ付いてみる。
シンクから抱きしめられることはあっても、私から抱きつくことは余り無い。
シンクは私の行動に一瞬だけ笑うのを辞めたが、すぐに表情を緩めて瞳を閉じた。

「……ありがと」

「どういたまして」

「……ホント君ってしまらないよね。普通に言えないわけ?」

「ソレが私」

「そうだね、否定はしない」

「そこは否定して欲しかったぜ。
で……次、どこ行こうか?」

「ケセドニアでも行く?情報収集も兼ねて」

「ん、じゃあそうしようか」

あっさりと行き先が決まり、シンクはベッドから身を起こした。
抱きしめられている私もやっぱり引き寄せられて起こされる。
シンクの顔を見ればもう悩んでいる様子は無い。

「これからも宜しく!」

「何を今更」

なので改めて元気よく言ってみれば、私の言葉にシンクは笑顔を浮かべた。
確かに、今更か。自分で納得しつつ、窓の外を見る。
譜石帯の輝く青空は既に見慣れたもので、その奥には元気を取り戻したソイルの木が見えた。

大丈夫だ。やっていける。そんな確信が湧き上がる。
シンクと二人ならきっと何とかなるさ。

旅はまだまだ、始まったばかり。






今を生きよう






えーと、魔女の罪科の続編、ようやく終わりました。
長かった、何か最初の構想より随分と長くなってしまった…。
うまく纏められない私の文才が原因ですね、解りたくないです。
長かったですが、改めて読み返すとこれ物語の中では三日くらいしか経ってないですね。

ちなみにこの話はゲームの「昔ソイルの木が枯れかけたことがあって」というセントビナーのモブさんの話から派生して産まれた話でした。
今回は夢主の活躍でそこまで深刻な状態にまでは到りませんでしたが、夢主が手を出さなければ本編通り本気で枯れかけたでしょう。
にしてもシンクの活躍が少ない。バランスが難しいです。
あ、夢主が最後に「どういたしまして」ではなく「どういたまして」といっているのはわざとです。

清花


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