シェリダン-再確認編-(019)
セントビナーを出た後、ケセドニアで情報収集をしていた私達は一つの問題にぶち当たった。
日に焼けないのである。
美肌効果すげぇなんて喜んでる場合ではない。
例えケアをしても丸一日日に当たっていれば肌は焼けて当然といわれるケセドニア。
成長の止まっている私達が滞在するにはこれほど不向きな町というのも無いだろう。
結局私達はセントビナー周辺に戻り、予定を変更して世界地図に載っていない村の探索をしようという話になった。
そうしてフラフラしていた私達だったが、これは路銀が尽きてきたのでちょっくらバイトしようかという話になっていた時のこと。
「君の力ってさ、やっぱ反則臭いよね」
「どうしたのいきなり」
流石に小さな村では職も少ないため何処か大きな町に行こうと言う話になったのだが、シンクがいきなりそんな事を言い出したのだ。
ホント、いきなりどうした。
「いや、セントビナーの一件を見てて思ったんだけどさ、戦闘だけじゃなく君の力ってほぼ万能だろ?」
「うーん、万能のように見えるけど実際は色々面倒だよ?
譜術使えない人が譜術を見て恐れるのと一緒だよ。仕組みを知らないから、凄く見えるってだけ」
「でも大体何でもできるだろ」
「そうだね、大方のことはできるだろうね」
だが、例えできたとしてもするつもりは無い。
セントビナーの場合は魔術を使用しなければ解決できない件だったという側面も大きい。
面倒ごとを避けるためでもあるが、普段はできうる限り魔術は使わないようにしている。
「思ったんだけどさ、これからはあんまり魔術を使わないほうが良いのかもしれない」
「戦闘以外でも?」
「そう。君は魔術で殆どのことを解決できる。セントビナーのときみたいにね。
けどそれは預言みたいな毒にもなりえるんじゃないかって思ったんだ」
預言のような毒。
的を得た言葉に私もふむ、と頷いた。
できるからといってすぐに魔術に手を出すのは良くないんじゃないか。
それを繰り返していくうちに、どんどん堕落していくんじゃないか。
つまりはそういうことが言いたいのだろう。
「……魔術の知識を頭に詰め込まれた時にね、私一つ理解したことがあるの」
「理解したこと?」
「そう、理解して、同時に理解し続けなければならないことだって本能的に思ったこと。
魔術って言うのは、自然の摂理を捻じ曲げる術だ。だから魔術一つ使うにも私の魔力だったり、貢物だったりって代償が要る。
それでね、思ったのよ。
魔術を使うことは、法を犯すことに似ている……って」
街道を歩いていた足を止め、告げたのはずっと私が思っていたこと。
足を止めた私に釣られ、シンクも足を止めて私を見下ろしている。
そう言えばシンクには話していなかったなと内心苦笑しながら、私は自然と詠唱の鍵となる言葉を思い出していた。
「全ての魔術を使う際、詠唱の最初の言葉は一緒って話したよね」
「うん。罪よ、咲き誇れ、だろ?」
「そう。『罪科よ、咲き開け』
つまり私は今から罪を犯しますって宣言してるわけ。やっぱり魔術ってのは罪なんだなぁって思うよ。
だからさ、セントビナーのときは切羽詰ってたし、そもそも魔術が使用されていたから私もバカスカ使ったけど、日常生活ではそう簡単に使うつもりは無いよ。
実際小屋ではほとんど使ったこと無かったでしょ?」
「そう、だね……ちゃんと理解してたのか。余計な事言っちゃったね」
「シンクも心配してくれたんでしょう?ありがとう」
「それじゃあ次の街までは歩いて行こうか」
「え゛!?」
それはご勘弁願いたい。
セントビナーで買ったルグニカ平野周辺の地図を頼りにあちこちフラフラしていたためそれなりに足に筋力はついたと思うが、流石に長距離徒歩移動は厳しいものがある。
固まる私に対し、シンクは歩みを再開させながら鼻で笑う。
「冗談だよ。君のペースに合わせてたらいつまで経っても目的地に着かないからね。
で、次はどこに行く?」
「なんだとう!?
ったく……そうだな、候補だとケテルブルク、シェリダン、ベルケント、ダアトだよね?
んー、ベルケントは嫌だなぁ」
「何で?」
「魔術が使えるってばれたら実験体にされそうだもん」
「成る程ね。僕もダアトは嫌だし、となると残る候補はケテルブルクとシェリダンか」
顎に指を当てながら考え込むシンク。美形がやるとそれだけで様になっているから凄い。
仮面が無ければさぞ絵になったことだろう。
次の目的地とは全く無関係なことを考えていたら、シンクがシェリダンにしようと言って腕を組んだ。
「その心は?」
「ケテルブルクの宿屋って、観光地だけあって基本的に高いんだよね」
成る程、実に利に適っている理由だった。
これから路銀を稼ぎに行くのに、宿屋で散財してしまっては意味が無い。
そんな理由で次の行き先はシェリダンへと決定し、扉を開きシェリダンの近場へと私達は一気に飛んだのだった。
「で、どうやって路銀稼ぐのさ」
扉を開き、私とシンクは以前と同じように町の近場にある人目の無い所へと来ていた。
そのままシェリダンの町並みを確認し、さっさと向かおうと扉を閉じ杖を消して歩き出す。
「んー、私はね、占い師でもやろうかと」
「占い師ィ?」
私の言葉を聞いたシンクは素っ頓狂な声を上げた。
多分、仮面が無かったら眉を顰めつつコチラを凝視してくるシンクの顔があったのだろう。
「何それ、預言があるのにそんなの需要あるわけないだろ」
「あるでしょー。女の子って占い好きだし。
それに預言は大雑把な未来しか解らないけど、占いはピンポイントで狙えるから預言とは違うよ」
「ピンポイントって?」
「恋占いとか、失せもの探しとか」
「ふーん、恋占いねぇ」
疑わしそうな声を上げつつも、シンクはそれ以上突っ込んでこなかった。
多分魔術で何とかするとでも思っているのだろう。
だがそれとは違う。占いって言うのは立派な一つの学問でもあるのだ。
私とて乙女の端くれである。あの小屋で占いの専門書を見た時はちょっとばかし心が躍った。
まぁ中身を見た途端、専門用語の嵐にすぐに本を閉じたくなったけど。
とりあえず中身に関しては、乙女の期待する内容ではなかったと記しておく。
「そういうシンクは何するのよ?」
「酒場で単発の仕事でも探すさ。シェリダンなら力仕事とかもありそうだしね」
「つまりエンゲーブと一緒?」
「そうとも言うね」
途中出てきた魔物に踵落としをくらわせて戦闘を強制終了させたシンクはそんなことを言いながら頭をかいている。
シンクは器用だし、ある程度はこなせてしまうから問題は無いだろう。
こうなると私の方があまり稼げないかもしれないなぁとか思っているうちにシェリダンに到着し、私とシンクはとりあえず宿を取ってから早速仕事を開始した。
酒場に向かったシンクと別れ、町の人たちに適当な空いている場所を聞き、そこに占い屋を構えても良いか確認すれば集会所の人たちに確認してくれとのこと。
なので集会所に居たおじいちゃん達に確認を取れば、勝手にしろと言われたので椅子を二脚と木箱を一つ借り、占いいたしますと看板を立てる。
そうして店を開いた後暫くはぼうっとしていた私だが、お客さん第一号は結構すぐに現れた。
「なぁ、占いって何を占ってくれるんだ?」
「いらっしゃい。何でも占いますよ。恋占い、失せモノ探し、エトセトラ。
でもまぁとりあえず内容聞いてからじゃないと何とも」
近づいてきた職人さんらしき男性に椅子を勧めれば、男性は顔を青ざめさせながらも椅子に座った。
そして神妙な顔をしたかと思うと、私の顔を見て声を潜めて言う。
何だろう、凄く大切な相談なのだろうか?
「実は最近、凄く肩が重いんだ。幽霊にでも憑かれてるんじゃないかと思うと怖くて怖くて……こんなこと町の人には言えないし、アンタ占いするんだろ?金払うから占ってくれないか?」
……それは私じゃなく医者に言うべきなんじゃないだろうか。
ずっこけそうになりつつも、藁にも縋る思いで私に話しかけたのだろうと気を取り直す。
それにお客さん第一号だ。無碍に扱って変な噂でも立ったら困る。
なのでトランプを取り出し、とりあえずは原因を占ってみることにした。
あらかじめ宿で取り寄せておいた専門書を取り出し、手順を再確認しながらトランプを切る。
そして占ってみると、出たのは"肉体"や"蓄積"などを意味する結果。
「なぁ、何か解ったのか?やっぱり幽霊か?」
「……すみません、ちょっと肩に触っても良いですか?」
「え?あ、あぁ」
もしやと思って席を立ち、男性の肩に触ってみる。
案の定、そこはガッチガチに硬かった。これ、どう考えても肩がこってるだけだろう。
「……肩こりですね」
「は?肩こり?」
「はい。占いの結果が肉体とか蓄積とかそんなんだったのでちょっと確認させて貰ったんですけど、筋肉ガッチガチですよ。
お湯に浸かって血行を良くした後、マッサージか何か受けて眠ることをオススメします」
「マッサージって、そんなのどこで受けるんだよ?」
「そこまでは何とも……あ、マッサージしてくれる譜業作ってみるとか?」
適当に答えた私に男性は目をキラキラさせると、それだ!と叫んで思い切り立ち上がった。
「一緒にアイディアまでくれるなんて、助かった!ありがとう!お代はいくらなんだ?」
「え?特に決めてません、けど……」
「じゃあ受け取ってくれ。感謝の気持ちだ!じゃあな、本当にありがとう!!」
先程までの青い顔はどこへやら、1000ガルド置いてさっさと戻って行ってしまった男性に手をふりつつ、呆然としてしまう私。
まぁお代はもらえたから良しとすべきか。
にしても、最初のお客さんが肩こりが原因とか誰が思うだろう。
良いんだか悪いんだか良く解らないスタートダッシュをきった私は、1000ガルドを財布に仕舞い、次のお客さんが来るまでまたぼうっとするのだった。
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