シェリダン-再確認編-(020)


あの男性が来て以来、お客さんたちはちまちま来た。
何か大切な設計図を無くしてどこを探しても見つからないから占いで探してくれと泣きつかれたり、彼の心を射止めるかどうか占ってくれと恥らわれたりと、やはりピンポイントな要望が多かった。
中には庭の花の元気が足りない理由を知りたいってのもあって、そこは別料金で余っていた植物活性剤を渡した。
お代は人によってまちまちだったが、それでも一日が終わる頃にはそれなりに小銭が溜まっていたのが救いだ。
今日の宿屋代と夕飯代くらいはありそうである。

「んー、今日は店じまいかなー」

レムが沈みかけてきた辺りで私は一つ伸びをした後、看板をひっくり返す。
物凄く出来合いの店だったが、今日のお客さんたちが話を広げてくれれば話題の一つにはなるだろう。
冷やかしだろうと何だろうとまずは客を集めなければ話にならないので、そこはお客さんたちに期待だ。

「お前さん、そんなところで何やっとるんだ」

とりあえず今日は宿屋に帰ってシンクと合流しようと借りた椅子と木箱を返そうとした矢先、何やらモヒカンのおじいちゃんにそんな風に声をかけられた。
シンクの髪といいおじいちゃんのモヒカンといい、どうやって立たせてるんだろう?

「そりゃあウチの椅子だろう?」

「あ、これありがとうございました。助かりました。
明日もココをお借りしても宜しいでしょうか?」

「あァ!?お前さん勝手にここ使ってたんか!なんちゅー奴だ、ちょっとこっち来い!」

「えぇええぇ!?勝手に使って良いって言ったじゃないですか!」

「そんな事言った覚えはないわい!」

憤るおじいちゃんに襟首をがしりと掴まれ、ずるずると引きずられて集会所の中へと連れて行かれる。
何コレ酷い。理不尽だ。
しかしそれを口にする暇も無く、私は集会所の中に引きずり込まれてしまった。

「おいタマラ!タマラはいるか!」

「なんだい、そんな大声を出さなくたって聞こえてるよ。
アンタ何引きずってるんだい」

ずるずると引きずりこまれた集会所の奥は、物凄く雑多なところだった。
あちこちにコレでもかといわんばかりに譜業が積まれ、絶妙なバランスを保っている。
ちょっと突付けば崩れ落ちてしまいそうだ。
かと思えば設計図が机の上に山となっていて、別の場所では箱に入った部品が大量に積み上げられている。
ここは積み上げるのに命でもかけているのかと聞きたくなるほど、色んな場所に色んなものが積み上げられていた。

「コイツ、ワシ等の許可も取らずに集会所の前で勝手に店なんぞ開いておった!」

「あらまぁ、昼間のお嬢ちゃんじゃないの。もう店じまいしたのかい?」

「あ、はい。椅子と木箱、ありがとうございました。
あと助けていただけると助かります……」

どうやらタマラと呼ばれた初老のおばあちゃんは私のことを覚えているらしい。
引きずられている私に挨拶してくれたが、それよりも助けろ下さい。
いや、マジで助けて。

「なんじゃ、知り合いか?」

「馬鹿言うんじゃないよ!この子はちゃんと昼間に広場を使って良いか聞きにきただろうが!
自分が聞き流しときながら若いお嬢さんをそんな扱いして、何考えてんだいこのクソジジイ!」

「なんじゃと!?ワシがクソジジイならお前はクソババアじゃろうが!」

何やら私を掴んだまま、おじいちゃんとおばあちゃんが喧嘩を始める。
お年寄りが元気なのは良いことだが、私を掴んだまま喧嘩しないでほしい。
いい加減猫の子みたいに掴むのやめてほしいって私の願いってそんなに無謀なものだろうか?
そうか、無謀か、ちょっと泣きそうだ。

何かもう悟りでも開きそうな勢いの私だったが、そのうちタマラさんが持っていた物差しでべしべしとモヒカンのおじいちゃんを叩き始めた辺りでようやく解放されることになった。
伸びに伸びた服の襟首を引っ張って直しつつ、未だに喧嘩をやめない二人を見る。
これ、勝手に帰って良いのかな?

「なんだ、アンタこんなところで何やっとるんだ」

私が追いかけっこを始める二人を尻目に困っていると、もう一人お爺ちゃんが現れた。
モヒカンでもない普通のおじいちゃんで、事情を説明すれば呆れたようなため息が漏れる。
それは私に向けてのため息でしょうか。

「すまんのォ、イエモンは一度熱中したら周囲のことがおざなりになる。
アンタのことも適当に答えたんだろう」

「いえ、ところでアレ止めなくて良いんですか?」

「いつものことじゃ、ほっとけ」

もう一度ため息をついたおじいちゃんの名前は、アストンと言うらしい。
ついでにモヒカンおじいちゃんの名前もイエモンだとわかり、どこかで聞いた名前だなぁと思いながら私は明日も店を出して良いかと確認をした。

「別に構わんだろ。今日も特に不便はなかったからな。
だが集会所を使うときは遠慮しとくれ。なんなら毎朝顔出してくれりゃ良い」

「解りました。ありがとうございます。
それじゃあ、お邪魔しました」

「気をつけてなー」

タマラさんとイエモンさんが喧嘩しているのを背後に、私はアストンさんに頭を下げて宿屋へと戻る。
シンクはとっくに戻っていて、占い屋でコレだけ稼げたんだぜとドヤ顔で報告したみた。

「少なっ!」

「なんだとぅ!?」

失礼なシンクの発言に食ってかかれば、シンクは単発の仕事を一つ引き受けてきたとのこと。
何でも酒場で仕事を探していたら、入ってきたおにいちゃんに仕事を探していることを知られ、そのまま椅子型の自動マッサージ譜業を作るので力仕事が必要だとかで雇われたんだとか。
今日中に図面を引くので、明日以降力仕事をするらしい。

「……あのおにいちゃん、早速着手したのか」

「は?何?何か知ってるの?」

「多分私の所に着たお兄ちゃんだと思うんだけど……」

疑問符を飛ばすシンクに今日あったことを説明すれば、何とも言いがたい顔を浮かべる。
ついでに占いについてもきちんと説明してみる。
ちゃんと学問なんだよって言ったらシンクは意外そうにしていて、じゃあこれからのことを占ってみてよって言われて私はシンクを占ってみることにした。

「じゃあコレ机に広げて混ぜて」

「ハイハイ」

トランプを渡し、シンクが机の上に広げて混ぜる。
今からやるのは一番簡単な占いだ。
それから纏めたトランプを受け取り、いくつかの山に分けて机の上に置く。
最後に残した一枚のみを脇に置き、私は順番に山の上にあるカードを捲っていった。
流石に全てのカードの結果を覚えているわけでは無いので、専門書を横に広げながら順番に読み解いていく。

「えっと……苦労します」

「そんなの君と居る時点で解りきってるよ」

「やかましっ!あとは、自分の勘を信じること。それと目先のことに囚われて大切なものを見落とさないこと」

「何かありきたりなこと言って騙す悪徳商法みたいだね」

「じゃかあし!本当にそう出てるんだから仕方ないでしょ!
それと……警告?」

私の言葉にシンクが僅かに顔を歪めた。
詳細を聞かれたが、簡単な占いじゃそこまで解るわけがない。
なので最後に残った山のカードへと目を移す。

「ここは今一番注意すべき事柄が示されてるカードなんだけど……喪失を意味するカードだから、何かを失う前に気付きなさいねって事だろうね。警告のカードも一緒に出てるから案外近い未来のことなのかも」

「そっちの残ってるカードは?」

「コレは今一番守らなきゃいけない事柄で……心、って出てる」

「ねぇ、意味がわかんないんだけど」

「私だってイミフだよ。私の読み解く腕がまだまだ未熟ってことかねぇ」

腕を組んでそう頷けば、凄く胡散臭いものを見るような目で見られた。
凄く久しぶりな視線だが、そう結果が出ている以上それ以上言いようがない。

結局その後雑談へと移行した私達は、とりあえず私が日銭を稼ぎ、シンクが纏まったお金を稼ぐ事で話が決まった。
宿屋で出された夕食を食べてご満悦だった私の元に、宿屋のおばさんが訪れて占って欲しいと言って来たことはちょっとびっくりしたが。
何でも、キッチンで異臭がするので原因を探って欲しいそうだ。
コレじゃ占い師って言うより万屋だよ。銀ちゃんか私は。

結局占いをするまでもなく、異臭の元は腐った野菜がキッチンの流し台の下に溜まっていたことだった。ずっと譜業を作っていたので存在を忘れていたらしい。
なので明日材料が手に入るのであれば消臭剤を作ることを約束し、私は部屋へと戻ることができた。
あとおばさん、油のにおいで鼻が馬鹿になってるのは解ったからちゃんと対策したほうが良いとおもうよ。

私がベッドへと潜り込み、シンクが音素灯を消す。
ちなみにこの部屋はベッドが二つあるので、当然のように別々のベッドで眠ることになる。
何だろう、隣が寂しい。
今まではなんだかんだ言いつつ一緒に寝ていたので、こうして一人で眠るのが久しぶりすぎて違和感バリバリだ。

「……シンク、起きてる?」

「起きてるけど、何?」

「そっちで一緒に寝ても良い?」

なので素直に聞けば、何故かごんっという鈍い音が聞こえた。
何の音だろうと私が疑問符を浮かべていると、シンクがあのねぇ、と言ってこっちにやってくる。
何だろう、こっちで寝るのだろうか。

「アンタさ、その発言自分でおかしいと思わないわけ?」

「どこらへんが?」

「……カナって本当に女?」

「失礼な!私は正真正銘乙女ですよ!ちゃんと胸も付いてるでしょうが!」

「あぁ、僅かについてるね」

「わ、僅か!?」

はァ、とため息をついたシンクが私のベッドの端に腰掛けてくる。
そして布団を捲ったかと思うと、そのままもぞもぞと入ってきた。
なんだよー、結局入ってくるんじゃないかー。

「まぁいいや、僕も湯たんぽ欲しかったし」

「湯たんぽって私か」

「君意外に何かある?」

「まぁいいや、私もここの枕柔らかすぎて違和感あったし」

「枕ってもしかして僕の腕のこと?」

「他に何かある?」

軽口を叩きあいながら二人で狭いベッドの中に収まる。
シンクに抱きしめられながら眠るのももう慣れたもので、逆にこの状態でないと違和感を覚える自分が居てびっくりした。人生初体験である。

いつも通りの体勢に落ち着き、私は段々と襲ってきた睡魔に負けて瞼を閉じた。
シンクの腕の中が安心するのは、シンクが私を守ってくれる存在だと知っているからだ。
そうして私は夢の国に旅立ったため、ため息をついているシンクに気付かないまま翌朝を迎えることになったのだった。


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