02

訳が解らない。
全員の顔がそう言っていた。
それを見て笑っていたルークに促され、アルテミシアがかいつまんで説明をすることになった。
ちなみにルークはアルテミシアと渓谷で出会った際、既に説明を受けている。
ティアは説明を聞いても信じていないのでこの場合は論外だ。

オラクルとは、惑星から惑星を飛び回る戦艦の集合体のこと。
数百万という単位の人間がそこに住み、生活をしている。

その中でもアークスとは未知の惑星の探索や敵対生物との戦闘を担当する存在で、アルテミシアはオールドラントの探索を任命されたのだ。
サポートパートナーとは文字通りアークスの探索を補佐する存在であり、一人一体、希望者には最大三体まで与えられる。
アルテミシアはシエロとクロエというサポートパートナーを従えているが、クロエはキムラスカに派遣しているので今ココには居ない。

フォース/テクターとはクラスのことで、オールドラントで言う譜術師にあたる存在だ。
火力・補助・回復を引き受ける後衛職であり、その分体力と防御力が低い。
音素ではなくフォトンという力を利用してテクニック(オールドラント流で言う譜術)を発動させる。

「つまり、貴方は宇宙から来たと、そういうわけですか」

「はい。探索を任命されたものの右も左もわからない状態でした。その時ルーク様と出会い、護衛を引き受ける代わりにこの世界のことを教えていただく、という契約を結びました」

「にわかには信じられませんねぇ…」

馬鹿にするようなジェイドの台詞にティアが同意し、アニスはまるで痛い子を見るような目でアルテミシアを見ていた。
イオンも戸惑いが大きいようだ。

アルテミシアは全員の反応を見ると、突然空中に青白い板のようなものを出現させた。
そこにはフォニック言語ではない言葉が書き連ねられていて、アルテミシアが指を滑らせる。
すると突然アルテミシアの背中に長い杖が出現した。

「神杖アマテラス。私の愛杖です」

「まさか…コンタミネーション…?!」

「単純に武器パレッドに閉まっていただけですけど…コンタミネーションってなんですか?」

「確か…武器を音素に分解して体の一部にしまっておくこと、じゃなかったかな。
ジェイドが発明した技術の一つだが、危険だからって使用できる人間はコイツしか居なかった筈だ」

目を見開いて言葉を失っているジェイドの代わりにルークが説明をした。
アルテミシアはその説明を聞いて興味なさげに呟く。

「物質の量子変換すら危険視されているんですね」

「アークスじゃ珍しくないのか?」

「むしろ量子変換後圧縮して荷物の持ち運びが当たり前ですね。ここ数日で感じていましたが、随分と不便な星ですよね」

「着替えも全部それで操作して終了だもんな。楽そうだよなー」

「楽ですよ。あぁ、でも食材の美味しさはオールドラントが上ですね。ファームにて均一化された食材はやはり飽きるので」

「確かにエンゲーブのメシはうまかったなー。つかモノメイトもだけどさ、いつもあんなの食ってんの?なんつーか…微妙な味じゃね?」

「アレは回復薬です」

目の前で淡々と続く会話に全員着いていけないまま黙って口を噤んでいた。
多分理解できたのはアルテミシアからの説明を受けていたルークと、多少なり知識のあるジェイドだけだろう。
ルークは全員の反応を見てから鼻で笑うと、アルテミシアに向かって目の前で着替えてやれば?と告げる。

「ちょっとルーク、女性に向かってなんてことを!」

「良いですよ」

我に返った(話を理解できていない)ティアがとめようとしたが、当の本人であるアルテミシアがあっさりと了承した。
そして先程と同じように青白い板の上で指を滑らせたかと思うと、アルテミシアの身体が青白い光に包まれる。
そして次の瞬間には既に別の衣装を纏っていた。

「な…っ!?」

「え…!」

「ちょ…っ!?」

ティアとイオンが顔を赤くし、アニスが信じられないものを見るような目でアルテミシアを見た。

赤く艶めくしなやかな金属が、アルテミシアの肌を覆っている。
しかし覆われているのは腹部と、僅かな胸部、そして二の腕から下の腕のみ。
太ももから下は白の布には見えない素材が使用され、腰の両サイドには湾曲したユニットがつけられていた。
下腹部にいたっては、ビキニしか身に付けていない。
露出過多なその衣装に、三人は顔を赤くしたのだ。

「クレイジーキトゥンと言いまして、私のお気に入りのコスチュームの一つです。
ただこの世界の文化に合わないのと露出過多だと言われたので、今までは先程のアークスコートをまとっていました」

アルテミシアは羞恥心を感じていないらしく、笑顔で説明を続けるだけ。
ルークは三人の反応に笑いを噛み殺していた。

「……貴方がオールドラントの人間ではないというのは解りましたから、先程の服に戻してもらえませんか」

声こそ上げなかったジェイドも、視線を逸らしながら言葉を紡ぐ。
アルテミシアは再度青白い板へと指を滑らせ、青白い光が身体を包み込んだかと思うと服装が以前のものへと戻っていた。
呆然とする人間はさておき、場を仕切りなおすようにジェイドが口を開く。

「貴方のことは解りました。ルークと契約しているということも鑑みて法を犯さない限り不法入国に着いては多めに見ましょう。
もう少し進んだらルークと一緒に近場の町に降ろさせて頂きます」

「だからエンゲーブに送れつってんだろ。迎えに来ているのは将官だ。お前より地位も高い」

「先程も言いましたが、私は陛下の勅命を受けている身です。貴方は知らない以上仕方ないでしょうがこれは重要性の高い任務であり、」

「和平だろ?」

なんでもないように言ったルークの答えにジェイドが目を見開き、一瞬だけ固まる。
そして眼鏡のブリッジを押し上げて動揺を隠し、真剣な瞳でルークを見た。

「何故和平だと?」

「現在局地的な小競り合いが頻発し、一般市民達の間では開戦の噂も上がっている。
しかしキムラスカもマルクトもホド戦争の傷が癒えてない状態で戦争をするほどの余力は殆ど無いと言って良い。
賢帝と噂されるピオニー陛下がそんな現状を正しく理解していないとは思えない。
それに平和の象徴といわれるイオンを連れているしな。
和平だっつーのに戦艦で来ているのを見ると、障気が噴出しているとされるアクゼリュスの救援も和平に盛り込まれてる感じか?」

至極当たり前のように告げるルークに、ジェイドは笑みを消して口を引き結んだ。
温室育ちだと思っていた子息がココまで推測しているとは思わなかったのだろう。

「ルーク、貴方そこまで解っていながら協力を断ったの?やっぱり戦争になろうがどうでも良いって思ってたってことじゃない!」

「もう一度言うぞ。政治を知らない奴は黙ってろ」

「何ですって!?」

「この状態で協力ってーとオレにインゴベルト陛下への取次ぎを頼むってとこだろうが、こんな使者を取り次げばたちまちオレはキムラスカの笑いものになる。
激怒したキムラスカにより、和平どころか戦争になるだろう。
それが解ってるのに協力を引き受けるほどオレは馬鹿じゃないんでね」

ティアを睥睨しながらルークはきっぱりと断言した。
ジェイドが使者としてキムラスカ入りしたら、確実に戦争になると断言したのだ。
流石のイオンも聞き流せなかったのか、どういう意味ですか?とルークに尋ねている。
しかしルークがその問いかけに答える前に、ジェイドが先に口を開いた。

「貴方がそこまで頭が回るとは思ってはいませんでしたよ。
しかし推察されてしまった以上、あなた方を解放するわけにはいかなくなりました。
すみませんが、軟禁させてもらいますよ」

「…………」

ジェイドの言葉に、ルークは無言でジェイドを見る。
その視線に感情は乗っていなかったが、ジェイドはその真意に気付くことなく兵に連行せよと命令した。

こうして、ルークとアルテミシアはタルタロスの一室に軟禁されることが決定したのだった。





□ ■ □ ■ □




一方、少し時間を遡りキムラスカの首都バチカル。

キムラスカの誇るバチカル城では、突如出現した巨大な青いひよこに混乱していた。
ひよこはくるくるとした愛らしい瞳をしていて、首には蒼いリボンを巻いている。
しかしいかんせんデカイ。恐らくその身長は1メートルほどはあるだろう。
しかもその腰には刀をぶら下げているではないか。

そんなひよこが王城の中庭に突然出現したのだ。
すぐさま兵達が現れたが、ひよこは高くジャンプしたかと思うと兵達の頭を踏み台にして王城の中を駆け出し始めた。
そして見事な紅の髪を持つ男、クリムゾンの前にまで誰も傷つけることなく走り寄る。

クリムゾンは咄嗟に剣を抜き歓談中だったインゴベルトを庇おうとしたが、ひよこはそこで止まるとシュタッと膝を着いた。ように見えた。
何分足が短いので、膝を着いたとしても座っているようにしか見えないのだ。

ひよこは真剣な瞳をクリムゾンに向ける。
すぐさま駆けつけた衛兵がひよこを捕らえようとしたが、クリムゾンはそれに待ったをかけた。

「……私に何か用があるのか?」

「クリムゾン・ヘァツォーク・フォン・ファブレ殿とお見受けします」

ひよこが喋ったことに、兵たちが目を見開いた。
声は若い少年の声のようにも聞こえるし、少し声が低い女性の声にも聞こえる。
クリムゾンは一つ頷くと、ひよこは腰についていた刀を床に置いてから立ち上がり、一歩前に足を踏み出した。

「我が名はクロエ。
主人の命により、ルーク・フォン・ファブレ殿からの伝言をお持ちしました」

そう言って金色のボタンを床に置き、再度元居た場所に戻って膝を着く。
衛兵の一人がそれを拾って剣をしまったクリムゾンへと手渡せば、クリムゾンは今度こそ大きく目を見開いた。
それは間違いなく、ルークが手紙や衣服の釦などに用いている紋章。
ファブレの紋章にアレンジを加えた、ルークにのみ使用を許されたものである。

「間違いなく、ルークのものです」

クリムゾンがインゴベルトに告げると、インゴベルトはクロエと名乗ったひよこへと視線を移す。

「して、ルークからの伝言とは?」

インゴベルトの問いかけに、クロエは口…ではなく嘴を開いた。

ルークは無事であること。
クロエの主人であるアルテミシアを護衛とし、近場の町に向かっていること。
自分の身を優先するため襲撃犯はその場に放置してきたこと。
襲撃を受けた際の使用人や警護の者達の処分に関しては待って欲しいこと。
そして公務にストップをかけてしまうことに対しての謝罪と、母シュザンヌに自分が無事であると告げて欲しい、ということ。

クリムゾンとインゴベルトはその話に頷き、微かに安堵の息を漏らした。
ルークがレプリカの身であること、それはクリムゾンもインゴベルトも知っている。
しかしルークが類稀なる才能を持ってキムラスカの発展を支え、愛する国民たちを護ろうとしているのも、知っている。

クリムゾンもシュザンヌも、ルークをレプリカだと認めたうえで実子として向かえた。
インゴベルトもそんなルークを歓迎し、そしてダアトの目を欺くためとはいえ出奔したルーク(アッシュ)の代わりに軟禁することを申し訳なく思っていた。

そんな中、突如現れた襲撃犯によるルークの誘拐劇。
擬似超振動がタタル渓谷で収束したと報告が来た時はまさかダアトがマルクトと手を組んでルークを誘拐したのではあるまいかと疑ったものだが、この様子だとどうも違うようだ。

しかもクロエはルークと同行しているというアルテミシアの現在地を感知できるという。
渓谷から直でキムラスカに飛んできたらしいが、地図を見せれば今はココにいるとエンゲーブを指差して教えてくれた。

「すぐにマルクトに使者を送ります」

「うむ。ルークの保護と襲撃犯の指名手配だな。ダアトへも抗議せねばならんだろう。ヴァン・グランツはどうしている」

「妹は何か誤解をしている。ルークを狙ったわけではない。自分がすぐに探し出してくるなどと世迷言を抜かしております。現在は地下牢に」

「モースの耳には入れるな。何かと煩いからな」

「は。して、クロエといったか。
この後どうするよう指示を受けている?」

「キムラスカに残るか迎えに同行し、合流の手助けとなれと」

「ではキムラスカに残ってくれぬか」

「畏まりました」

こうしてアルテミシアのもう一人のサポートパートナー、クロエはバチカルに滞在しシュザンヌの玩具になることが決定したのだった。

ALICE+