03

「アルテミシア、言っとくがな」

「はい、なんでしょう」

「頼むからジェイドやティアみたいなのがオールドラントの軍人だと思ってくれるなよ?」

「それは解りますよ。これを見れば」

牢屋。
そこに連行されたルークとアルテミシアは、素直にそこに入った。
そして鍵のかかっていない柵の向こう側では、廊下一杯にマルクト兵達が全員土下座をしていた。

「で、これからどうしましょうか?」

「無理矢理にでも脱出してやるさ。こうなったらジェイドの所業をマルクトに叩きつけてやる」

「では壁でも削りましょうか。凍らせた後爆発させれば多分呆気なく壊れますよ」

「ルーク様ぁああぁ!我が師団長の不敬はお詫びします!お詫びしますからどうか!!」

腹に据えかねているらしいルークの台詞に、血を吐くような懇願が聞こえた。
ルークが視線を移せば、師団長補佐官だというマルコ中佐が額を床にこすり付けている。

「つってもな、アレがキムラスカに着いたら多分即戦争だぞ」

「解ってます!解ってますから戦争だけは…!」

「オレも戦争はごめんだ。だからマルクトに叩きつけるつってんだろ。
それでもっとまともな和平の使者が選抜されたらオレだって取次ぎくらいはしてやるさ。ま、和平の条件はキムラスカを有利なものにさせてもらうがな」

さらりと告げた言葉に、マルクト兵達はルークに後光を見たに違いない。
ジェイドを原因に開戦してもおかしくないというのに、ルークはそれでも使者の変更さえしてくれれば和平の取次ぎをしてくれるというのだから。

「しかしどちらにしろ捕らわれたままでは動きようがありませんよ。削った方が…」

「流石に最新鋭の軍艦に傷をつけるのはなぁ…」

そう言って二人は首を捻る。
マルクト兵達も我々が脱出させますから、とは言えない。
言いたいが、心の底から言いたいが、軍人である以上言えないのだ。
そんな中、マルコ中佐が覚悟を決めたようにルークに進言した。

「恐れながら申し上げます。私がグランコクマに鳩を飛ばします。
ピオニー陛下に奏上することはできませんが、軍部に届けば必ずや陛下のお耳に入るでしょう。
ルーク様の現状を告げ、和平の使者の変更を嘆願すればあるいは…」

「そうだな。それが一番か…じゃあ頼む」

「は!」

ルークに任されたマルコ中佐は、重大を使命を帯びた歴戦の兵士のようにその場を去っていった。
他の兵士達にも顔を上げるように言ったルークは、ジェイドに勘付かれないよう通常の業務に戻るよう言う。
渋った兵士達は話し合いの末、何人かをルークの護衛として牢の前に残し艦内へと散っていった。

「しっかしなぁ、あそこまで馬鹿な軍人ってのも初めて見たぞ、オレは」

「この世界の身分って…」

「結構厳格な筈なんだがな。そりゃマルクトはキムラスカよりゆるいだろうが……ピオニー陛下は身内には甘いって話だし、それで調子に乗ったのかもな」

「ティアはどうなんです?渓谷では軍人とは思えないほど弱かったのですが」

「アルテミシアが杖で殴って一発K.Oだもんな。レベル差もあるだろうが、避けるそぶりすら見せなかったからなー」

「戦いの厳しさを教えてあげるわ、とか言いながらすぐに気絶しましたからね。その後何とか自力でエンゲーブで辿りついたあたり、全く訓練を積んでいないというわけではないのでしょうが…」

「だとしても役に立たないだろう。前衛がいなきゃ何もできない後衛なんぞ軍には要らん」

「で、何故その駄目軍人代表ティア・グランツは拘束されてないんでしょうか?」

「同類だからだろ」

「あぁ、なるほど」

「本来軍ってのは位が上がれば上がるほど身分の高い人間に接することも増えるから士官学校時代に礼儀作法を叩き込まれるんだよ。その点、あの二人は礼儀を知らないという点で間違いなく同類だ」

柵の外に立っているマルクト兵のストレスがマッハを超える辛辣な会話である。
ジェイドの件もそうだが、ティアの件もそれを放置しているジェイドは駄目軍人であるという確認作業にしか聞こえない。

そうしてルークが駄目軍人二人を例に上げながらアルテミシアにオールドラント講座を繰り広げていたのだが、突然警報が鳴り響いた。
緊張感を煽る音にアルテミシアが咄嗟に腰を上げ、シエロが武器に手をかける。
管制官から神託の盾兵とライガを乗せたグリフィンの群れが向かっているという報告が漏れ聞こえた。

「ライガってあの…」

「そ、森に居た奴」

「グリフィンってそんなに大きいんですか!?」

「いや、アルテミシアが闘ったクィーンは群れの長だから特別でかいだけで、普通の個体はもっと小さい」

「ラ、ライガクィーンと闘われたので…?」

ルークの言葉に頬を引きつらせた兵士が、恐る恐るアルテミシアに問いかけた。
アルテミシアは小首を傾げた後、なんでもないように答える。

「? はい。
あのままチーグルの森にいたら人間に狩りつくされてしまうと聞きまして、危ないから移動するよう警告したら、私に勝てたら言うことを聞いてやると言われたので」

「どっちかってーと手加減するのに苦戦してたよな?」

「そうですね。テクニックを使用してしまえば恐らくすぐに死んでしまったでしょうし…しかし無事移動してもらえましたから、終わりよければ全て良しですよ。そうえいばルーク様、ミュウは?」

警報の鳴り響く中、呑気な会話を繰り広げる二人。
アルテミシアに言われてようやくミュウの存在を思い出したルークは道具袋の中を覗き込んだが、そこにはホーリィボトルを抱き枕代わりにしてすやすやと眠るミュウの姿があった。

「……寝てる」

「こんな煩い中でも寝れるとは、図太いですね」

感心していると、機関部が占拠されたという情報が管制官から漏れ聞こえる。
流石に避難しなければまずいかという状況になり、ルークは少し考えた後アルテミシアに一つ命令を出した。

「よし、アルテミシア。ちょっくらお前イオンのとこ行ってきてくれ」

「承服しかねます」

あっさりと言い切るルーク、ばっさりと切り捨てるアルテミシア。
ルークはそう来るだろうと思っていたのか、ため息をついて状況の説明を始めた。

「つってもな、今イオンについてるのは役に立たない導師守護役一名のみ。
機関部がやられたってことはマルクト兵も押され気味ってことだろう。
神託の盾兵の目的がイオンの奪還だけならココまでする必要は無い…が、ここまでするってことは多分何か裏がある」

「奪還、ですか」

「あぁ、バチカルでイオンが誘拐されたとヴァン謡将が言っていたし、守護役が一名のみということは正式な公務じゃないのは目に見えて明らかだ。
多分ジェイドが詠師の許可を得ずに連れ出そうとして、イオンが和平のためならとほいほいそれに乗ったとか…そんなとこだろう。
現在教団は導師派と大詠師派に二分化しているとも聞くし、下手したらこの騒ぎに乗じて暗殺、なんてことも考えられる。

今導師が亡くなったら流石にやばい。
幸いシエロも居るし、マルクト兵の護衛も居る。
だからお前はイオンの護衛に向かってくれ」

ルークの説明を黙って聞いていたアルテミシアは瞳を閉じてその内容を反芻した後、大きな大きなため息をついた。
そして廊下でイオン誘拐の件を耳にして顔を青ざめさせ今にも倒れそうなマルクト兵を見た後、ルークへと視線を移す。

「絶対、絶対、シエロから離れちゃ駄目ですよ!?
シエロは中遠距離戦もできないことはないですが、近距離戦こそ真価が発揮できるんです。絶対に離れないで下さいね!?」

「解ってるって」

「途中マルクト兵に出会ったら援護してルーク様の護衛を頼みますから、貴方達はルーク様を安全な場所にご案内してください」

ガクブルしているマルクト兵に告げ、長杖を手に持ったアルテミシアが牢屋から出る。
再度ルークに念を押し、シエロにルークを護るよう告げてから、一気に廊下を走り出した。



フォースの本懐は火力である。
大気中のフォトンを扱う才能がずば抜けて高く、飛びぬけた法撃力(オールドラントで言う譜術攻撃力)で敵を一気に殲滅しダメージを叩き込むのだ。
勿論回復と補助も可能だが、法撃力特化という点から見ても攻撃向きだろう。

そしてテクターの本懐は補助と回復にある。
回復力の底上げや回復範囲を広げるスキル、攻撃力・防御力を向上させるテクニックの威力を底上げするスキルなどを多く持ち、団体戦でこそ真価を発揮する後衛職だ。
高いPP(フォトンポイント)回復力を持ち、補助の合間にテクニックを使用して火力にもなれる。

そしてアルテミシアのクラスはフォースであり、サブクラスはテクターである。
即ちアルテミシアは火力・回復・補助全てを自らでまかなえるのである。

しかし弱点もある。
オールドラントでもそうだが、後衛職であるフォースもテクターも総じて防御力が低く、体力が低い。
防具であるユニットを最大限強化しているとはいえ、それでも前衛に比べれば紙といっていい。
特に前衛はフォトンを身体に取り込み肉体強化を得意としている職だ、比べる方が間違いだろう。

そしてその防御力の低さを高い回避力で補うのが、フォースの闘い方である。
ミラージュエスケープという、視覚情報を錯乱し無敵状態で一定距離を移動するというスキル。
即ちこのスキルを使っている間はどんな攻撃も無効化する、ということ。

この回避スキルを駆使して敵の攻撃を避け、攻撃を叩き込むのがフォースの闘い方なのだ。

そしてオールドラントでは、フォースの利点はもう一つあった。
杖を持っていれば相手は必然的に譜術師だと思う。
故にアルテミシアが詠唱の阻止しようとするのだが、テクニックに詠唱は存在しない。

存在するのはテクニックの威力を底上げするチャージのみ。
勿論チャージなしでもテクニックの使用は可能である。

チャージをしようとしまいとテクニックを使用した際の消費PPは変わらないので、基本的にフォースやテクターはチャージをしてからテクニックを使用する。
が、幸い敵が弱いのとPPはTPと違って自動回復するので、アルテミシアはノンチャージのテクニックを連発していた。

神託の盾兵には爆発をプレゼントし、途中虫の息だったマルクト兵には回復テクニックのレスタをかけ、ルークの護衛を頼んで廊下を突き進む。
前衛職のハンター達ほどではないがフォトンを体内に取り込めば多少の肉体強化はできる。
強化した筋力を駆使し、スピードを落とすことなく甲板まで突破したアルテミシア。

甲板に居た神託の盾兵を閉め落としてイオンの居場所をはかせれば、リグレットという幹部がタルタロスから連れて行ったという。
ルークの話した暗殺説が脳裏をよぎり、甲板から周囲を見渡して緑の頭を探せば遠くにぽつりと見つかった。

甲板から飛び降りたアルテミシアは、一気に平原を掛ける。
イオンを助けるために。

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