04

平原を走る。
大気中のフォトンを取り込み、肉体強化に当てる。
強化された筋力を駆使し、地面を蹴って距離を詰める。

アルテミシアの接近に気付いた金髪の女(リグレット)が振り返り様に銃を連発してきたが、全てユニットに弾かれて終わった。
確かにフォースであるアルテミシアのユニットは弱いが、それでも防御力は1200を超える。
この圧倒的なレベル差のおかげで、リグレットの銃弾など無いも同然だった。

いくら幹部格であるとはいえ、チャージしたテクニックだと殺してしまう可能性があると一瞬で判断したアルテミシアは杖を構え飛び上がる。

「喰らいなさいっ!」

雷鳴が響いた。

ゾンデ。
小規模な雷を落とす初級テクニックの一つ。
ショック(痺れ)の状態異常を付与することもある。

初級テクニックをノンチャージ、といっても先程のように根本的なレベル差のおかげでダメージは甚大だ。
痺れを起こしたリグレットが倒れ、戸惑うイオンに向かってアルテミシアは微笑んだ。

「ルーク様の要請でお迎えに上がりました」

「ルークの…ありがとうございます。でも、ココまですることは…」

「すみません、これでも最弱の威力なんです…」

イオンの言葉にアルテミシアは苦笑するしかない。
そしてアニスが居ないことを不思議に思い尋ねれば、親書を護るために戦艦から落ちたのだという。

「……失礼、導師守護役とは導師を護るために居るのでは?」

「はい。しかし親書を失うわけにはいきませんから」

「そういう問題じゃありません。つまり導師守護役は導師より親書を取ったということでしょう?それに親書って本来カーティス大佐が護るべきものでは?」

「ジェイドも忙しいのでしょう。師団長ですから」

なんとも頭が痛くなる返答を貰い、アルテミシアはため息をつきたいのをぐっと堪えた。
そして背後から蹴りを食らわされそうになったのを、リグレットと同じようにノンチャージのゾンデで止める。
振り返れば、仮面をつけた少年が地面に膝を着いていた。

「無詠唱とはね…やるじゃないか」

歪に笑う少年の根本的な勘違いを修正してやる気力は最早存在しない。
さっさと艦に帰ろうとイオンを促そうとしたが、ショックがかからなかったらしい少年が再度飛び掛ってきたためにアルテミシアは杖を横薙ぎに振り払った。

甲高い音がして、鳥の嘴のような仮面が割れ宙を舞う。
イオンが仮面が割れたことに目を見開いていたが、そもそも高威力を誇る杖はアルテミシアが装備すれば打撃力とて1200を超えるのだ。割れて当たり前である。

「シンク…貴方は…っ」

地面に転がるシンクと呼ばれた少年。
シンクは歯噛みした後、自嘲するように笑ってからイオンを見上げた。

「そうさ、アンタの予想通りだよ。成功作」

イオンが唇を戦慄かせ、二、三歩後ずさる。
が、アルテミシアは訳が解らず思わず首をかしげた。

成功作というのはおそらくイオンのことだ、ということしか解らないアルテミシア。
そしてイオンを見て、シンクを見て、二人を見比べて何となく二人が似ている気がして目を細めた。

「…………二人とも、兄弟か何かですか?」

「コイツと兄弟だって!?はっ、冗談じゃないねっ!」

「そんな悲しいこと言わないで下さい!僕達は…っ!」

「煩いっ!そんなの、成功作として必要とされたから言えるんだよっ」

感情的になるシンクに対し、イオンは身体をびくりと震わせるだけ。
ショックにかかったままのリグレットは地面に転がっていて役に立たないし、さてどうしたものかと頭を抱えたくなる状態だ。
イオンを連れて帰るだけなのにどうしてこうなった、というのが本音である。
そんな中、空を飛ぶ赤い椅子にのった派手な男性が登場し、アルテミシアはもうどうにでもなれという心境になった。

「シンク、貴方何をしているんです!さっさと導師を……リグレットは何故突っ伏しているんです?」

「そこの女にやられたのさ。顔を見られたから…殺さないとね。アンタも手伝いな」

「そこまで強そうには見えませんが…まぁ良いでしょう。丁度新しい譜業を試したかったところです。おいでなさい、カイザーディスト!!」

テンションの高い男性だなぁとか、いちいち声が大きいなぁとか、現実逃避気味だったアルテミシアの目の前に鈍色の馬鹿でかい譜業が現れる。
瞬時に脳が戦闘状態に切り替わり、訓練された身体は無駄な思考回路を排除して反射的にチャージしたゾンデを思い切り叩き込んだ。

次の瞬間しまった、と思うものの後悔しても既に遅い。
数字に換算すれば8000近いダメージを食らったカイザーディストはパリパリと帯電し、当然のようにその場で機能停止した。

「……わ、わたしのカイザーディストがああああぁああぁぁあ!」

絶叫が響き渡る中、パリパリという帯電の音がパチパチと火花の飛び散る音に代わる。
それを敏感に感じ取ったアルテミシアが手近に居たイオンとシンクを引き寄せ、抱きしめるようにして庇った瞬間カイザーディストは爆発した。
強大な爆音と共に破片が飛び散る。
ディストの悲鳴も聞こえた気がしたが、生憎爆音が激しかったので定かではない。

「……アンタ…」

「! アルテミシア!背中、背中は…っ!!」

アルテミシアに庇われた二人、シンクが呆然とアルテミシアを見上げ、イオンが慌てて爆発をモロに受けた背中を心配する。
アルテミシアは微笑んだ後、大丈夫だと言って背中を見せた。
所々コートが焼け焦げてはいるが、皮膚まで到達しているようには見えない。

「……良かった…怪我をしていたらどうしようかと…」

「強化に強化を重ねたユニットです。ちょっとやそっとじゃ壊れませんよ。でも服が焦げちゃいましたね…」

仕方ないと言うようにため息をつき、アルテミシアはタルタロスでもやったように青白い板のようなものを出現させる。
驚くシンクを余所に指を滑らせながら何か考えるそぶりをした後、アルテミシアの身体が青白い光に包まれ、次の瞬間には衣装が摩り替わっていた。

指先を除いた全身を覆う、艶めいた素材は布には見えない。
光を反射するその素材は独特な紋様が描かれており、身体にぴっちりと張り付いて女性特有の丸みを帯びたラインを強調している。
そして首周りや太ももから下の部分は、艶消しを施した黒い金属にも見える素材で覆われていた。
特に足はルークのズボンの思わせる形で、足先に行くほど太くなっている。
つまり下腹部もきっちりとラインが丸見えな訳だが、何故か腰からは黒い金属でできた尻尾のようなものが生えていた。

「よし!」

コスチュームを変更したアルテミシアは青白い板を消すと、シンクとイオンに向き直る。
すると二人とも何故か真っ赤な顔をしていた。

「……どうしました?」

「なっ、ななっ、な、な」

「七?」

「ちっがーう!!!!」

茹蛸のように顔を真っ赤にしたシンクの大声が響いた。
シンクよりも若干ではあるが耐性のあるイオンが視線を逸らしつつ、シンクの心を代弁する。

「アルテミシア…その…その衣装は一体…」

「これですか?ゼルシウスといいまして、私のお気に入りのコスチュームの一つです。これなら露出は低いでしょう?」

「露出しなきゃ良いって問題じゃないんだよ馬鹿!!」

「え?駄目なんですか?」

「その…体のラインが丸解りなので…」

イオンが頬を染めながらアルテミシアのコスチュームを再度見た。
おわんのような形をした胸や、引き締まったウェスト、そして丸みを帯びたヒップ。
艶めいた素材で覆われてはいるものの、かたちは丸わかりだ。

「うーん…じゃあ、こっちで」

再度青白い板を出し、コスチュームを切り替えるアルテミシア。
やはり普通の布には見えないが、セーラーと白いAラインワンピースをごっちゃにしたような衣装に二人はようやく安堵の息を吐いた。

「これでいかがでしょう?」

「はい。それでお願いします」

数時間もすればコートも自動修復されるということで、コートが直り次第そちらに着替えるとアルテミシアが告げる。
二人がそれを聞いていると、カイザーディストの残骸から頭が爆発したディストが飛び出してきた。

「貴方!!今のは何です!?」

「あ、死神も生きてたんだ」

「死神じゃありません!薔薇だっ、ば・らああああぁぁあ!」

「どっちでもいいよ。アンタゴキブリ並みの生命力だね」

「この麗し〜いディスト様が!!ゴキブリですって!!?」

キィキィと喚くディストと、それをあしらうシンク。
イオンはその光景にきょとんとしていたが、何とかアルテミシアが二人を落ち着かせてひとまずアルテミシアの説明から入ることになった。

アークスのこと、フォースのこと、テクニックのこと。
説明を受けた二人は先程アルテミシアがコスチュームを変更するところを見ていたため、驚きはしたものの疑うことなく信じる。

「素晴らしいです!是非!是非研究させてください!!」

「えっと…何か切り刻まれそうなので遠慮します」

「アンタの研究なんてどうでもいいんだよ。つまりアンタは預言を知らないわけだ」

「預言、ですか。ルーク様から聞きましたが、なんとも奇異なる習慣ですよね。
でもマルクトは預言離れが進んでいて、キムラスカは既に一人立ちを目指しているんでしょう?
常々疑問だったんですけど、教団って邪険にされてないんですか?」

アルテミシアの言葉にシンクとディストが思わず顔を見合わせる。
ヴァンからの情報に寄ればマルクトはともかくとしてキムラスカは預言にどっぷり浸かっていたはずだ。
それなのにひとり立ちを目指しているとはこれ如何に?

視線だけで会話した二人は、どんな話を聞いたのかとアルテミシアに問いかけた。

アルテミシアの情報は全てルークから来ている。
即ちアルテミシアの情報=ルークの情報なのだ。

「どう、と言われましても…音素のこととか、国のこととか、あと個人的な話でしたら…ルーク様は出生が特殊だとか、ヴァン謡将?という方に会ったら気をつけろとか、モースって言うヒキガエルと牛を足して割ったような人が煩いとか」

再度シンクとディストがアイコンタクトを取った。

出生が特殊って、思い切りキムラスカにレプリカってばれてんじゃん。

しかもヴァンのこと全然信用してませんよ、この口ぶり。

レプリカルークは自分に心酔しているとか言ってたけど、一体あの髭は何処をどう見てそう思ってたわけ?

モースがヒキガエルと牛を足して割ったようなと言い当てているということは、屋敷への軟禁もそこまで厳しいものではないということですよね??

結論。
計画、失敗するんじゃね?

「……ちょっとルークと話したいんだけど」

「私もです」

「別に構いませんけど…攻撃したらまた雷落としますからね?」

アルテミシアの言葉にディストとシンクは神妙な顔で頷いた。

国家権力の前では髭の壮大な計画など塵芥にも等しい。
アレはばれないように動いてこそ成し遂げる可能性が見える計画なのだ。
しかし疑われているとなっては計画の成功率はぐんと下がる。

こうしてイオン、シンク、ディストを引き連れたアルテミシアは、のんびりとタルタロスへと戻るのだった。








おまけ

「あの…リグレットは…」

「ほっとけば?」

そんな緑コンビの会話が帰り際にあったとか無かったとか。

ALICE+