お題箱SS詰め合わせ(秋の味覚)
「師団長」
「なに」
「栗はお好きですか?」
「は??」
ダアトの市街地から外れた平野。
近々行われる第四師団と第五師団の合同訓練場の候補地として下見に来たのだが、地面は硬く視線を遮るもののない平野は合戦場としてはなかなかに使い勝手がよさそうだった。
道中森を抜けなければいけないことが難点であるが、それも訓練だと思えば問題ないだろう。第一師団や第二師団のような大規模部隊ならともかく、第四第五師団ならば小回りも聞く。
そんな中見つけた栗の木。休憩と言われて近場を散策していたことで見つけたのだが、いがにくるまれた栗がごろごろ転がっている。
小腹が空いていた私の質問に珍しく師団長は素で聞き返していたが、私が指差した栗の木を見て納得したようだ。
「……あれが、栗?」
「はい。どうせなら焼いて食べましょう。私槍使って採ってくるので」
「他の槍使いが見たら泣くようなこと言うんじゃないよ」
師団長から呆れたようにため息をつかれる。
そんなこと言われても素手で栗を剥くのは出来ないことはないが、したくない。痛いじゃないか。
「食べたいの?」
「小腹が空いたので。ついでに持ち込んだ芋も一緒にあぶりましょう。私が採ってくる間に師団長には薪集めをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「まあ、時間的にも何か腹に入れた方が良いか」
師団長が空を見上げてレムの位置を確認しながら私の提案を採用したことで、それじゃあ早速と槍を持って栗の木に近寄ろうとする。
が、腕をとられて待機を言い渡されたかと思うと、その場にしゃがみこんだ師団長が手早く譜術を使った。
生憎と槍一本でここまでやってきた私に譜術の才能はない。そのため師団長の周辺に音素が収束したことは解っても、それが何の譜術か解らない。
譜術の正体が解ったのは、大樹を揺さぶるほどの豪風が栗の木を襲ったことによって枝に残っていた栗が大量に地面に落ちてからだった。
詠唱破棄と術名短縮をして限界まで威力を落としたタービュランスで一気に栗を落としたらしい。
「すごい。師団長もお腹空いてたんですね」
「手間だっただけさ。僕が採ったんだから薪は君が集めてきてよ」
「じゃあ栗の選別と下処理もお願いします」
「僕が?」
「はい。剥かないと食べられないので」
「……やっぱり僕が薪集めて来るから、そっちは任せた」
くるりと背を向ける師団長を見下ろしながらきょとんとする。
そしてああと気付いた。そうか、師団長は栗を採取して食べたことがないのか。
「宜しければ一緒にやりませんか? お教えしますよ。いざという時の食糧確保の方法は知っておくに越したことはありませんから」
私の提案に師団長の足がぴたりと止まる。こちらを振り返る金色の仮面越しに不機嫌そうに歪んだ唇が見えた。
栗の処理の仕方を知らない、ということを私が察したことに気付いたらしい。
「……笑えばいいだろ」
「なにを?」
ぶすっとした顔でまた歩み寄ってくる師団長に首をかしげる。
ふわふわとした緑色の髪を見下ろしても、師団長はこちらを見ない。
「栗の処理の仕方も知らないなんて、世間知らずだって笑えばいい」
「笑いませんよ」
「……」
「笑いません」
「……そう」
「はい。パパっとやっていまいましょう」
「ん」
そこから師団長に栗を踏んでいがを割る方法や、取り出した栗の選別方法などを実地で教えていく。
ついでに私の槍を突き立てて割る方法も見せる。素手で触ると痛いのだと教えたのに、素手で触って放り投げる師団長が少しだけ面白かった。
「実が軽い奴は駄目、穴が開いてても駄目、白っぽいのも駄目。駄目なの多すぎない?」
「白っぽいのと穴が開いてるのは虫食いの可能性が高いので。師団長、虫食べたいですか?」
「お断りだね」
「あと実が軽いのが多いのは師団長が譜術で落としたからです。基本的に落ちた栗を拾って食べるんです」
「僕のせいだって言いたいわけ?」
「実際師団長が落としたんでしょう」
「……悪かったよ」
水を張ったミルクパンに丸々艶々した栗を放り込みながらお喋りに興じる。
ぶすっとしながらもいがを剥いた栗の選別をする師団長に笑みが零れる。
足元にはまだ熟しきっていない栗が大量に転がっている。師団長がタービュランスで落とした栗だ。
「僕が譜術を使った時点で、栗の処理方法を知らないって勘づいてたんだろ」
「いえ。ただたくさん食べたいのかな、と」
「人を常に飢えてる大食いみたいに言わないでくれる?」
「実際よく食べるじゃないですか。まあ師団長は成長期ですから、普通のことかと」
「まあ……君に比べたら食べるのは確かだけど」
「良いじゃないですか。たくさん食べられるのは幸せなことです。実際私も成長期の頃は常にお腹が空いてました。ひもじいのは嫌ですよね」
「……まあ、そうだね」
選別を終えた栗を水に漬けている間に二人で薪を集める。
師団長の譜術で火をつけてもらい、焚火が出来たところでアク抜きをした栗にナイフを入れていく。
「あ、たまにナイフを入れると爆ぜる栗もあるので気を付けて下さい」
「栗が爆ぜるってなにさ。痛っ」
「そんな風に爆ぜます」
「……このまま火に放り込んだらダメなわけ?」
「そしたら焚火の中で爆ぜますよ」
「チッ」
「舌打ちしてもダメです」
面倒くさがる師団長に笑みが零れる。
そうして二人で大量の栗の処理を終えた後、おやつとして持ってきていた干し芋も一緒にあぶる段階になってようやく一息付けた。
「思っていた以上に手間がかかる……」
「こうした手間を知っていると、店売りの栗も安く感じますよね」
「知らないよそんなの」
「師団長は屋台で売ってる甘栗とか買わないんですか?」
「食事なら騎士団の食堂で食べられるのに、なんでわざわざ外に買いに行かなきゃいけないのさ」
「そりゃあそっちの方が美味しいからですよ。実際この栗よりも店売りの栗のほうが美味しいですよ、間違いなく」
「はあ? なんで。こんなに苦労したのに」
「採れたての栗って甘みが控えめなんです。お肉みたいに追熟した方が美味しいんですよ」
「ちょっと理不尽じゃない?」
「だからみんな売ってる栗を買うんですよ」
「納得した」
私の説明に師団長がげんなりとした顔をしたのでまた笑みが零れた。
時折栗が爆ぜる焚火の勢いに気を付けながら、栗が焼き上がるまで喋って暇をつぶす。
最早小休憩の域を超えている気がするが、これは非常時における食糧確保のための知識を獲得するためなので問題ないというのが二人の間での言い訳だ。
途中温まった干し芋を食みながら、三十分ほど時間を潰したところで槍で突いて焚火から栗を取り出す。
二人で熱いと言いあいながら殻を剥いてハンカチの上に栗を盛りつけ、最後の仕上げですと言ってとっておきを取り出した。
「なんで塩なんて持ち歩いてるのさ」
「食事の美味しさってモチベーションに直結するんで」
「腹に入れば一緒だろ」
「全く味がしないスープと、ちょっとでも味がするスープ。遠征の時に飲むならどっちがいいですか?」
「……後者」
「でしょう?」
「騎士団が遠征費用をケチりすぎるのがいけない」
「それはそう」
手持ちの塩を降りかけてようやく完成した焼き栗を、二人そろって口に入れる。
表面は冷めていてもまだ中は熱かったらしく、やっぱり二人して熱いと文句を言いながら口の中で栗を転がした。
「んっ、でもおいし。はふ」
「……ん。まあ、悪くないね。あづっ」
はふはふと息をしながら栗を口に放り込む。
塩で引き立てられた僅かな甘みを楽しみながら栗の食感に頬を緩ませる。
「師団長」
「なにさ」
「今度屋台の栗を買ってきますから、一緒に食べませんか」
「……いいよ、本当にこれより美味しいか確かめてあげる」
「そうですね。一緒に食べ比べしましょう」
にんまりと笑う師団長と一緒に栗を口に放り込む。
あっつ、と言いながら跳ね上がる師団長に笑おうとして、私もまた舌を焼いた熱さに口を押えて肩を跳ねさせた。
お題:寒くなってきたので芋やら栗やらをその辺の落ち葉で焼いてシンクに食べさせて欲しいです…!
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