「殺さないで」「嫌だよ」(2)
師団長は私が好きらしい。
師団長は導師イオンと同じお顔をされているからこそ、仮面で隠しているらしい。
師団長は……私を逃がす気はないらしい。
爆弾を三つ、連続で投げ込まれたようだった。余りにも衝撃が強すぎて未だに頭が回復していない。
固まる私を置いて師団長はさっさと立ち上がり、席に戻って仮面をつけなおしている。
そこで置いていかないで????
「ええと……」
「どうしたのさ」
「その、ですね」
「何?」
「……私は、どう反応すれば??」
未だ動きの悪い頭は、あろうことか自分で結論を出さずに師団長に助けを求めた。
元々頭を動かすより身体を動かす方が好きだし、兵士である私は自己判断よりも上に指示を求めることの方が圧倒的に多い。
兵士の仕事はただの駒となって上官の指示に従うことだ。下っ端が勝手に判断して動き回れば現場は混乱するだけなのだから。
だからつい師団長に助けを求めてしまったのだが、言った直後にこれを師団長に聞くのは違うのではないか? と流石に気付く。
けれど師団長は考えてくれるらしい。私の言葉にちょっと動きを止めたかと思うと、緩く握った拳を口元に当てて結構真剣に考えてくれた。考えてくれるんだ……。
「そうだね……まず、僕が好きならそう言えばいい」
「あ、はい」
「そうじゃないなら、全力で逃げるべきだ」
「逃げるべきなんですか?」
「僕の素顔を知ってるってだけで処分対象だからね。恋人だから、で融通を利かせれば……多分何とかなるけど」
「え……?」
私今処分対象なの??
呆然とする私の前で師団長は淡々と「私がすべき反応」について教えてくれる。
「それとお前が他に好きな男が居るって理由で僕をふるなら、口にしない方がいい」
「そう、なんです?」
「うん。僕がそいつを殺すからね」
「殺すんですか」
「そうだよ。だって惚れた女に他に好きな男が居るなんて、腹立たしいだろ?」
あ、そのあたりは普通の感覚を持ってるんだな、とか。いや、普通というには師団長の愛情は重すぎないか? とか。
頭の片隅で突っ込みながら師団長に提示された「私がすべき反応」とその理由について耳を傾ける。
今更だけどなんだこの会話。ようやく再稼働を始めた脳みそが冷静にツッコミを入れ始めた。
「ただ逃げるなら覚悟もすべきだね」
「そうですね……私じゃ師団長から逃げられる気がしませんけども」
「その感覚は正しい。僕もお前を逃がす気はない」
「ちなみに逃げた後に捕まったらどうなるんですか?」
「その場合お前はもう僕のものだから、僕の好きにするけど?」
「囲われるってことですか? え? 監禁されるとか?」
「そう。解ってるじゃないか」
「そうか〜〜そうなんだ〜〜」
あっさりと言われた言葉に動き始めた筈の頭がまた稼働するのをやめる。
いやいや理解したくないと駄々をこねる頭をぶん殴りたい衝動に駆られた。
動けよ脳味噌。私の脳味噌だろうが。逃げるな。一緒に困れ。
「あとは……そうだな。もしお前も僕のことが好きで、恋人になる場合だけど」
「はい」
「仕事に私情を持ち込む気はないから、これからも僕の補佐はしてもらう。融通を利かせたり、甘やかす気はない」
「はい」
「世間一般でいう、恋人とする行為は適宜相談の元実行したいとは思う。いわゆる身体的接触や、プライベートな時間の共有がこれにあたるかな」
「はい」
「ただ僕の素顔については黙っていてもらう。漏らされたら恋人でも処分しなきゃいけなくなるからね」
「はい」
私今業務連絡受けてる??
大真面目に告げられる今後の展開に「はい」としか言えない。むしろそれ以外何を言えばいいのか解らない。
しかしこれで話は終わりだったらしい。再度腕を組んだ師団長が僅かに首をかしげて言った。
「それを踏まえた上で聞くけど」
「はい」
「お前はどうしたい?」
誘惑するように、師団長が笑う。
提示されたいくつもの選択肢。さあお前はどれを選ぶと、弓のように唇をゆがめて選択を迫られる。
背中に汗が伝うのが解った。仮面越しに突き刺さる視線を感じる。
返答を間違えれば殺される。それを肌で感じて、拳を握り締めながら震えそうになる声を叱咤した。
「そう、ですね……ひとまず大前提として、師団長の素顔については他言しません。とここに宣言しておきます」
「へえ。それで?」
「その上で、お返事に関してはもう少し待ってください、と答えます」
「なるほどねえ」
待ってもらっていいですか? と問いかけると、師団長の性格上「駄目」と言われる可能性があるので断言をする形で宣言した。
幸い私の答えに師団長は機嫌を損ねることはなかったようで、足を組んで愉しそうに笑っている。
「返答の期限は?」
「……三日でいかがでしょう」
「いいよ。三日ね。それまで待ってあげる」
「ありがとうございます」
ひとまず猶予を得られたことに胸を撫でおろした。いつの間にか喉がからからに乾いていて、つばを飲み込むことでそれを誤魔化す。
ただくすくすと笑う師団長を見るに、秘密を漏らしたら本気で殺されるのは間違いないだろうからきちんと口を閉じておかねばならない。
「ちなみに他に好きな男は居るの?」
「居ません」
「そう。それは良かった」
にこやかに師団長が笑う。
心臓が早鐘を打っているが、多分これは恋愛的なトキメキではなく恐怖によるものだと思う。
私告白されたんだよね????
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