「殺さないで」「嫌だよ」(4)



 個室があって、食べられる味で、ほどほどにリーズナブルなレストラン。
 師団長のリクエストに私は友人とたまに足を運ぶ店へと案内した。
 個室は狭いが、そこまでお堅い店でもないので予約なしでも入れるのがいいところだ。

「ルビアはこういう店によく来るわけ?」
「たまに。この手の店は久しぶりに会う友人とゆっくり話したい時に丁度良いので」
「ああ、確かにほどほどに静かだね。会食をする時に足を運ぶ店ほど堅苦しくもない。味もまあ……悪くない」

 そう言って師団長はフォークを口へと運ぶ。レストラン側はまさかの師団長の来店にびっくりしてたけどね!
 お陰で給仕の人は見るからに緊張していた。別に摘発とか調査ではないからもう少し気を抜いてもらいたい。
 ただ個室とはいえ仮面を外す気はないらしい。綺麗な所作でフォークを動かす師団長を見つつ、私もまたナイフを動かす。

「ちなみに友人って男?」
「女です。殺さないで」
「そう簡単に殺したりしないさ。ルビアは僕を何だと思ってるわけ?」
「必要だと思ったら即座に息の根を止める人です」
「まあ……間違ってはいないな」

 そこは否定して欲しかったなあ、なんて思いながら切り分けたお肉を口に運ぶ。
 いつもならば美味しいとはしゃぐところだが、今は味がよく解らない。

「だって師団ちょ……失礼、シンクは必要なら私だって殺すでしょう」
「殺すよ?」
「確認なんですけど、私告白されましたよね? シンクは私のこと好きなんですよね??」
「したよ。もう忘れたの? お前そこまで記憶力悪かったっけ??」

 師団長は小首を傾げるが、小首を傾げたいのはこっちだ。
 何故好きだと言っている相手を即座に殺せると断言できるのかが解らない。

「いえ、普通好きな相手って殺すのに躊躇したりするものじゃないかな、と」
「ふうん、そうなんだ。僕は好きな相手だからこそ僕が殺してやりたいけどね」
「すみません、ちょっと解りません」
「そう? 他の奴にみすみす殺されるなんて嫌じゃない?」
「すみません、ちょっと解りません」

 大事なことなので二回言ったのだが、師団長には理解されなかった。
 何でって聞かれたけど聞きたいのはこっちだ。好きなら殺さないで。

「まあ安心しなよ。お前を殺すことになったら僕が貫いてあげる」
「それ私の身体に風穴空く奴ですよね?」
「痛みなんて一瞬だよ。嬉しいだろ?」
「どこを喜べば? 生かしてくださいお願いですから」
「……一思いに殺されるより、誰とも接触できないように部屋に繋がれるほうがいいってこと? 自分から言い出すなんて、お前結構大胆だね……」

 違う。そうじゃない。
 ちょっと引いた様子を見せる師団長につっこみたい。引きたいのはこっちだ。
 どうして選択肢が殺すか監禁するかの二択なんだ。

「シンク、一応言っておきますけど今のところ私の心臓は恐怖でドンドコ言ってるので欠片もアプローチになってませんよ」
「え? なんで?」
「なんで!?」
「こんなに優しくしてるのに」
「これで!?」

 理解できないという反応をされる。何度も言うが、それはこっちの台詞である。
 あと師団長の優しさって一思いに殺すことなんですか?? それ優しさだったんですか????
 師団長は驚く私にしばし考えこんだが、すぐに結論が出たのかまたフォークとナイフを動かし始める。

「まあお互いの価値観の違いを理解できたのは良いことだよね。来た甲斐はあった」
「たどり着くのがその着地点で良いんですか?」
「恋人になりたいなら互いの価値観の相違を理解するのは大事だろ? お互いの意見を尊重できればなおいいよね」

 師団長は自分の発言にうんと頷いている。
 間違ってはいない。きっとそれは理想的な恋人像だ。
 けれど物凄く納得がいかないのだが、これは師団長の言う価値観の相違のせいなのだろうか。

 首をかしげる私を置いて師団長はさっさとお皿を空にしている。
 だからお願いですから置いて行かないで下さい師団長。


前へ | 次へ
ALICE+