女体化×若返り×ディストレプリカの話(02)



 ディストよりパパラチアの名前を与えられ、私は第二師団の師団長付き秘書官として神託の盾騎士団に所属することになりました。
 そもそもの性別が違うことや年齢が離れていることもあり、レプリカの身ではありますが顔を隠してはいません。
 下手に隠す方が余計に怪しまれるでしょうと言えばディストも頷いたので、ディストの親戚と紹介してもらいました。最初から秘書官なんて高めの地位に就けたのも縁故採用ということであっさり通りました。

 日本じゃあからさまな縁故採用は嫌われましたが、オールドラントではそうでもないみたいですね。むしろ身元の保証がされているということで歓迎されるようです。
 軍なんて特に秘密保持に気を使う職場ですし、マルクトやキムラスカの紐付きでないという保証がきちんとあることと、教育が施された人材というだけで縁故採用の価値はあるとみなされるようです。
 日本の教育っていうのは世界的にも水準が高いと言われていましたが、変なとこで実感しましたね。四則計算がスラスラできるだけで褒められたのは小学生以来かもしれません。

 しかしこの身体、ディストをベースにしているだけあって頭の良さが半端ない。
 大抵の資料は一度読めば覚えられますし、計算するのも早い早い。お陰で新しい知識を仕入れるのがとても楽しいです。難しい単語がいっぱい並んでいる筈なのに面白いくらい理解できます。
 ディストも私の頭の良さを前提に色々と資料を渡してきます。神託の盾の規則を頭に叩き込み、研究資料を読みふける私に新しい読み物を容赦なく積み上げていきます。

「給料を払う以上、必要な知識は早急に身に着けてもらいますよ」

 という理由らしいです。
 まあ至極真っ当な言い分だと思いますし、前述の通り私自身知識を詰め込むのが面白かったのもあり、素直に頷いてどんどん知識を詰め込んでいきます。解らないところはガンガン質問します。
 最初は鬱陶しそうに関連資料を渡されましたが、ある程度知識がついて多少議論ができるようになるとそれが面白くなってきたのか、だんだんディストの教育にも熱がこもってきました。

 一応神託の盾騎士団の一員として戦えるようにならなければいけないんですけど、極限まで小型化したレプリカ製造用の音機関から小型爆弾をその場で複製して戦うというアイディアを出してみたんですよ。
 ディストも面白いと思ってくれたらしく、いかにして実現するか議論していた時などは互いに熱中しすぎて徹夜してしまいました。最終的にコストパフォーマンスが悪すぎるということで没になりましたけども。
 それ以外にもレプリカでドナーを作っての移植手術など、前世の知識をこちらでも利用できないか話し合うのは結構に楽しかったですね。
 頭の中で日本人だった頃の私が『急募:倫理観』の看板を掲げてましたが、世界が違えば常識も違うということでスルーしておくことにしました。

 そうして時折ディストと議論をしつつも必要な知識を付けたところで本格的にお仕事開始です。
 秘書官である私の仕事はディストの補佐です。彼のスケジュール管理や師団の予算チェック、人員整理など仕事は多岐にわたります。
 数千人単位の師団員を管理・統括しているわけですからお仕事はいっぱいあるわけです。

 でも一番喜ばれたのはディストのクッション役になったことでしたね。
 なにせ一度自分の研究に打ち込むと食事も忘れてのめり込みますからね。会議の類をすっぽかさないように研究室から引きずり出し、会議室に送り出すのも私の仕事なわけです。
 ディストが人とコミュニケーションを取るのがドベタくそなのもあって皆さんこの手のお仕事をだいぶ嫌がっていたようで。

 まあ気持ちは解りますよ。
 テンション高い時はひたすら研究の話かジェイドの話しかしません。一方的に自分の興味のある話しかしないわけです。そりゃ嫌がられる。
 かといって会議の時間ですよと研究を中断するように言うと癇癪起こして嫌味が飛んでくるので、これの相手をするのもまた面倒くさい。

 あとディストっていっぺん相手のことを馬鹿だと認定するとすんごい冷たい目になって、話す価値がないと切り捨てちゃうんですよね。
 派手なメイクこそしてますが、顔が整っている上に背も高いので威圧感が凄い。そんな人物に高いところから冷たい目で見降ろされるわけです。地位の高さも相まってだいぶ怖がられてました。
 そりゃあ誰も秘書の仕事なんてやりたがらないわけですよ。まあ私は気にせず給料もらってんだから仕事しろと尻を蹴っ飛ばして送り出すんですけど。

 私の身体の研究もちまちまと進めています。ディストとしては私の話を聞いたうえで第七音素が記憶粒子が変質したものである、というところに着目したようです。
 この記憶粒子にアクセスし、情報を書き換えることで生成されるレプリカに手を加えられないか本格的に研究を始めました。つまり遺伝子組み換え技術ですね。
 レプリカはオリジナルに比べると劣化がみられるのが特徴ですが、後発的にこの遺伝子組み換え技術を用いることで劣化をカバーできないか考えているようです。
 情報提供している上に時折議論に参加している以上私も同じ穴の狢なのですが、頭の中では相変わらず日本人だった頃の私が『急募:倫理観』の看板を掲げています。
 一生懸命自己主張してるんですが、知識欲と研究欲に負けてます。この身体の頭が良すぎるのがいけない。

「パパラチア、仕事です」

 そんな風にディストの秘書官をしつつ研究の手伝いをする日常が出来上がったところで、新しいお仕事が言い渡されました。紹介されたのは導師イオンのレプリカの内の一体だという子供でした。
 導師イオンが自分のレプリカを作ることを了承したとは聞いていましたが、既に作成されていたんですか。私は関わってないので知りませんでした。
 刷り込み技術がされたレプリカは自我が気薄なのが特徴ですが、彼の目は既に憎悪にまみれています。つまり作成されてからそれなりに時間が経っているということ。

「彼は?」
「廃棄されたレプリカの内の一体をヴァンが拾ったそうで。身体能力の高さを見込んで神託の盾に入隊させたいとかで、記憶粒子組み換え技術を使えと預けられたんですよ」
「馬鹿言わないで下さい。あの技術はまだ植物実験の最中でしょう。それなのにラットも経由せずにいきなり人間のレプリカで記憶粒子組み換え実験をしろと?」
「私だってそう言いましたよ! ですが本人の強い希望もあるからと押し付けられたんです!」

 地団太を踏んで怒るディストにため息をつきます。ちなみにこれは別に人道的な問題で怒ってる訳じゃなく、研究に口出しされて怒ってるだけです。なので放置で問題ありません。
 こちらを睨むように見上げる少年に改めて向き直り、名前を聞けばシンクと一言だけ返されました。

「シンクですね。見てわかると思いますが、私も貴方と同じレプリカです。被験者はそのうるさい男です。まあ年齢も性別も違うので、ある種の失敗作ではありますがね」
「あんたも、失敗作?」
「ええ。まあ色々違いすぎるので実験体兼補佐役として今は彼の秘書官として神託の盾で働いています。なので貴方が神託の盾に入るなら先輩にあたりますし、貴方が希望しているという記憶粒子組み換え技術は私がベースになっています」

 そう自己紹介をすれば訝しげな顔をされました。
 何か引っかかったようですね。どれでしょうかね。まあ気になるであろう事実を色々並べ立てた自覚はあります。
 が、質問はあとにして貰いましょう。

「御覧の通り、私はオリジナルと違いすぎるでしょう? この違いを人工的に再現できないか、というのが記憶粒子組み換え技術なんです。ただ私の存在は偶発的な事故で生まれたようなものですから、それを人工的に再現するとなるとまだまだ不安定な技術といわざるをえません。どんな不具合が出るかもわかりません。下手をしなくとも肉体の強化になるどころか弱体化すればまだマシ。死亡してもおかしくない。貴方が希望しているという技術はそういうものだと理解していますか?」
「承知の上だ」

 吐き捨てるように言うあたり、覚悟は出来ているというより自棄になっているように見えます。
 私は視力の弱さを補うために与えられたメガネのブリッジを押し上げながら、澱んだ目をしている子供を改めて見下ろしました。

「何故そうまでして神託の盾に入りたいんですか? あなたのベースは導師イオンです。素質は充分。その上で身体能力が高いというのであれば、順当に訓練した上でヴァンの後押しを受ければ神託の盾で出世するのも難しくないと思いますが」
「預言へ復讐するためだ」

 キッパリと言われた内容にディストが鼻白むのが見えました。
 ま、言わんとすることは解りますよ。預言なんて形のないものへの復讐なんてばかばかしいと思っているのでしょうね。どちらかと言えば私もその口です。実にナンセンスです。生産性の欠片もない。
 ですがまあ、既に思考が凝り固まっちゃってるみたいですからねえ。ヴァンに誘導でもされましたかね。下手に嘴を挟めば逆に私が始末されかねません。それは流石にごめんです。

「そうですか。ディスト、本当にやるんですか?」
「やれというのがヴァンの命令ですからね。データが増えると前向きに考えるしかありません」
「未知の要素が多すぎてまともなデータ採取も出来なさそうですがね。実験というのも烏滸がましい試みですよ」
「一言一句同意しますが、パトロンの命令ですから。ひとまず神託の盾に入れるなら貴方とは逆に肉体を成長させる方向でいきます。安定するまで貴方が面倒をみてください」
「わかりました」

 ため息をついたディストがぶつくさと文句を言いながら音機関の準備を始めます。
 それを横目に荒んだ目でディストを見るシンクに声をかけました。

「話は聞いていましたね? 貴方の身体が安定するまで私が補佐をしますから、ディストと私の指示には従ってください。先ほども言ったように今から貴方の身体に施される技術は正しく未知の技術です。少しでも身体に異変を感じたら即座に私に報告するように。解りましたね?」
「わかった」

 お返事は素直ですが、はたしてどこまでいうことをきくのかどうか。
 ため息を呑み込み、意識を切り替えてまずは現在のデータを採ることにしましょう。比較材料にするにも然程役に立ちませんが、無いよりマシですからね。
 相変わらず私の頭の中では日本人だった私が『急募:倫理観』の看板を掲げてますが、その倫理観に従ってこの子を庇っても私の立場が悪くなるだけなんですよね。
 今は秘書官として働けていますが、下手にヴァンに逆らえば実験動物以下の扱いになる可能性も否定できません。なので日本人だった私には諦めてもらうしかありません。まだ死にたくありませんからね。

 そこまで考えてまだ名前を名乗っていないことに思い至りました。
 シンクからすれば私に興味はないでしょうが、一応これから私が面倒を見るわけですから呼ぶ名前がある方が便利ではあるでしょう。

「そういえばまだ名乗っていませんでしたね。私はパパラチア。もし貴方が生き延びたのならそれなりに顔を突き合わせることになるでしょう。パパラチアでもパパラッチャでもラチアでも好きに呼びなさい。先輩、でもいいですよ」
「ラチア」
「ええ。それで構いません。改めて、よろしくお願いしますね」

 握手のために右手を差し出せば、訝しげな顔でこちらを見上げるシンク。
 右手を差し出す気配がないのでシンクの右手を取り、無理矢理握手の形を取ります。

「神託の盾に入るなら円滑な人間関係の構築ができるに越したことはありません。その辺りも教えていきましょうか」

 そう言って笑えばシンクは解りやすく口をへの字にしました。失礼な子供ですね。
 そんな顔してもダメですよ。強くなるだけじゃなくて、ちゃんと勉強もなさい。


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