2026年キスの日SS詰め合わせ(無意味な祝福、無自覚の憧憬)
「ねえ、今日一緒に寝てほしい」
「はァ??」
とある休みの日の夜、ルビアが枕を持って突撃してきた。
こいつがボクの部屋に突撃してくることはままあるからもういい。諦めた。
だが一緒に寝てっていうのはどういうことだ。仮にもお前は女だろうが。
「お前自分の性別解ってる?」
「解ってるよ。でも……どうしても、寂しいんだ」
そう言って俯く目にはじんわりと涙が浮かんでいた。枕を握る手はきつく握りしめられ、血が出るんじゃないかってくらい下唇を噛み締めている。
ホームシック、という奴なのかもしれない。ボクには理解できないが。
「大好きなパパはもう居ないもんね?」
試しに嫌味を零してみても返答はなかった。ただぎゅっと目を瞑ってほたほたと涙を流している。
ため息が漏れた。まだこいつがダアトに来たばかりの頃だったら突っぱねられただろう。
けれど今では……躊躇われる。嫌味に噛みつき返せるほど余裕がない、と解ってしまえばなおさらに。
「はァ……今回だけだからな」
「いいの?」
「そこで置物になられても邪魔だからね……ほら」
しゃくりあげるルビアを寝室へと手招く。
ぐずりながらもボクの服の裾を掴んでついてくるルビアを布団に押し込み、音素灯を消してボクもまた布団に潜り込む。その間もルビアは無言で、ただ申し訳なさそうにボクを見上げていた。
いつもみたいにうるさくないとどうも調子が狂う。その態度から、本来なら良くないことだと自覚していながらどうしても耐え切れなかったのだ、と解ってしまうから余計にか。
けどこちらへと伸ばされかけて、結局引っ込んだ手は無視した。流石にしがみつかれるのはごめんこうむる。
「寝ろ」
「……うん」
まだぽろぽろと泣いてる。すんすんと鼻をすすりながらぎゅうとその身体を丸めて。傷ついた野生動物のように。
これいつまで続くんだ。流石に横で泣かれ続けるのは鬱陶しい。やっぱり追い出してしまおうか。
「ねえ」
「なに」
「おまじないしてほしい」
「おまじない?」
「うん。いい夢が見れるおまじない。小さい頃、してもらったんだ。こんな風に」
もぞりと上半身を起こしたルビアが、覆いかぶさってくるようにしてそっとボクの額に口づけた。
柔らかな唇が額に触れ、思わず目を見開く。が、見上げても緑色の瞳から垂れ流しにされている涙があるだけで、その表情は無に近い。
色など欠片もない接触だと理解するには充分で、同時に本気で精神的に追い詰められている様子に肺の中の空気を全部出す勢いでため息をついた。
はたはたと落ちて来る雫が、ボクの頬に、額に、極小の水溜まりを作っていく。
「お前くらいだよ、ボクにそんなことをねだるのは」
身体を起こし、ルビアを寝かしつける。
布団をかけなおし、暗闇の中でこちらを見上げる緑色の瞳と視線がかち合う。
「さっさと寝な。夢の中でパパと遊んでくればいい」
自分がされたように、額に唇を触れさせる。
それだけで緩んだ眦から涙があふれ、米神を伝う。それを指先で拭ってからボクもまた布団に潜り込んだ。
「おやすみなさい、兄さん。いい夢を」
そんなもの、ボクは知らない。
けれど口にすることなく無言を返せば、やがて静かな寝息が聞こえてきた。何とか寝つけたらしい。
もう一度身体を起こして顔を覗き込む。眠ったまま泣くなんて器用な奴だなと思いながら、眦に溜まった涙をそっと唇で拭った。
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