2026年キスの日SS詰め合わせ(親愛も恋慕も何もかも)
シンクと恋仲になってから、シンクが私の部屋に泊まりにくるようになった。
元々私室へ立ち入ることは許可していたので慣れた顔をしていたが、流石に一緒に眠るとなると緊張が勝るらしい。
音素灯を消した暗い部屋で一緒に布団に潜り込み、恐る恐る抱擁の許可を求めるシンクに頬が緩む。
「おいで」
シンクは自分の感情を吐露するのが苦手だ。
嫌味や皮肉はぽんぽん出て来るのに、二人きりになってもなかなか本音を聞かせてくれない。
だから恋仲になった以上、これからはもっと甘やかしてやりたいとも思う。
ベッドの中で互いに抱きしめ合う。私と違って鍛え上げられた肉体は硬く、頼もしい。
この腕の中に居れば怖いことなんて何もないと知っているから、自然と安堵の息が漏れた。
「……変なこと言っていい?」
「どうしたの?」
「怖く、なるんだ。明日目が覚めたら、全部夢だったんじゃないかって。こうしてルビアが腕の中に居ることも、ルビアが僕のことを好きだって言ってくれたことも。全部」
「……夢じゃないよ。私はシンクが好きになったから、こうしてる。そうじゃなきゃいくら信頼してても一緒にベッドに入ったりしない」
「うん。解ってる。でも……幸せなのが、怖い。こんな失敗作のレプリカが幸福を得るなんて、おかしいだろ。僕は、本当はあの火山で溶岩に落ちて死んでるんじゃないの。今は死ぬ前に見てる長い長い夢を見てるだけなんじゃないかって……怖くなる」
幸福すぎて怖いとシンクは言う。
私を腕の中に閉じ込めて、逃げ出さないように、煙のように消えてしまわないように、存在を確かめるようにきつくきつく抱きしめる。
幸福というものに、シンクはどうも慣れないようだ。いっそ溺れて何も考えられなくなってしまえばいいのに。
とはいえシンクが珍しく自分から不安を吐露しているのだ。
早速甘やかす機会がきたようだと、私は腕を伸ばしてシンクの頭を抱えこむように抱きしめ直した。
子供をあやすように背中をたたく。シンクは一瞬だけ藻掻いたが、すぐに私の胸に顔を埋めた。
「もし、これが長い夢で、目覚めたシンクがあの火山の中に居たとしてもよ?」
「……うん」
「きっとシンクは、溶岩に落ちて死んだりしない。だって一度生き延びたんだもの。何度だってそのチャンスを掴める。シンクはその強さがあるって、私は知ってる」
「そうかな……」
「そうだよ。私が保証する。大丈夫。シンクは私の言葉が信じられない?」
数瞬の沈黙の後、シンクは胸に顔を埋めたままふるふると首を振った。
そうだろう。私はシンクにだけは嘘をついたことはないのだ。
シンクの反応に頬を緩ませながら、柔らかな緑の頭を撫でる。するすると指通りの良い髪は、私と同じ洗髪剤の匂いがした。
「そうして生き延びたら、シンクはヴァンに拾われるでしょう?」
「だろうね……また血反吐を吐くくらい鍛えられるんだろうな……」
「うん。そうして、強くなって。そしてまた私に会いに来て」
「え……?」
私の言葉にシンクが顔を上げた。
目をぱちくりさせるシンクの頬に触れるだけのキスをして、残酷で身勝手で、けれどシンクが一等喜んでくれるであろう言葉を続ける。
「また、私に恋をして。私も、何度でもシンクを好きになるから」
私の言葉にシンクは唇を戦慄かせ、そのまま一文字に引き結んだ。
暗闇の中、僅かに眉根を寄せているのが見える。骨が軋むくらいにきつく抱きしめられたかと思うと、私の腕に手を添えてそっとキスを落とされた。
「うん」
返答が絞り出される。
「例えこれが夢だとしても、必ず、君に会いに行く。何度だって」
切なる祈りにも似た言葉と共に、また抱きしめられる。
私にしがみ付く力強い腕は、いつだって安堵をくれる。きっと、何度繰り返しても。
そんな確信と共に、私もまたシンクを抱きしめる。
その硬さと温もりが私を守ってくれるものだと、私は心の底から知っているのだ。
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