二話





「ありがとうございます、お会計もってもらってしまって…」
「いや、あんたのおかげでちゃんとした飯が食える。ありがとな」

学生に見える彼女一人には多すぎるような、沢山の野菜が入ったエコバック。きっと家族の分も含まれるのであろうそれは、時間帯も相まって酷く不釣り合いなものに見えた。きっと学生時代に見ていた同級生の女子より酷く華奢な体躯をしていることもあるのだろう。大きな袋を抱えてふらつく姿は、ひどく危うい。思わずうっかり、支えたくなるくらいに。

「親御さんは」
「え、っと」

ゆらり、闇に沈んだように瞳が揺れる。しかしそう感じた直後、瞬きをする間にその揺らぎは霞のように消え失せていた。代わりに舞い戻ってきたのは、下がった眉と曖昧な笑顔。

「ちょっと体調を崩していて…」

ゆっくり地に落ちていく視線が、どうにも疑わしい。非行に走っている訳では無さそうだが、これは ‘ 嘘 ’ だと、直感がそう告げていた。

「送ってく」
「え」
「ああ、安心してくれ。別に怪しいもんじゃねぇ」

目を丸くした少女に、キャップとサングラスを少し上げて見せる。これで俺が誰だか分からない人間は、あまり居ないだろう。ヒーロー免許を見せてもいいが。
すると少女は、不自然なほどぴたりと固まり、縫い付けられたように動かなくなった。一瞬にして顔が青ざめ血の気が引き、乾いた唇がわななく。動揺して身動きが取れないでいると、目の前の身体がぐらりと傾いた。

「、おい!?」
「ひーろー、しょー、と…?」

細い肩を掴むと、どこにそんな力がと疑問になるほど強く抵抗される。暴れている、といった方がいいかもしれない。

「やだ、やだ、たすけ、だれか…!」
「おい、急にどうした…!?」

あまりにも、様子がおかしい。通りには人気がなく、ぐるりと辺りを見回した少女はそのことに気付くと息を詰まらせ身体をくの字に折り曲げた。はっ、はっと吐く息が浅い。過呼吸を起こしているらしく、かひゅっと時折嫌な音が漏れる。

「おと、さん」

ぽつり、余りにも小さな声で親を呼ぶと、少女は急に気を失いふっと身体から力が抜けた。倒れそうになるところを慌てて支え、顔を覗き込む。規則正しい呼吸音が聞こえてきて安心したのも束の間、目尻に光る雫に気付いてぎょっとした。

「なんだってんだ…」

途方に暮れた自身の声が、掠れて聞こえる。
それに呼応するようにぽろりと零れた一雫が、彼女のまだ青白い頬を滑り降りていった。

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