フランス人形のような彼女

イライラする。

俺が小さな嫌味を言っても彼女は小さく笑みを浮かべるだけで、まるで気にも留めていないようだ。ボーカルトレーニング中、優しい隆二は俺をなだめるので必死だった。初めてこいつの声を聴いた時、ああ、なるほど、とアツシさんのお墨付きという理由が分かった。広い音域を安定して操れるこいつは驚くほど歌が上手だ。初めは頼りなかった声量もトレーニングをこなしていくほど、全く問題がなくなった。

俺たちが2年間頑張り続けたものを彼女が簡単に追いつくのが、面白くなかった。
別メニューだが一緒にこなす、体を作るトレーニングも弱音を吐かずに黙々とこなす、彼女の体は出会った時とは違い、健康的な引き締まった筋肉が彼女のスタイルを一層より良いものへと変えていた。

「隆二、終わったら飯行こう。」
「あ、ああ。」

ちらりと紫苑を確認する隆二だが、譜面とにらめっこしながら聞いていないのか、リズムを刻んでいた。
「紫苑は?行かない?」
隆二が声を掛けてやっと顔を上げる。彼女はちらりと俺を見た後に、「お二人で楽しんできて下さい。」と穏やかな声で言った。こいつのこうやって空気を読むような動作もいちいちむかつくのだ。

「一年だけだから、仲良くならなくてもいいもんな?」
「おい、臣。」

「今市さんと、登坂さんのお二人はとても仲いいですよね。」
紫苑はまた笑顔を見せて、譜面へと顔を戻した。



「臣、さすがに露骨すぎるだろ。」
二人で食事に来て、隆二は少し怒った顔で俺を見る。
「隆二もいなくなって欲しいって思ってるくせに、優しくするなよ。」

「いなくなって欲しいって思ってるわけじゃないよ。実際、彼女のおかげで俺たちの曲もよくなってる。」
確かに、彼女がいることで今まで以上にいい曲が出来てる。だけど、やっぱりこの2年頑張ってきたものがないがしろにされてるような気がするのだ。
「ま、それは臣もわかってるよな。」
隆二はそのあとやっとご飯に手を付けた。

「ただ、彼女自身、俺たちへの距離が半端ないよな。」